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仮想空間 『瞑想寺院別館<日本様式>』

 07:30:56 <meditationtemple.annex/japonism> LOGIN


「……困ったことになったな」

 グレイン教授はレイジを咎める様に言う。

 不機嫌さを露にしている教授に、レイジは緊張を身体にみなぎらせていた。

 朧もどこか居心地が悪そうだった。

「昨日の騒ぎは、やはり君の仕業かね……?」

 PMCウィザードの紅龍とレイジの戦闘はグレイン教授の耳にも届いていたようだ。

「……すみません」

 レイジが頭を下げる。

 今三人がいるのは茶室か和室のような部屋だった。

 三人がいるのは、瞑想寺院別館(アネックス)日本様式ジャポニズムである。

 瞑想寺院本館とは別のサーバーに築かれた仮想空間である。

 いわば別のアジトであり、本館の場所が探り当てられない為のものである。

 本館で出会うことが危険な場合になどに使用する保険のような場所で、グレイン教授の複製エージェントが常駐している。 

 法の目を掻い潜り、アンダーグラウンドを生きる者たちの当然の知恵と言えた。

「……幕張の騒ぎもその娘かね」

 グレイン教授が尋ねる。

「……のようです」

「みたいね」

「マージの分離を希望しているようだが、それくらい君でどうにかできんのかね。君の自慢のマージは何をやっている……?」

 グレイン教授の言葉に、朧は口を尖らせて、肩をすくめる。

「……じぇんじぇん適いません。だって、AAA規格のデータだもん」

「AAAだと……? 軍事機密レベルだな。高々バーチャルアイドルに大げさなことだな」

 教授の発言に、朧は失笑した。

「……バーチャルアイドルって、古い言い方……。アイドルの存在自体がバーチャルみたいなものじゃない」

 朧のもっともな指摘に、グレイン教授は咳払いをした。

「でも、著作権保持にしちゃ、大げさなのよねえ」

 朧の話に、教授は溜息を吐いた。

「……本来ならば、許される事ではないが、一緒に連れてきたまえ」

「いいんですか?」

「……仕方あるまい。不肖な弟子のフォローを行うのも、師の役目だろう」

 教授の言葉に、レイジは胸をなでおろす。

 彼女のマージを調べ、撤去するには教授の力なくしては適わないと思っていた。

「君の家からのアクセスは避けたほうがいいな。しばらく家にも戻らないほうがいい」

「そのつもりです」

「こちらの方でアクセスポイントが準備でき次第、連絡する。その間、君達はどうするつもりだ……?」

「本人は情報を集めたいと秋葉原に行きたいそうです。情報避難地に向いたいらしくて」

「情報避難地――」

 グレイン教授は考えるように言う。

「……まあいい。修行の一環と思い、探し当ててみたまえ」

 

 08:10:42 <meditationtemple.annex/japonism> LOGOUT


「どうだった……?」

 レイジが目を開けると、明那が心配そうに尋ねてきた。

「いいってさ」

 レイジの言葉に、明那は「……よかった」とほっとした表情を見せる。

 レイジ達がいるのは、現実世界は二四時間営業のファミレスである。

 ファミレスのボックス席からの仮想空間へのアクセスだった。

 明那の体調が回復すると、レイジ達はすぐに移動し、新宿の繁華街に身を潜めた。自宅へは戻らなかった。

 マンガ喫茶で一夜を明かし、少し身体を休めた後、朝食をするためにファミレスに入っていた。

「……結構怒ってたねえ、教授」

 仮象体で出現している朧の言葉に、レイジは溜息を吐く。

「しょうがねえよ、この場合……」

 不機嫌な教授の様子に、レイジのテンションはすっかり下がっている。

「……でも、ウィザードってホントすごいね。接続デバイス無しで仮想空間にアクセスできるなんて……」

 明那は感心したように言った。

「……まあ、エレメントを利用した単なる店内ネットワークの無断使用だけどね。マージを共生実装してるアキナッチもできるはずだけど……?」

 朧の言葉に、明那は曖昧に笑うだけだった。

「この後どうする?」

「決まってんだろ……アキバだろ。メシ食ったらすぐに行くぞ」

「うん」

 レイジの言葉に、明那は力強く頷いていた。

「何、食べよっかな……?」

 明那はメニューを見ながら言った。

「――身体の方はもう大丈夫なんだよな?」

 レイジは頬杖をつきながら、明那に尋ねた。

「うん、すっかり元気。レイジ君は何にする?」

「……焼魚定食でいいよ。メシ食う気分にもなれねえ」 

「ダメだって。朝食は一日の活動の基本でしょ? わたしハンバーグ定食にしよ」

 明那はスタッフを呼び出すために、ブザーを押す。

「……電気街か」

 そう言うと、レイジは思わず欠伸をしていた。


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