第9話 家出
「今日は・・・ここまで。」
僕は、少し眠くなった。
「まぁ、いつかまた聞くか!」
戸田は、めがねをかけ家へ帰った。
僕は、急に奈津に会いたくなった。
「奈津・・・。」
僕はちょっとだけと思い、病院へ行った。
この時間は、誰1人いない。
病室を開けると、ベットに寝ている奈津の姿。
「奈津・・・。」
「・・・・。」
起きるわけないか。
僕は、花瓶を変えていた。
「・・・修・・・・・・・ちゃ・・。」
かすかな声が聞こえた。
僕は、思わず振りむく。
でも、そんなわけがないんだ。彼女はあの事故以来3年間、目を開けたことがない。
あの時はどうしてこんな目にあわなきゃいけないのか。
自分を責めるばっかりだった。
ー13の秋ー
「大丈夫ですよ。おなかの子は元気ですよ。」
と優しい産婦人科の先生。
「そうですか!」
奈津は、嬉しそうに診察室から出てきた。
「どうだった?」
僕は、彼女の顔を見て安心した。
「元気だって!」
待合室には、僕らだけ。
だって、今は夜中の11時。
ここは、奈津のおばあちゃんの病院。
奈津のおばあちゃんと雅人ぐらいが僕達の味方だった。
奈津のおばあちゃんは、「景子」という。だからいつも「けいちゃん」
と呼んでいた。
「帰ろう?」
奈津の言葉でやっと我にかえる。
「ねぇ、どうする・・・。私、今・・・家に行きたくない。」
奈津は、少し泣き目だった。
「俺も。」
先週、親に呼ばれてさんざん怒られて、親子の縁をきるとまで言われた。
だから、この1週間、口もきいてもらえないし、ご飯も出してもらえないから
この時間は病院で赤ちゃんのことを聞いてるほうが楽しかった。
「ねぇ、家出・・・する?」
僕は、少し思いついたことを言ってみた。
「家出・・・?うーん・・・わかんない。だってお金もないし、どうやって生活するのかも
わかんないし。2人じゃ無理じゃない?」
奈津は、大人だなぁと思った。
「そうか。」
でも、その3日後。
奈津は、大きな荷物を持って僕の家を訪れた。
「どうした???もう、だめじゃん。親いたらどうすんの!」
「修ちゃん・・・家出・・・しよう。」
奈津からの以外な言葉。
「え?だって、この前・・・家出は無理じゃないって言ってたじゃん。」
僕は、目を丸くする。
「・・・急いで!!早く!!親が・・・・。」
僕は奈津の泣き方はどこか違うように感じた。
「わかった。」
僕は悟った。奈津があんな泣き方するのは、本当にピンチになったときだ。
かばんに洋服、布団、下着。それに僕の通帳。
全部、持てるだけつめた。
「奈津・・・行こう?」
僕は奈津の手を取り、あそこへ向かった。
「けいちゃん!!」
景子さんは、驚いていた。
「どうしたの?奈津?どうして、そんなに泣いてるの?」
それは、僕もわからなかった。あれだけ、反対していたのにいきなり家出を決意したその
根拠がわからなかった。
僕らは、待合室で話した。
「昨日、お父さんとお母さんが私にこれ・・・わたしてきたの。」
その紙は、なにか小さい字でたくさんかいてあって、ハンコを押すところがある。
「これって・・・・中絶させるための・・・紙じゃない。」
景子さんは、悲しい顔をする。
「だから、私・・・中絶したくない。って言ったら・・・・・自力でもさせるって。
私のこと・・・・ふしだらだって。」
奈津は、思いやられていた。
「怖かったでしょ??大丈夫よ。私の家の庭に小さな小屋あるでしょ?あそこは使ってない
からいいわよ。ちょっと2人で考えなさい。」
僕は泣いている奈津を手に取り、小屋まで一緒に行った。
小屋の中はふつうの1部屋ぐらいでベットは1つあった。
洗濯機とかなどの家庭製品もあった。
「すごいなぁ。」
僕は、この家でなら新しいスタートが出来ると思った。
なんでも、やり直せると思った。






