10話 激闘・地球軍とコンプレクシティ
「少しぶりですね、冬嫁」
メイド…彩美は静かに声を出す。
まだ変異はしていない。
「彩美、教えて欲しい、どうして君はコンプレクシティに参加したんだい?」
冬嫁は、好機等は全て無視していた。
正々堂々と戦闘となることを望んでいた。
「君は地球の人間だろ?どうして、コンプレクシティに…」
「許せなかった、私の家族は地球軍に殺されたのです」
彩美は両拳を固め、必死に涙をこらえていた。
「まだ地球に人間が住んでいた頃、能力者狩りを始めとして、様々な計画を地球の人間が行いました。その中で当初、私の家族はまだ能力者の予備軍であったにもかかわらず、危険人物と認定されて、報道の中で公開処刑されたんです」
「そ、そんなことが…」
冬嫁は、聞くべきではなかったと、後悔しつつ自分自身も同じ地球人であることに寒気を覚え両目を閉じた。
「だから私は・・・お前も含め、地球の人間を殲滅することに手を貸したわけよ!」
彩美の声の変化に冬嫁は、はっ!と目を開ける。
金色の髪、全身のいたるところに現れる黄色い筋
間違いなく殺美の覚醒だった。
「覚悟はいいな?行くぞ!」
以前よりもその力は強くなっている。
変異完了までの時間の減少、そして、以前にも増した気の量
冬嫁の反応がわずかに早かった為、直撃は避けれた。
しかし、勢いのあるラッシュは防御で全て防ぎきれなかった。
「くあっ!」
反動も強く、ガード体勢のまま、ノックバックされる。
「なんて強い力だ、一筋縄ではいかないぞ!」
冬嫁は小さく呟く
完全集中がなければ最早冬嫁は、今の一撃で死亡しかねなかったかもしれない。
「一筋縄どころじゃないわよ」
いつの間にか背後に殺美はいた。
「…!」
「死ね!」
予め溜めておいた禍根集気砲を冬嫁に放つ!
ゼロ距離からの一撃は脅威となるそれはアルフの得意技
それを殺美は、いとも容易く再現するかのように冬嫁に与えた。
爆発的な威力の散弾、拡散する気光に冬嫁はバック転を決めていた。
しかし、その身体は既にボロボロになっていたのだった。
「っ!」
冬嫁に危機が訪れる。
最早倒されるのは時間の問題といったところか
だが、そう易々と倒れる冬嫁ではない。
完全集中の領域になった今、少しづつ気が漲っていく
それを感じ取った殺美は、この戦闘がより面白くなると興奮する。
「フーン…あなたも随分と強い力を持ってるのね」
感心する様で、更に気を増幅させる。
「でも、だからって生かしたりはしないけど…ね?」
挑発の態度を見せ、鋭い気の刃が冬嫁に向かって飛んでくる。
序の口、初歩の能力
あくまで挑発で生み出した物でバック転をする事もなく、間をぬって冬嫁は避わした。
「あまり、見くびらないで欲しいね…僕にだってプライドはある。馬鹿にされるのは気に食わないよ」
完全集中率110%
冬嫁は両目を開眼させていた。
「いい瞳の色ね、楽しめそう」
そこまで言うと、颯爽と軽快な足さばきで殺美は再び冬嫁にラッシュをかける。
しかし、一度行った行動など、冬嫁には通用しない。
間合いを詰めるも、すぐにその距離は離されてしまう。
「どうしたの?動きが鈍いよ、所詮は変異という名に負けた女の子なのかい?」
今度は冬嫁が挑発にかかる、左腕には超級の弾を用意して
冬嫁の言葉を受けた殺美はキッ!と顔をしかめ、その挑発にまんまとハマる。
「なめるなぁ!!」
怒気を発し、増幅させた気で冬嫁に迫る。
そのスピードは先程よりも増していた。
(かかった!)
冬嫁が左腕を広げ構えていた意識弾を右第三指で弾く!
