8話 ニュージ・アースの刺客
「冬嫁!?」
アルフは咄嗟の出来事に目の前の事を忘れ、冬嫁の声に神経を裂く
しかし、そのアルフの前方からは今まさに振りかざんとする剣を持つ騎士風の男
その男から確かに舌打ちする音が聞こえた。
「油断してんじゃ…ねえよ!!」
怒気のこもった声に、首を戻したアルフ
キリーは剣ではなく、空いている腕からの拳が振るわれる。
「ぬあーっ!!」
間一髪防御したがキリーの凄まじい正拳突きはアルフをいとも容易く弾き飛ばした。
「へぇ…分かってはいたけど、凄い力だね」
そこへ、キリーの隣に春嫁が現れる。
「フン!俺に隙を見せるなんざ500年早いんだよ、青二才!!」
キリーは酷く機嫌を損ねていた。
彼は油断大敵な者をひどく嫌っていたのだ。
先のアルフの行動はキリーにとっては万死に値する程に憎しみを抑えきれなかったためである。
それでも、不意を着いた一撃として剣を降ろさなかったのは、彼なりの配慮なのだろうか?
「以前共にした奴とはえらい違いだね。人情な人か~」
春嫁の表情は前髪でよくわからなかったものの、明らかに微笑ましいかったといえる。
「お前こそ、今のはなんだ?あのチビがいきなり吹っ飛んでいったじゃないか」
そんなキリーも春嫁にふってみる。
「私は、敵に情けなんてかけないよ…月詠家は元々その様に育てられたんだ。例え弟といえど、敵ならば容赦はしないつもりさ」
「カッ!、おっかない姉だ…」
そうきいてキリーは反吐が出るような顔をした
「いたたっ…」
そこでようやく冬嫁が起き上がる。
「はっ!アルフ?」
そしてすぐにアルフが倒れているのにも気付き、声をかける。
「お前の仲間は死んだ。俺に隙なんざ見せるような愚か者だ、俺に殺されただけでも光栄に思ってもらえるだろ」
バッゴーン!
キリーの無茶苦茶すぎる発言が聞こえたのか、がれきに埋もれた中からそれを粉砕する拳が現れる。
破片がいくつか飛んできたがキリーは剣を軽々と振って弾いた。
「だれが…死んだだと!?」
額と左腕から出血しているアルフはなんとかといった具合に立ち上がり奮起の言葉を返した。
「ほぉ、あの拳を食らって更にがれきに埋もれてもまだ動けるか…馬鹿ってのは、馬鹿みたいな体力があって、馬鹿に羨ましいな!」
嘲るようにキリーは次々と言葉を並べていく
そんな罵られるアルフは、というと…右腕に気を集中させていたのだった。
「・・・だな」
小声、かすかに耳に聞こえていたその声にキリーは更に嘲笑う
「どうした、絶望に浸るあまり気でも触れたか?」
しかし、その嘲笑は春嫁の言葉にかき消される。
「キリー、油断はしないほうがいい。彼は本気の様だよ」
先程からのアルフの集中する気は、巨大な壁の様に周囲を守っていた。
額と左腕の怪我も、いつのまにか傷は塞がり、元の体勢を維持できる様になる。
「久しぶりだな、俺がキレるのは!」
怒り狂うアルフをみた春嫁は
「厄介だね…怒りに感情を任せて、気を肥大化させるタイプだよ」
余裕ある態度だが、表情は曇っていた。
一方キリーは、そんなアルフに劣等感を抱いていた。
「は!キレて強い奴なんざ強かねぇよ!雑魚が…かかってきやがれ!」
再び剣を持ち返し、気を刃に注ぎ始めた。
「幻夢剣ワルキューレの錆にしてやる。いくぞ!!」
すぐさま気の充填を終わらせアルフに颯爽と駆け始める。
「・・・おそいな」
そんな中、微動だにしないアルフはキリーの剣が振るい下ろされる直前まで一歩たりとも動かなかった。
刃がアルフの頭部に残り数センチほどで、突如、目の前の気配がふわっと、左にそれた。
「なにっ!?」
キリーは驚きに満ちたが、左にいるのならと、剣をすぐさま左に振るう
しかし、同じ事の繰り返し、また左に気配はそれた。
「俺が馬鹿なら、てめぇは馬鹿の一つ覚えだ!!」
右腕に溜めた気を一気に目標に向かって放つ!
