9話 強襲!コンプレク奇襲作戦
ニュージ・アース 集中治療室
キリーと春嫁の奇襲によってニュージ・アースはダメージを受けたもののそれほど大きな被害ではなかった。
しかしアルフが意識不明の重体、更には冬嫁に至っては完全集中の過剰使用により、気が薄れるという事態が起きていた。
そんな中、勝輝、司が立ち、ティリア、花火が待合ベンチに腰を下ろしていた。
「アルフ…そうとう無茶をしたんだろうな」
勝輝はまだ能力開化はしていなかったが気の量数などを見る眼が、既に覚醒への一歩手前を示していた。
「冬嫁も心配だ、気が薄れている影響で自己修復維持に乱れが発生している。下手をすれば死ぬぞ!」
司は片手にナイフをくるくると回しながら、安否を見守っていた。
花火はというと、司がまた暴れだすのではないかと、ティリアの周囲の警戒を怠らなかった。
「アルフさん、冬嫁さん…」
ティリアはそんな中、二人に両腕を合わせて祈っていたのだった。
そこへ一人の兵士がこちらに向かってくる。
「艦長!緊急事態です」
突然の知らせにティリアは驚いて立ち上がり、兵士と耳で会話を交わしあっていた。
しかし、慌てふためく兵士の表情から見て、余程の事なのだろうと、司と勝輝は思っていた。
しばらくして、兵士は去っていった。
「司さん、勝輝さん」
そしてティリアから告げられたのは、予想の候補にあったかもしれない内容だった。
「どうした?」
「・・・?」
二人に緊張の汗が走る。
「フェイルと名乗る者が現在、演説を行っているそうです」
その名には司にだけ覚えがあった。
「フェイルだと!?あのラー家の一人のフェイルか!?」
驚きを隠せず大きな声が出る。
「とりあえずこれを見てください」
ティリアはどこから取り出したのか、小型のモニターディスプレイを勝輝達に見せた。
そこには緑色の髪に190cmはあるかという長身の女性が映し出された。
ロングストレートの髪は前髪でさえも長く表情が隠れてしまっていまいちわからない。
「フェイル…一体何をする気だ?」
司に、悪い予感が走る。
画面には既に演説の様子が映し出されていた。
「…であるからして、私達コンプレクシティは今現在、未明の危機に瀕しています。そもそも私達の行っている事は地球の防衛です。嘗て、私達は地球を住処としていました。それがいつの日か、地球の人間達が私達を拒絶し始めたのです。そして地球の人間達は私達と同じ覚醒能力者で同類…すなわち同族争いということになります。」
そこまで言ってフェイルは側にいたとされる、係員から何かを受け取る。
「こちらをご覧下さい」
渡されたのは、何かの再生機器の様だった。記者がそちらの方へとカメラを向ける。
「これは我々コンプレクシティが、地球との同盟を持ち込もうとした際、地球軍は我々に攻撃を仕掛けてきた映像です」
VTRを再生する。
そこには先程、冬嫁とアルフ、キリーと春嫁が戦闘をしているところが映されていた。
「この戦闘によって、かの有名な、アポカリプス騎士団第1隊隊長、ジャック:キリー氏が死亡しました。彼等地球人は我々の驚異です。今現在の地球は理解し合える者等いません」
戦闘の様子は明らかに編集を加えたものだった。
内容が先程の戦闘とはまるで違ったものになっている。
「コンプレクシティの維新にかけて、キリー氏の弔い合戦を開始させて頂きます」
それと同時に、周囲にいた者達は歓声をあげた。
「つきましては、我々コンプレクシティの新たなる改革の手始めとして、地球に隕石を降らせます」
フェイルの後ろに添え付きされたモニターに巨大な隕石の映像が映された。
「この隕石は、ある覚醒能力者の手によって、地球の大気引力を受ける事がない様に生成されています。よって地球に落とすことは容易です」
映像の中の隕石の周りには、薄い半透明の膜が貼られていた。
どうやらこれが地球の大気引力を防ぐ力があるようだ。
「ただし、この隕石が落ちてくることを、地球の人達は指をくわえてみているわけがないでしょう。そこで、銀河系に住む皆様方の出番というわけです」
フェイルは再び、カメラに方向を向けた。