その瞬間、集中力と相比した弾は、まるで銃弾の如き音を発して、殺美に飛んでゆく
「…!!」
一瞬何事かと驚く殺美だったが、あっさりと避け、冬嫁に向かっていく…はずだった。
そう、前回はそれが敗因だったのを殺美は、決して忘れはしなかった。
だから今回の、冬嫁の確実だと思えた一撃は、殺美にとっては一撃にならなかったのだった。
意識弾を見た殺美は、一度壁の方に向い、ぎりぎりまで待機する。
「今度は油断しないわ!」
直前で交わし、壁に激突させる…が、意識弾はすれすれの位置で再度、殺美に向かって動き出そうとした。
「これで終わりだわ!」
右第二、第三指で四角を描く
すると、すっぽりと橙色の半透明の膜が意識弾を覆った。
その途端、意識弾はまるで意志があるように、その場で動きを止めた。
それを殺美は嘲笑う様に冬嫁に、向き直り、さらに興奮した。
「どうかしら?私なりの努力であなたの能力を封じたわ、これでもはやあなたも敵じゃな…」
その時、殺美が見たのは、数百とも言える意識弾の群れだった。
一つの意識弾を相手にしている間に冬嫁は、無数の意識弾を生成していたのだ。
「たかが、一個でしょ。なら、この数はどうかな?」
完全集中率120%
意識弾の、無限生成が解放されていた。
特に念じるわけでもなく、冬嫁は、飛ぶといいな、と思うと瞬く間に、無数の光弾が、殺美に向かってホーミングしだした。
しかし、そんな状況であっても殺美は闘争本能が消えることはなかった。
不気味なまでに楽しそうな笑みを浮かべ、大量の光弾に立ち向かっていく
まずは、多方を撃ち落とすために、気を拡散させる。
「ホムンクルス…拡散」
両拳を打ち鳴らすように、地に叩きつけると、スライム状の殺美にそっくりな人型の物体が生まれた。
「実体権、有」
次の言葉によって、スライムは殺美と同じような色になる。
傍から見ればそっくりな人物が5人ほど出来上がった。
「さあ、力比べよ、シュート!」
彩美の掛け声と共に、ホムンクルスは一斉に光弾に向かっていった。
ホムンクルスの力は本体である殺美と同じ状態、簡単には倒れはしないのだ。
光弾に自らの拳をぶつけ、発光して溶けても、直ぐに再生を繰り返し、一つずつ、意識弾を破壊していく
しかし、やがては再生能力の力が衰えてゆき、ホムンクルスはのちに一体ずつ消えてゆく
のこりは数十個というところでホムンクルスが全て力尽きた。
同時に冬嫁も、意識弾を作りすぎたため気を大幅に消費し尽くしていた。
集中力は上がっていても、もはや立っているのがやっというところだった…
「うっ…」
しかし冬嫁には、まだ本気ではないことが殺美にも見て伺えた。
膝を付きながらも懸命に、立ち上がろうとする為だった。
そして良く見ると、殺美の眼からは、妙なモノが見えていた。
(どういうこと?確かにあの子は以前に比べて、異常過ぎる程力は強くなってる。だけど…だけど、それだけじゃない!)
殺美の視界には、冬嫁の全身に僅かながらも、巨大な気が集まっていたのだ。
切羽詰まる状況の中、この青年は、自己再生をしている!?
殺美の予感は、実に的を射抜いていた。
気付けば冬嫁の消費しすぎて膝をつかした気は、普通に立てるくらいにまで回復していた。
「あなたは怖い存在ね、私以上に厄介なケモノと化すわよ」
恐怖を抱くかのような仕草を見せるが、その表情は恐怖というよりは、可哀想なものを見る目をしている。
「そうだね、僕にだって意地はある。君には負けない…例え僕が死のうともね」
完全集中率130%
冬嫁の気が残っている光弾全てに行き渡る。
「勝負だ。殺美!」
紅みを帯びた眼を見せた瞬間、光弾が殺美に向かってホーミングする。
対峙した。
殺美は向かってくる弾を一発、また一発と避けては破壊していく
宙に浮きながらも、同じ行動を繰り返していき、光弾は残り3発となる。
「もう、意識弾の積もは終わりね、いい数だったけれど、それも最後…」
殺美に、興奮の気が宿る。
全開に解放せず、半力で光弾に向かっていく
殺美の眼が、光弾を確りと捉え、拳を振るう直前
今までの光弾にはない動きが殺美の背に走った。
「くぅ!」
3つの光弾の内一つが消える。
捕らえた光弾とは違う、別の弾が、殺美に当たったのだった。
怯んでいる間に、残りの二発も命中する。
まるで爆弾の爆発に直撃したような一撃だ。
殺美は、宙に浮く力を一時的に失う、真っ逆さまに落ちていった。
完全集中率140%
冬嫁の気力は、殺美の気力にみるみると近づいていく
気は最早、抑えが効かなくなり、地に零れる程に増していた。
強くなる一方の中で完全集中の冬嫁は危機を覚え始める。
なぜなら完全集中率が150%の最大となると、自らの気力が制御できなくなり、所謂暴走を起こしてしまうからだった。
唯でさえ、現状140%ですら、冬嫁自身は満ちる気に、身体の行動制御を妨げられ始めていた。
(っ!これで倒れてくれ…もう、僕自身が持たない!!)
