第2話 模擬戦闘訓練
一応説明しておきますが、主人公の名前は神崎 颯真です。
あの後、僕は模擬戦闘訓練場にきていた(つれてこられていた)。東京ドーム一個分くらいの広さがあるので、少し落ち着かない。
「で、これからどうするんですか?」
隣にいる所長――名前は西城というらしい――に話しかける。先ほどから丁寧な物腰で接しているおかげか、少しずつおびえがなくなっているようだ。
「ああ、ここでは君に模擬戦闘訓練をしてもらう」
「……は?」
ごめんなさい、意味がわかりません。モギセントウクンレン? 何それ、おいしいの?
と、僕が現実逃避している間にも事態は刻一刻と進んでいく。というか、所長も僕の意見なんて聞く気がないようだ。もう慣れたけど。
「訓練の相手をするのはあの戦闘機械だ」
所長が指を指した先の扉が開く。中から黒で統一された人型の兵器が出てくる。高さが焼く3mほどもあり、右腕にはガトリング砲までついている。というか、条約違反じゃないのか?
思考の端でそう考えていると、所長がさっき言った言葉がよみがえる。
『ここでは君に模擬戦闘訓練をしてもらう」
アレと? 死ぬ確率10000%ですよ? 100回は死にますから、すでにオーバーキルだから!
命を守るため全力で講義する。
「無理無理無理無理!! 死にますから、開始3秒ですでに肉塊になりますから!!」
「大丈夫だ、君なら」
「何が!?」
所長が得意げに戦闘機械の説明を始める。ぶっちゃけ、楽しそうだ。
「いやいや、あの戦闘機械には、45口径の弾丸を一秒間に60発掃射できる高性能ガトリング砲装備で、対戦車ミサイルの直撃にも耐えることができるんだ。それに……」
嬉々として説明を続けている所長を見て、僕は絶望していた。説明されるだびに自分の死亡確率が上昇していく。
「というわけで、君と対等に戦えると思うよ」
「僕のことをどんだけ化物だと思っているんですか!?」
「一個連隊を10秒で壊滅させるくらい」
もう、笑顔で告げる所長が怖くなってきた。そんなことを言っている間にも、戦闘機械はこちらに近づいてきている。正直めっちゃビビッてます。
「僕はまだ能力が覚醒していないんですよ!? 人間で倒せる相手じゃないでしょアレ!!」
「君はSランクだから、能力の片鱗くらいは使えるはずだ。それを確認するのが今回の模擬訓練の目的だし、アレに実弾は装填してないから死んだりはしないよ。…………怪我しなかったら奇跡だけど」
「最後になんか怖いことボソッって言いませんでした!? ほんとに大丈夫なんですよね!?」
「何とかなるさ~」
うわー、この人古いギャグでごまかしちゃったよ。
内心で軽く突っ込む。ここまできたら、もう逃げることはできないようだ。僕はいやいやながらにも、それなりに気合を入れる。
「どうすれば終わるんですか?」
「アレの背中に緊急停止ボタンがつけられているから、それを押せば終わりだ」
実は、少し能力が使えるというのは事実だ。僕は少し前から、能力の存在には気づいていたものの、そんなわけがないと切り捨てていたのだ。
目を閉じて静かに呼吸をする。少しずつ、集中力が高まっていくのを感じる。
「――――――ッ!!」
鋭く息を吐き、気合とともに目を開ける。全身を視認するのも困難なほどの弱い光が包んでいた。体の隅から隅まで完全に制御しているような感覚があふれる。
「いいですよ」
「でははじめてくれ。戦闘機械をぶっ壊してもいいぞ」
どんだけ化物なんですか僕。と心で突っ込んだが、そんな思考もすぐに薄れていく。祖父に剣を教わっていたときのような緊張感が全身を駆け巡り、精神が研ぎ澄まされていく。
「は…………ッ!!」
床を蹴り、戦闘機械へと突進する。3mほど近づいたところで、ガトリング砲が掲げられる。
「――――ッ!!」
反射的に右に跳ぶ。先ほどまで立っていた場所を特殊ゴム弾が走り抜けていく。背筋に冷たいものが走った。恐怖をどうにか押さえつけ、足がすくみ立ち止まってしまうのをを我慢する。
円を描くように疾駆しながら、少しずつ戦闘機械へと近ずいていく。人間には不可能な反応速度と運動を僕は実現していた。
5度目の掃射で、弾丸が尽きたのか、弾倉を入れ替え始める。またとない好機に、すかさず戦闘機械の懐へ飛び込む。
しかし一瞬判断が遅かったのか、装填を終えたガトリング砲がこちらを向く。ゼロ距離で掃射された弾丸が掠めるのも気にせず、超反射で上空へ跳躍する。
空中で体を入れ替え戦闘機械の背後に着地した後、一瞬の間すら置かず背中の緊急停止ボタンを叩くように押す。ビーという電子音が鳴り、戦闘機械が停止した。
「お、終わったぁ~」
倒れるようにその場に倒れこむ。正直気力の限界だった。
「お疲れ様! まさか本当に倒してしまうとは……」
さらにおびえたような表情をする所長は無視し、自分の能力を評価してみる。
戦闘能力は、まあ合格点だろう。だが、判断が一瞬遅いようだ。先ほどの隙は、実践ならば命を失っていたはずだ。
祖父に剣を教えこめれていた成果、戦いというものには常人よりはなれている。
「正直ここまでのものだとは思っていなかったな!! そうだ、これから君のマンションに行かないといけないな。楠木君が迎えに来てくれるだろうからあと少し待っていてくれ……」
所長が、いろいろ話しかけてくるが、極限まで集中していたことの反動で、ほとんど頭に入ってこない。僕は、これからのことを朦朧とする頭でぼんやりと考えていた。