「隕石衝突までの間、皆様には地球軍の妨害工作に出て欲しいということです。我々は本気です。愚かな地球軍に粛清を…」
さっきよりも高い歓声が響いた。
そしてコンプレクシティのシンボルを抱えた者が、次々にコンプレクシティの辺りへと集まっていく。
その様子が、ティリアの小型モニターディスプレイに高画質で映されていた。
「なんてことだ!地球に隕石を落とすだと!?」
司は焦りに焦っていた。
「どうするんだよ、ティリア」
勝輝は何がなんだかわからない、といった様子だった。
「落ち着いてください。私達も早急に準備をすすめます」
ティリアは花火を連れ、司令部へと戻っていく
コンプレクシティと地球軍の泥沼な戦いが今正に始まろうとしていた。
ニュージ・アース 操縦室
ニュージ・アースの全体を統括させる部位
それがこの操縦室である。
幾つものコードに繋がれた装置が、一人の人間の脳とシンクロし、意志を通じさせることによってニュージ・アースを動かすことができる。
しかし、それは同時に、自らを精神世界に浸らせる事にもなり危険とは隣り合わせの状態でもある。
希望を意識すれば、ニュージ・アース自体が自身の保護者となり、無限に活用される。
反面、絶望を意識すれば、ニュージ・アースは意志を通さず、思いもよらない行動を起こすことになる。
「機動の準備はよろしいですか、艦長?」
花火が、頭に装置を装着したティリアに確認を取る。
ティリアは唯一、このニュージ・アースの扱いに、長ける事が出来た人材だった。
コンピューターのサポートはあるものの、一人の人間の脳では、とても処理しきれないのが現実だった。
人工的に作り出された人間であれば、このようなコンピューターの扱いは長ける事もできる。
しかし、それとは引き換えに精神面の不安定化が伴って、結局は操縦は不可能な部類に入ってしまっている。
ティリアはそんな中、副作用の起きない人間に仕上げられている。
実験中の不幸中の幸いとでも言うのだろうか…自己統括は容易かったのだ。
花火が脳波プログラムを起動させる。
ティリアの脳波を感知することでニュージ・アースのセキュリティは解除される。
起動から0.5秒即座に解析終了の合図と共に、ティリアの意志がニュージ・アースに伝えられた。
コロニーは一時的に大きな揺れを起こす。
しかしティリアはそんなことは気にもとめず、コンプレクシティの本部…クラポに急速前進していった。
コンプレクシティ クラポ会議室
そんな中サーラはフェイルを呼び出し、会議室にて討論を繰り広げていた。
「なぜあんなことをした…?これが上に知れれば、私達はコンプレクシティ全体を敵に回しかねないのだぞ!?」
サーラは怒りに満ちていた。
普段は大人しいはずのフェイルがこんな行動をするとは思わなかったのだ。
ましてや地球軍へ隕石を落とすという、不可能じみた事…サーラは地球に寝返るだろうと考えていたのだから、今回の行動は予想を180度外れていた事になる。
「答えろ!どうしてあんなことをした」
四角を形作っている机に拳を打ちつけ、サーラは問いただした。
しかしフェイルはまるで言葉を発そうとしない
「貴様!いい加減にしないと…」
サーラはフェイルに迫ろうとした時、ようやく気付いた。
フェイルが先程から、邪悪な気を発していることに…
「まさか隕石を落とす張本人はアイツか…!」
サーラには犯人に心当たりが浮かんだ。
脳裏にその予感がよぎった時、同時にフェイルは今や敵であると見たのである。
「ご名答…」
まるで心を読んでいたかのように、フェイルは言葉を発したのだった。
そして次の瞬間には、フェイルは気を発していた。
「環竜、ウロボロス!」
左腕をサーラに振りかざすと、手のひらから空間が発生し、首長の竜が現れる。
「くっ!」
鋼板の床さえも、迫り来る竜の牙で尽く食い潰され、サーラに向かってくるが咄嗟に避ける。
しかし、ウロボロスは急な方向転換に対応し、すぐにサーラめがけて再び迫ってくる。
「やはり、逃げれはしないか…ならば!」
サーラは虚空に右腕を、何かを握るかのように構えた。
その間にもウロボロスは急速で迫ってくる。
接触まで数メートル、もう回避は間に合わない!