精神にも障害が見えはじめてきている、最早勝率の変化は時間次第だろう。
だが、冬嫁の願いは届かず…殺美は起き上がった。
「いい攻撃だわ、まさか、数が少なくなる事に完全集中を受けるなんてね。本当に、冬嫁…あなたは怖い能力者よ!!」
御託を並べたかと思うと、殺美は身体の制御が効かなくなりかけている冬嫁に、肉弾戦をかけた。
華奢なメイドの姿であっても、覚醒すれば、その力は果てしなく強力になる。
ましてや、華奢なのが、素早く繰り出せるという意味で有効利用できる点としては、能力者は全くもって便利すぎる者であった。
回し蹴り、腹部に拳、顔面頭突き
次々に繰り出される物理攻撃に
ガード、バックステップ、バック転と、うまく交差させながら、回避していく
こんなことで時間をかけられている場合ではないというのに…
一気にケリをつける事を考えた冬嫁は、腹部に繰り出される拳を大きく後ろに跳び、着地と同時にバック転
体勢を立て直したかと思うと、少し前屈みの体形をとる。
尾が生えていれば、太古の昔に、まだ人間すらいなかった時代に、存在したという大型爬虫類“恐竜”という生物の体勢に似ている。
それが頭に浮かんだ殺美は、はっ!と、何かを思い出したかのように「まさかっ!?」と、冬嫁の体勢に、胸がざわめき始めた。
太古の昔、そう、そんな時代のモノを浮かべてしまったのだ。
時に考えるソレは思い通りになってしまう!
気付いた時には遅かった、回避など不可能だった。
例え、出来たにしても、今の冬嫁…のような生き物は確実に、殺美を捕え、仕留めていただろう。
覚悟を決める暇さえも与えず、ソレはグシャ!っと、殺美の身体を砕いた。
その音は生々しく、まるで獲物を喰らう音だった。
もちろん、出血も凄まじいものである。
気が循環した血は、人間の血より激しい動きを見せる。
殺戮の衝動…
能力者の変異…それは、言い換えれば過剰な力の放出によって、身体の制御が効かなくなり、自己暴走を引き起こしてしまう事だった。
その症状の原因となるのが、無理な能力の多様、乱用によって、自身を限界に追い詰めることが尤もな原因だった。
最早、人の姿を維持できず、身体は変異を起こす。
覚醒生物という生物は元々は能力者だったのだ。
血肉を喰らう恐竜
能力者の域を冬嫁は超えてしまったのだ。
もう、こうなると、助かる手立ては無いに等しい。
ただ、ただ、自分の意志が、闇の底に葬られていく様を見ていくしかないのだろう…
しかし、助かる確率はまだあった。
「ちっ!おそかったか!!」
ジャケットに身を包んだ帰国子女の不良青年と、現代の弓腰女と呼ばれた女子高生が、その光景を目の当たりにした。
「な、なによこれ!?」
その二人が見たものは、辺りが血塗れなのと、殺美の無残な残骸、そして人より一回り大きな恐竜が殺美を喰らっていた。
「やっぱり冬嫁の能力は完璧なんかじゃなかったんだ。自己暴走を起こして、血に飢えた生き物に変わりやがった!」
大切な親友を失ったと言わんばかりに、アルフは地に拳を突き、憤った。
その声が届いたのか、恐竜は二人の方に向いた。
そして、じっと見つめたかと思うと、突然二人の頭の中で声が聞こえてくる。
[アルフ、麻衣ちゃん。よかった無事だったんだね]
それは正しく冬嫁の声だ。
二人の無事を祝うかのように頭の中で、優しい声が伝わってくる。
だが、姿の見えない声は、懸命な眼差しを向けるかのような声に変わる。
[二人共落ち着いて聞いて欲しい。今や僕は覚醒生物となってしまった…今はまだ意識を保ててはいるけれど、いつ僕の意識も取り込まれるかわからない。だからお願いだ。僕を意識がある内に殺して欲しい]
恐竜から哀願の表情が見て取れた。
冬嫁自身も戦っているのだと、二人に分かる。
[今の僕の姿は宇宙で発見される生物、ノインズ・クーガーという竜だ。中生代に生きた中でも特に血を欲し、下手をすれば仲間割れでさえも起こすやつだよ。気をつけて二人共…うっ!うああぁぁぁぁぁぁぁっ!!]
