アプマーシュ 10
「すごかったね・・・」
個室に帰る途中でセバスはクオンにそう言った。
「私がか?」
「お前じゃねえよ!」
折角戻ってきた潤いがまた乾いていく気がした。どうしてこの大人はこうなのだろうかと首をかしげた。
「うん、いい記事が書けそうだ」
部屋に戻ると、旅行記に書き込みを始めた。書きたいことが多すぎてなかなかまとまらない。
「まじめだな、セバス。そんなもの本社にいる連中に任せればいいだろうに」
「僕は記事が書きたくて新聞社にいるの!クフォンはどうだか知らないけどさ」
そう、2人は新聞社に勤務している。それがどうして列車に乗っているのかといえばなかなか深い事情があるのだけれど。
「まあいい。それより明日は街に着く。私は寝るぞ、おやすみ」
クオンは座席に横になる。
「いやちょっと待て、ここは僕が寝るから出てってよ!」
「くかー」
「そんなわざとらしい寝息を立てるな!」
クオンは目を開け、横になったままセバスを見た。
「朝から晩まできゃんきゃんとうるさいやつだな。細かいことを気にするな」
「細かくない!僕の貞操の危機だ!」
「そうか、セバスはまだ処女か」
「ゆりかごから墓場までセクハラかこの野郎!いいから出てけよ!」
「えー、いいじゃん、いっしょに寝よーよー」
「かわいく言ってもだめなものはだめっ!昨日みたい食堂車で寝ればいいだろ!」
「ひどい女尊男卑だな。世界中の男に恨まれるぞ」
「望むところだ!」
「まあ、私だけは味方してやる」
「いや、クフォンだけはマジでいらない。いいから向こうへ行ってよ」
しっしっ、と手を振る。
「おいおいそんなことを・・・くかー」
「だからそんな寝息はフツー立てないんだよ!」
反応はない。
「おーい、クフォン。早く出てってよ。僕が寝れないじゃないか。ちょっと・・・マジで寝てる?・・・・・・起きてよぅ」
返事はない。
「えー、ちょっと、どうするのさ。僕だって明日早いんだから寝たいんだけど」
返事はない。
「どうしよ・・・・・・」
人見知りのセバスにはほかに頼れる人がいるわけもなく、クオンがいつ目覚めるかわからない状況で熟睡もできなかったのは言うまでもない。