「ジ・エンド…終わりだね」
フェイルは勝ち誇ったように笑みを浮かべるが…
「爪が甘いっ!!」
サッ!と何かを抜刀した残像が見えたあとウロボロスは縦に切れていく
勢いが強く、次々と切れ、フェイルの手元に迫る。
一瞬の油断があれば、フェイルの左腕は吹き飛んでいただろう。
咄嗟にウロボロスの射出を停止する事で、なんとか危機は免れた。
竜が切り裂かれれば、それは己への反転となり、そのまま、竜が受けたダメージが主に全て降りかかる。
フェイルが厄介な能力の使い手というのは、この理が存在するからである。
サーラの右腕には透き通るように透明な剣が握られていた。
ウロボロスを斬った際に付着した血が、それが何かを証明していた。
「プリズム?」
フェイルは、結局それが何なのか分からずじまいだった。
気付けば、胴体が二つに切られ、血を噴出していたのだった。
「プリズムでもクリスタルでもない、これは光線だ…」
禍々しい雰囲気を、サーラも醸し出していた。
しかしそれはフェイルよりも悠に大きく、血に飢えた獣の様に
会議室を後にし、サーラは隕石落としの張本人の元へとゆったりと進んでいった。
血に染まった服は鮮やかに、高貴をイメージする様な残酷に彩られていた。
コンプレクシティ クラポ 傍観景路
宇宙空間を見渡せる場所、それがここ、傍観景路である。
同時に、ここにはクラポの動力源である、イグニスプリズムがある場所でもあった。
そこには、空間が歪んでいる場所に修道士の服を来た、少年が座禅を組み、何かの祈りを捧げていた。
更に、その隣には腕を組んで立つ操葵
この二人がサーラの言う張本人であった。
「調子はどうだ、慧?」
操葵は祈りを捧げている少年に、一声かける。
少年は目を瞑りながら、言葉を口パクで伝える。
「じ・ゅ・ん・ち・ょ・う・か…フッ」
薄ら笑いを浮かべ、操葵は主役の登場を待つ…
慧と呼ばれた少年は、彗星の使者、即ち、この少年こそが隕石を落とすことができる力を持つ能力者だった。
そして彼の後ろの歪んだ空間は、次元空間、つまり彼は未来人である。
(未来から連れてきたものの…現在とさして変わらんな)
頭の中で操葵は、一人つぶやいていた。
一方、二人の後ろでは…
「見つけた!」
ティリアが操縦する、ニュージ・アースが迫っていた。
傍観景路に巨大なコロニーが、まるでスクリーンに映し出されたかのように現れる。
操葵と慧は二人して、予期せぬ出来事だと悟った。
「ジ・アース砲、高速射撃準備!…撃てっ!」
能力者サイズなら、僅かなチャージでも十分だった。
ニュージ・アースからは小口径クラスの光が収束し、傍観景路のド真ん中に放った。
「慧、一度離れろ」
「わかっています」
操葵と慧は、二人して左右違う方向にその場から離れた。
バリーンッ!と、ガラスの床は見事にブチ割れた。
「二人には、よけられました…どうしますか?」
花火が、ティリアの指示を待つ
「このままコンプレクシティに乗り込みます!」
「了か・・・はっ?」
ティリアの突然の行動に、花火は途中で言葉を切った。
そんな、ことも虚しくニュージ・アースは割れた傍観景路にはまり込むように突進した。
鋼板の壁を軽々と突き破り、ある程度押し進めたところで、ニュージ・アースは動かなくなる。
「突撃!!」
ティリアの合図と共に、地球軍が次々と、クラポへと乗り込んでいく
そんな中、司、勝輝、冬嫁、そして斐瑪もいつの間にか戻り
「俺達も行くぞ!」
「了解!」
司の掛け声と共に、コンプレクシティに乗り込んだのだった。
傍観景路はクラポの最奥部に当たる場所だった。
つまり、逆に辿っていくことで最終的に全体を通ることになる。
操葵と慧は既に、勝輝達とは正反対の最奥部、もう一つのイグニス・プリズムのある場所に移動していた。
それがわかる理由はというと
「さっきからこいつの光点が移動を続けている。おそらくこの光点が操葵と隕石を操っている奴だろう」
司は勝輝達に小型の液晶モニター型高性能レーダーを、見せてそう言った。
「じゃあ、それを追っていけば、すぐだな」
刀を右腕に持ち勝輝は、疾走の中語る。
クローンを生成する際、花火に護身術の一環として教わっていたのだ。
「そう上手く、たどり着けるといいけどね」
冬嫁は不安を隠せずにいた。
「コンプレクシティも慌ただしい混乱の中にある…だけど、油断は禁物」
突如現れたコンプレクシティの兵隊を、戦闘の司が、勢いを付けた飛び蹴りで昏倒させる。
安物のマシンガンを、試すような暇など与えもしなかった。
「そうこうしてるうちにお出ましだな」
駆けながら迫る気配に、止まれの合図を3人に出す。
広い空洞、司が覚えている限りでは召集室だろうか?