「くらえ!禍根集気砲!!」
重い拳の一撃と共に、膨大な気をキリーに打ち当てる。
ゼロ距離の多段攻撃は計り知れない破壊力を秘めていた。
悲鳴すら聞こえないほどの大気爆発が起こり、周囲の地ごと丸々吹き飛ばしてしまう。
周りにあった木々は愚か、いくつかの建物でさえも、被害は免れなかった。
その中で春嫁はまるで怖いものを見てしまったかの様に、足を震えさせた。
「やるじゃないか…握力でキリーを上回る者がいるなんて思いもよらなかったよ」
声もわずかに震え、最早戦意は喪失していると言ってよかった。
「次はお前だ。女だからあのナイト気取りよりは、優位に扱ってやる。覚悟し・・うっ!」
しかし、アルフは言葉を言い終える前に力尽きて倒れてしまったのだった。
「アルフ!!」
すぐさま冬嫁は立ち上がり、アルフを介抱する。
かろうじて息はあった。
しかし、怒りに任せた一撃に消費した気は、体力までも蝕んでいることにアルフは気付かなかったのだろう
「後はボクが何とかする。アルフはそこで休んでいてくれ」
そのまま地に寝かせ、着ていた上着をアルフに掛けてやる。
「アルフは戦闘不可能だ。次はボクだ春嫁姉さん」
ゆっくりと春嫁に近付いてゆく、その間にも、冬嫁は神経を集中させていた。
「冬嫁、君にはコンプレクシティがどういう存在だと思っている?」
そんな春嫁は、アルフが倒れてからというもの落ち着きを取り戻していた。
「いきなりどうしたんだい?時間稼ぎは通用しないよ」
冬嫁はきっぱりと言って見せた。
「まあいい…君の相手は私じゃない、騎士様だよ」
そう言った後、春嫁に背後から巨大な瓦礫が飛んでくる。
完全集中状態にあった春嫁はバック転で回避すると同時に姿を消した。
「ちぃ!!」
同じく冬嫁も集中していたがアルフがいることを考え、意識弾を放った。
スパーンッ!と金属板を叩く音のように、瓦礫は意識弾によって相克した。
砂煙が上がる中、現れる騎士男
「へっ、体力馬鹿は倒れたか…次はお前が相手だな…今度こそ切り刻んでやる」
いたるところに打撲の跡を残し、キリーは不安定にトボトボと歩きながら剣を持ち出す
「さあ、どっからでもかかってこいよ!今の俺は最高に気分がイイぜ!!」
ニュージ・アース全体に響くかのような大きな声に冬嫁は動じもせず、ゆっくりと意識弾を構える。
「じゃあ、真正面から…」
両目は完全集中に覚醒していた。
ピューン!と一発、意識弾を放つ
冬嫁自身その弾のスピードは見て取れないものだった。
しかしキリーはというと
剣を構えたかと思うと、弾を刃に見事に当てた。
凄まじいまでの摩擦に生じる音と、火花が散る音が、交互に力がぶつかり合っているのを濃く表現していた。
「くっ…」
しかし冬嫁の放った意識弾はやはりキリーの力にはかなわないようだ。
「うらぁーーーーっ!!」
余る力を振り絞ってキリーは意識弾を跳ね返した。
「…!」
そしてそれは冬嫁に命中した。
大きな砂煙をあげて…
「くう、なんて重い弾丸だ…腕が言う事を聞かなくなってやがる」
キリーの余りある力を含んだ右腕は、筋肉が腫れあがり、もはや制御が効かなくなってしまっていた。
「だが、これでアイツは終わっただろう、地球人の抹殺はほかに継げばいい…」
最早、彼自身にも力は残ってはいなかった。その場にばたりと倒れ息絶える。
一方、粉煙のあがる場所では、冬嫁は傷一つなかった状態だった。
「大丈夫、冬嫁?」
その冬嫁に声がかけられる
「司!?それに勝輝も?」
煙の中で冬嫁は、見覚えのある姿が見えた。
戦闘用の軍服姿と学生ズボンと上半身には検査服をまとったなんとも異色の組み合わせの青年がいた。
「こんな事はしたくなかったが、男を持つことになるとはな…」
その司が抱えていたのは冬嫁
しかし、抱き方といえば、比較的動きやすいお姫様抱っこ
その後の事は、煙が晴れるまでとても覚えていない…
射民国 次元惑星
時の空間、遥か何億光年も先に存在するという超次元空間の先にその星は存在していた。
周囲には次元を回るような、空間がそのまま床と化していた。
その惑星の当主、月詠:操葵は好機をずっと待ち続けていた。
「今こそ、好機と見るか」
次元空間には石の姿と化した、人々が幾重も浮遊していた。
全て迷い込み、操葵の支配する時間超越能力に蝕まれた可哀相な者達である。
その中には春夏秋冬を冠する月詠の姉弟、夏愛と秋夜が混ざっていた。
「月詠は存在こそが私に害、今こそ二つの力を奪する時」
驚異的な力を操り、二人の月詠の使いを消滅させた。
時に縛られる中で寿命だけを動かし、たった今尽きたのだった。
その途端、操葵には大きな気が宿る。
「月詠は死すべし、春と冬、残りはお前達だけだ」
操葵の空間は皹が入ってゆき、次第に時を形成するものは全て崩れ去っていく
「崩壊の序曲、宇宙に散れ!」
力など必要もなく、次元の空間が一気に宇宙空間へと変わる。
「コンプレクと地球、全て私の物だ」
時の操者が…絶望の時が動き始めた。