そこまで言ったあと、苦しむ声を最後に冬嫁の声は聞こえなくなった。
「くそっ、何か…何か助ける方法はないのかよ!?」
「一つだけあるわ…」
アルフの嘆く声に反発して麻衣は、答えを導かせた。
「過去に一度だけ、覚醒生物を人間に戻せたという事例があったわ…その時は、まだ覚醒生物になったばかりの人だったって聞いた」
とどのつまりは、早い内に始末すれば助かるとのことだった。
だが、どれぐらいのタイミングなのかは分からない。
「だが、迷っている暇はないな。手段は選ばねぇ…一気に、殺すつもりでかかってやらァ!」
腕をポキポキと鳴らし、恐竜に向かってアルフは駆けていく
その後ろで麻衣も弓を構えた。
意識を失った恐竜姿の冬嫁から邪気が放たれる。
この段階から、既に救出できる確率は下がり始めている。
(相手が敵なら全力でかかれるが…殺しちゃいけねぇ)
アルフは持てる力の半分ですら冬嫁には致命傷を与えかねない力を持っていた。
それ故に、今の状況では圧倒的に不利だ。
上手く冬嫁を助け出すには、死ぬ直前のあたりまで弱らせ、能力を解放することだった。
しかし、それには、うまく力をコントロールしつつ、死傷させないようにしなければならない。
にも、かかわらず冬嫁は今、完全集中に意識を乗っ取られ、容赦なく襲ってくる。
威嚇態勢から、攻撃態勢へと、変わり、鋼板の地を踏み鳴らしてアルフに迫る。
小柄ながらも、その歩行速度は人が大股歩きを軽々とこなしていく様だった。
アルフと共に直前まで迫ると、まずアルフが拳を振るう
気を弱めている影響か、腕を動かす力にも乱れが生じていた。
さっとよけられ、反撃に出てくる。
「きなっ!」
挑発的な笑みを浮かべ、両腕を構え、恐竜の方を向く
が、そんな余裕は直ぐになくしてしまった。
構えた矢先に、目の前には尾を振り上がる恐竜の姿
すぐさまガードの態勢などせず、冬嫁のようなバック転で回避を試みた。
息を切るような掛け声と共に、尾を振り下ろす位置から離れると、ドーン!っと鋼板ですらえぐるような破壊力の尾が叩きつけられた。
体勢を立て直し、その様子を見たアルフは身震いした。
「あんなパワーがあるのかよ…やべぇな」
今までにない、敵に長期戦を覚悟し始めた。
「麻衣!」
力不足を感じたアルフは、その名を呼ぶ
「なに~?」
どうやら、先程までの戦闘の事等、気にもしていなかったかのように、麻衣はぼーっとしていた。
「お前も手伝え!たいして活躍できてないだろ」
あまりの陽気さに、頭に血が上る。
「わかったわ」
面倒くさい、という態度を見せながら、その眼には、アルフの危険を悟った。
「あん?」
気付けば、アルフは麻衣に助けられていた。
宙を舞う
腰に腕を回され、軽々と持ち上げられているような感覚に、高く飛び上がっている。
「麻衣…お前まさか?」
顔の向きを変えぬまま、アルフの表情に黒がさしていた。
今の麻衣は、麻衣じゃない。
「そうだ。あの時、お前は重傷だったものな…」
アルフにも納得の色が掛かる。
「神ならできるだろ?冬嫁を助けることくらい…」
無言な彼女を背に何度も語りかける。
「な?霊法の教組さんよ!?」
その言葉を言い終わった途端、恐竜は力を失って倒れる。
同時にアルフは地上に下ろされた。
「冬嫁!!」
すぐ背後で、同じく倒れている麻衣の事は、気にかけず冬嫁に駆け寄る。
麻衣はそもそも異常などないと、わかっていたからだ。
「冬嫁!…冬嫁!!」
大切な友人を失う事など、アルフには耐え難い苦痛だ!
今回の事に関しては、許してやってもいいと思った。
地球の破壊神とやら…
今回はどっちの味方のつもりなんだ?
妙な真似をすれば今度こそ、その身体を滅ぼしてやる。
「うっ…」
数十回の応答に漸く、返答らしきものが聞こえてきた。
「アル…フ」
月詠の末っ子は息を吹き返した。
「心配させやがって…こいつ」
その時、初めてアルフは人の大切さを知ることができた。
「ありがとうな…神様さんよ)
声にならないような言葉と、心の想いが、アルフの頬に、一筋の光を伝わせていた。




