第二章 頂上決戦!意味不明VS常識
予算委員会当日。構文マンにとって最大の見せ場がやってきた。テレビ中継も入る重要な質疑で、全国民が注目している。
「それでは、文法議員の質疑を開始します」
委員長の声に、構文マンは胸を張って立ち上がった。
「総理大臣、そして国民の皆様、おはようございます」
出だしは完璧だった。明瞭で美しい発音に、誰もが期待を抱いた。しかし...
「まず初めに、総理にお聞きします。現在の経済状況について、総理は状況をシチュエーションに変える気はおありでしょうか?」
「え?」
総理大臣も困惑した。状況をシチュエーションに変える?同じ意味ではないか。
「文法議員、『状況をシチュエーションに』とは、具体的にはどのような...?」
「はい、総理。状況は日本の状況、シチュエーションは国際的な状況です。全く違います」
総理は苦笑いを浮かべた。
「それは...同じことではないでしょうか?」
「とんでもありません!状況とシチュエーションは、問題をプロブレムに変えるほど違います!」
また出た。今度は「問題をプロブレムに変える」である。
テレビを見ていた国民は、画面に向かってツッコミを入れていた。
「同じだろ!」 「何言ってるんだこの人!」 「でも発音は綺麗だなあ」
構文マンの快進撃は続く。
「続いて、教育問題について質問します」
「はい」
総理も身構えた。今度はどんな意味不明発言が飛び出すか分からない。
「総理は、子供たちの教育をエデュケーションに変えて、学習をスタディに変えて、知識をナレッジに変える気はありますか?」
「...すべて同じ意味ですが」
総理も慣れてきた。
「同じではありません!教育は日本の教育、エデュケーションはアメリカの教育、そして学習は個人の学習、スタディは集団の学習です!」
完全に独自理論である。
野党席から、仲間の議員がフォローを試みた。
「文法議員の言いたいことは...」
「いえいえ、大丈夫です!」
構文マンは手を振って制止した。
「私の発言は明瞭ですから、説明は不要です。問題をプロブレムに変えて解決しましょう!」
フォローしようとした議員も頭を抱えた。
そして、ついに構文マンの代表作が飛び出した。
「最後に、物価高騰について再度質問します」
「はい」
「米の価格が上昇していますが、総理はどう対応されますか?」
「米価対策については、生産者支援と流通改善を...」
「それでは不十分です!」
構文マンは力強く反論した。
「米が高騰している今こそ、国民の皆様には価格が落ち着くまで、ライスカレーでも食べて我慢していただきましょう!」
委員会室が静まり返った。
「文法議員...ライスカレーにも米は使いますが...」
総理が優しく指摘した。
「いえいえ、総理は勘違いされています。米はライス、ライスは米です。別々のものなんです」
「...同じものです」
「違います!米は和食で使うもの、ライスは洋食で使うものです!」
もはや誰も理解できない独自の分類法である。
質疑終了後、委員会室は異様な静寂に包まれた。
「お疲れ様でした」
総理が挨拶したが、その表情は疲労困憊だった。
廊下で、構文マンは記者たちに囲まれた。
「文法議員、先ほどの質疑についてですが...」
「はい、素晴らしい質疑でしたね。問題をプロブレムに変えて、解決をソリューションに変えることができました」
記者たちは顔を見合わせた。
「議員の『力をパワーに変えて』という発言ですが、これはどういう意味でしょうか?」
「簡単です。力は物理的な力、パワーは精神的な力です。全然違います」
記者の一人が勇気を出してツッコんだ。
「でも、一般的には同じ意味だと思いますが...」
「それは認識をレコグニションに変える必要がありますね」
記者たちは諦めた。
その夜のニュースは、構文マンの発言で持ちきりとなった。
「国会で意味不明発言を繰り返す文法議員」
「ネットでは『同じだろ』のツッコミが殺到」
「専門家『日本語と英語の区別ができていない可能性』」
しかし、構文マン本人は大満足だった。
「佐藤田中君、今日は大成功だったね」
「先生...私の名前は佐藤です。そして、今日の質疑は...」
「何を言っているんだい。私の発言は言語明瞭だったじゃないか」
「明瞭でしたが、意味が...」
「意味?意味をミーニングに変えれば分かりやすくなるよ」
秘書は諦めた。しかし、この後に意外な展開が待っていることを、まだ誰も知らなかった。




