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秋葉原


 ブラックシェルは病室内に居た。

「無様だな」

 ブラックシェルはベッドに横たわる紅龍を見ながら言った。

「……申し訳……あり、ま……せん」

 酸素マスク越しに、途切れ途切れに紅龍は謝罪した。

「素人同然のウィザードに後れを取るとは……」

 紅龍は集中治療室で処置が終わったところだった。

 倒れていた紅龍は回収され、医療機関に運び込まれた。

 マージを対応できる医療機関は東京でも限られている。

 紅龍のマージと脳を結線するナノファイバーは断線し、現在使用不可である。

 マージハイブも壊滅的ダメージを被っている。

 現在、液状医療ナノマシンが投薬され、紅龍の脳内神経の回復と修復が行われていた。

「仕事を引き継ぐ。お前の持つ情報をもらおうか……?」

 ブラックシェルは言う。

「……マージは現在自己修復中です。DNAメモリー……は、生きている……ようですが……BMI通信は、でき……ません」

「必要ない」

 ナノ粘土を近くに置き、袋を破り中身を出すと、ブラックシェルは紅龍の額を鷲掴みする。

「お前の脳から直接情報をもらう」

「……ま、待ってくだ……さい……」

「時間が無い」

 紅龍の呼吸が激しく乱れ、脳波や心拍数が大きく乱れる。

「……追跡は継続中か。腐ってもウィザードだな……ハイブの機能もついでに借りるぞ」

 呼応するようにナノ粘土に電子の光が走り、活性化していた。



 山手線に乗りながら、レイジと明那は秋葉原を目指していた。

「ねえ、レイジ君……」

 明那が聞きずらそうにレイジに尋ねてきた。

「何だよ?」

「お礼はどうする……?」

「はぁ?」

「だって、タダって訳には行かないでしょ……?」

「……後で考える」

 別に金などもらわなくても、レイジはやるつもりではいた。

 アイコニック社が絡んでいる。理由がないわけではない。

「キスもしちゃったしねーっ」

 朧の言葉に、レイジは渋い顔をする。

「……そっか、キスの貸しがあるか」

 明那の言葉に、レイジは口を尖らせ、バツの悪い顔をする。

「まあ、お互い初キッス同士、めでたいという事で。特に君はいい思いしたんだから、諦めなさい」

「……そう言えば、歌上手いんだな?」

 話をそらす為か、レイジは別の話題を切り出してきた。

「そう思う……?」

「さすが歌手だな……皮肉じゃないぞ」

「――ありがと」

 レイジの言葉に、明那はどこか寂しそうだった。


 秋葉原の電気街に入ったとたん、レイジ達は仮象体達の洪水に飲み込まれ、情報量が一気に増えたような感覚を味わった。

 従来の大型広告看板に加え、エレメントを使用した仮象広告が無数に踊り、まるでおとぎの国へ迷い込んだようだった。

 どの店も、目玉商品をリアルタイムにリストアップし、仮象体スクリーン広告で打ち出している。

 安価で手軽な広告媒体であるエレメントは量販店にとって、有効な宣伝効果だった。

 秋葉原もまた、エレメントに彩られた仮象現実空間である。

 エレメントが生み出す仮象存在である広告マペットで埋め尽くされ、電気街のメイン通りを歩き回る。

 まるでそれは妖精か精霊のようだ。

 レイジと明那はメイン通りから、裏通りに入る。

 広告マペットも数もさることながら、広告データロイドの姿も多い。

 また店先では、アニメの女性キャラクターが仮象体となって、客引きを行っている。

 さらに生身の身体を持つ人間がコスプレチックな格好をして、チラシを配っている。

 チラシを受け取り、レイジは内容を確認する。

 仮想現実没入型のゴーグルやレイジが持つエレメント投射型音楽再生プレイヤーなどが安売りされている。

「で、どこへ行くんだ……?」

 レイジは明那に尋ねていた。

「電脳横丁に行きたいの。秋葉原にあるって話なんだけど」

「電脳横丁……? そんな店聞いたことないな」

「……仮想空間データヴァース。本当にウィザードなの?」

「……悪かったな。どーせ俺は半人前だよ」

 レイジは明那の言葉にむくれた。 

「で、そんなところに行ってどーすんだよ?」

「ウィザードの集まる仮想空間なんだって。情報避難地に関する情報を集めたいの。ウィザードしかいけない空間だし、わたしのマージも使えないから、今まで手をこまねいていたんだけど……」

「ふうん」

「噂だと、接続ポイントがこの街にしかないんだって。通常のネット経由の接続では、アクセスできない空間みたいなの」

 明那は周りを見渡す。

「……でも、どこにあるのかしら」

 これだけ広告マペットやアドロイドが溢れかえっている以上探しようがない。

「朧に探させようか?」

 レイジが提案した。

「お願いできる……?」

「やってみるよ」

 朧が出現していた。

「仮想空間を探せばいいの?」

 朧はレイジに尋ねる。

「ああ」

「……でも、ぱっと見、この街自体、はっきりいって余白はあまり残ってないみたいだけど」

「たぶん、アクセスポイントがどっかに隠されているはずだ。もしかしたら仮象体の類でひそんでいるのかも」

「……なるほどね。まあ、検索してみる。一時間ぐらい掛かるから、どっかで暇つぶしてて」

「わかった」

「……用心してよ。あのPMCウィザードがまだ探してると思うから。すぐに見つかったのも、すっごく気になるのよね」

「……無人追跡機か何かか?」 

「多分ね。ナノ粘土作った安物じゃなく、単独で動ける軍事規格のハードなやつ。ステルス処理もかかってるから

 ふわふわと朧は空中へ飛んでいった。

「……彼女が居なくなるとどうなるの」

「ウィザードの能力が使えなくなる」

「……大丈夫なの?」

「すぐに呼びもどせるよ。あくまであれは朧の手足みたいなもんだから。……それまで朧の言う通り、時間潰すか」

「……メイド喫茶にでも行ってみる?」

 楽しそうに言う明那に、レイジは「ええっ?」と思わず尋ねた。

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