ゲメーシッヒ 2
「ああ、眠いしんどい辛い気が重い・・・。もう限界だ。街に着いたらやっぱりボスに手紙を出そう。さすがに無理。あれ、ムリ」
個室に鍵をかけて座席に倒れ込んだ。対して柔らかくもないので寝心地は全くよくないが、それももう慣れたものだ。つまり、慣れるくらいまではセバスも頑張ってみたのだが、やっぱり無理だったという話だ。
「トイレ・・・・・・」
セバスは独り言が多い。それは十分に自分でも自覚しているのだけれど、どうしても治らない。人が周囲にいるときはできるだけ出さないように気をつけて入るのだが。
愚鈍な山の様に向くりと起き上がり、ふらふらとドアに近付いて、鍵を開け、スライドさせた。
「ぴぎゃあああああああ!!」
そしてこちらを覗きこむようにかがんでいた碧眼と目が合った。
セバスはあわててドアを閉めようとしたが、がっちりと指を間に差し込まれ、こう着状態に陥った。それも一瞬で、力の差によってすぐにドアは開けられ、金髪の男が入って来た。
「ヘイ、ボーイ。ユーアーベリーキュート。オジサント一緒ニ、イイコトシマセーンカ?」
セバスは神を呪った。
「今度は何キャラだ!そして僕はガールだという事はその空っぽの脳みそに直接語らないとわからないのか!!」
「パードゥン?」
パードゥン?=Pardon?・・・「もう一度言ってくれませんか?」
「うっぜえええええ!!」
外人のホモキャラ気取りのクオンはそのまま座席に腰を下ろした。セバスにはもはや殴る気力もない。
「ああ、もう!超能力を手にしてすれ違うすべての人を不幸にしたい!!」
傷ついたティーンズの心はもはや修復不可能だった。
「そう言うな、セバスよ。いいから私といい事をしようではないか」
「誰がするか、この変態!!」
「変態?何を言っている?私が言っている『いい事』というのは拾った財布を持ち主に返したり、迷子の子供をあやしたりという意味だぞ?」
「ぐ・・・・・・」
不覚だった。
「ふふふ。それとも何かな?セバスはそういうエロティックな妄想をしたのかな?」
「ぐぐぐ・・・・・・」
唸り声しか出なかった。
「やれやれ。これだから多感な思春期の子供は困るのだ。エロは地球を救うと勘違いしているのだから」
「・・・・・・・・・・・・」
涙目になってきた。
「これからはセバスに対する認識を改めなければならないな。そうボスにも報告しておこう」
「・・・・・・・・・ぐすっ」
泣いた。
「もっ・・・やだ・・・・・・」
セバスは心身ともにボロボロになり、立ち尽くすことしかできなかった。
「もうやだー!」
「あー・・・」
ここに来てようやくクオンは罪悪感を感じたらしい。
「冗談だ。私はエロい意味で言った」
が、フォローの仕方が間違っていた。
「思春期の少年少女がエロいのは当然だ。さもなくば人類は滅んでしまう。だからセバス、お前も自分を誇っていい」
どこまでも間違っていた。
「まあまあ、座れ。少し真面目な話をしようではないか」
フォローに限界を感じたので話をそらした。目じりに当てていたセバスの右手を掴み、座席に座らせた。セバスは抵抗なく座る。どうやらもうトイレに行く気力もないらしい。
「もうすぐ街に着く。だから私は荷物をまとめに来たのだ。お前も眠たいのはわかるが街に着くまで我慢をしておけ」
「うん・・・・・・・・・・・・わかった」
涙をぬぐいながらこくりとうなずいた。気力もないし、まじめな話なので普通に素直だ。
「とりあえず私は取材に行くがお前はどうする?別にホテルで休んでいてもいいが」
「えっ・・・・・・」
セバスは驚いて顔を上げた。ちらっと窓の外を確認する。雪は降っていない。
「えと・・・誰、ですか?」
「それはどういう趣旨の質問だ!?」
さすがにクオンも声を荒げた。浮かしかけていた腰を再び座席に戻す。
「まったく。これからセバスの私に対するイメージについて真剣に話し合う必要がありそうだ」
「変態」
「いささか的を外した答えだな。私はパピヨンの幼虫ではない」
「うざキャラ」
「感受性と耐久力の問題だ。私ほどの男であれば、私と一緒に暮らしたところで夫婦仲良く幸せになれるだろうよ」
「・・・・・・」
返事が途切れた。クオンが顔を上げると、セバスは旅行記を抱きしめたまま瞳を閉じ、薄く寝息を立てていた。
「結局寝るのか・・・。まあ、夜更かしはお肌の天敵だからな」
クオンは黙々と荷物をまとめ始める。途中で気付き、セバスにスーツのジャケットをかけた。あらかたまとめ終えると、横になって二度寝を開始する。理由は簡単。食後の睡眠ほど気持ちいいものはないからだ。