そこに次の道が見えている場所に、メイド服を着た女性が立っていた。
「このドサクサの中、よくも私達に攻撃を仕掛けてきたものです。さあ、来なさい!」
司が闘気を覚醒させるが、冬嫁がその前に立ちふさがる。
「司、ここは僕にやらせてくれないか?」
少しの迷いがあったが司はすぐに承諾した。
「それでいいだろう、彩美?4対1は不利すぎるだろうしね」
冬嫁の言葉に彩美は潔く、残りの3人が通れる道を開ける。
メンバーは残り3人となる。
そうして再び、彼等は、駆けていく
しかし、またしても邪魔が入る。
次に見えたのはPCルームだった、無数にコードが散らばるその辺には…
「やあ、司くん。ご無沙汰だね」
半機械化の者がいた。
「影深智…やはりお前の領域だったか」
司は、さも驚いたような顔はせず、影深智に接する。
「君がコンプレクシティを裏切ってからというもの、僕の評価はどんどん上がるばかりだ。これは君からのささやかなプレゼントのつもりかい?」
不気味に微笑む姿とは裏腹に、三叉の鉄針がビリビリと電気を放っていた。
司は、電撃に不利だと分かっていながらも、戦うしか無い事を決意しようとしたが…
「二人は、先に行って。この男は私が相手をする…」
斐瑪が前に出る。
「だが、大丈夫なのか?」
司は影深智の強さをよくわかっていた。
だからこそ自らが戦うしかないと思ったのだ。
「大丈夫、私はそう簡単に死にはしない」
斐瑪は既に覚悟を決めていた。
「すまない…頼んだぞ」
司と勝輝は、そのまま、次の道を進んでいく。
その瞬間、大きな力のぶつかり合いが始まった。
二人は、ぐんぐん先へと進んでいく、だが、未だクラポの半分を超えてはいない。
「勝輝、こいつを受け取れ」
司は、何かを渡してきた。
「ん?これ…さっきの小型レーダーじゃないか」
渡されたものに驚き、勝輝は理由を聞く
「次に現れる者の見当が付く…あらかじめ渡しておきたい」
司の意味ありげな言葉に?を浮かべる勝輝だったが、すぐにそれはわかった。
次に見えた空洞は…空洞というよりは、溶炉だった。
とんでもない暑さが容赦なく晒される中で、僅かな足場が幾つもあった。
「サーシャ…やはりな」
司の予感は的中した。
黒炎の気に混じった獄炎のラー家の一人が、中央の一際大きな足場に立っていた。
「勝輝、行け…サーシャの相手は俺がする」
今度こそ闘気を覚醒させ、司は戦闘態勢に入る。
勝輝は、無言で頷き、足場を一個ずつ、跳びながら進んでいき、次の道へと進んでいった。
遂に一人になってしまった。
しかし目的は唯一つ…地球を救うためなら身を捨てる覚悟で戦う事
それが勝輝に剣技を教えてくれた者の…
「…!!」
そこで勝輝は、途轍もない胸騒ぎを感じた。
「これは…まさか!!」
駆ける足を早め、次なる空洞を目指す
その頃、ニュージ・アースのティリアは…
シンクロ装置のコードをめちゃめちゃに切り刻まれ、ティリア自身も意識を失っていた。
「か、艦長!?大丈夫ですか?」
そこに偶然にも、残っていた地球軍の兵に見つけられた。
脳波の信号を突然切断され、ティリアはショックを与えられていた。
「一体誰が…はっ!花火殿はいないのか?」
地球軍の兵は仕方なく、ティリアを医務室へと運んでいった。
勝輝がようやく次の空洞へと足を踏み入れた。
彼にも覚醒能力者として力が生まれ始めているのかもしれない。
胸騒ぎの正体は、裏切りだった。
勝輝の目の前には、侍女がいた。
司から渡された、小型の液晶モニター型高性能レーダーを持つ腕から力が抜け、ガタッっと落ちた。
このレーダーはコンプレクシティ所属の者を発見させる装置である。
コンプレクシティの者ならば、このレーダーに光点として表示される。
そして液晶モニターには今、勝輝がいる場所から少し先に見える侍女に対して、光点を示していた。
「花火さん…」
勝輝は、驚きよりも悲しみの方が大きかった。
しかし花火は最早先程までの、優しさはまるでなく、無表情を彩っていた。
「何をそんなに驚くことがありますか?裏切りなど、よくある事でしょう」
まるで、最初から敵であったかのような言い方は、勝輝に憎しみの闘士を湧かせるのだった。




