第一章 明瞭すぎる不明瞭発言
蓬莱国国会議事堂、経済産業委員会室。今日は物価高騰対策について重要な審議が行われている。その中で、野党席から立ち上がった一人の議員の姿があった。第四十八選挙区選出の文法錯乱議員(通称:構文マン)である。
「委員長!」
力強く、非常に明瞭な発音でマイクに向かった構文マン。その声の美しさと明瞭さは、元アナウンサーも顔負けするほどだった。
「はい、文法議員、どうぞ」
「ありがとうございます。委員長、そして国民の皆様」
流麗な語り口で始まった構文マンの発言。しかし、次の瞬間から事態は急変する。
「現在の物価高騰問題について、私は力をパワーに変えて対応すべきだと考えています!」
「え?」
委員会室がざわめいた。「力をパワーに変えて」?同じ意味ではないか。
「文法議員、『力をパワーに』とは...?」
委員長も困惑している。構文マンは胸を張って答えた。
「はい!力をパワーに変えることで、我々は今まで以上にパワフルな力を発揮できるのです!」
さらに意味不明になった。隣席の田中常識議員が小声でツッコミを入れた。
「それ、同じ意味だろ...」
しかし、構文マンの快進撃は止まらない。
「特に、米の価格高騰については深刻な問題です」
「そうですね、米価対策は重要です」
委員長も頷いた。ここまでは正常だった。しかし...
「そこで私は提案します。米が高騰しているので、価格が落ち着くまでは、ライスカレーでも食べて我慢しましょう!」
「はあ?」
今度は委員会室全体がざわめいた。米が高いからライスカレーを食べろ?ライスカレーにも米は使うではないか。
「文法議員、ライスカレーにも米は...」
「そうです!ライスなら米よりも安いのです!」
完全に支離滅裂である。ライスは英語で米のことなのに、なぜか別物だと思っている。
「議員、ライスと米は同じものですが...」
「いえいえ、ライスはライス、米は米です。似て非なるものです」
もはや哲学の域に達している。
質疑終了後、廊下で構文マンの秘書、佐藤理解不能氏が頭を抱えていた。
「先生、今日もまた...」
「田中君、素晴らしい発言だったね。きっと国民に伝わったよ」
構文マンは本気でそう思っていた。秘書は「佐藤」だが、構文マンは時々名前も間違える。
「先生、私、佐藤ですけど...」
「そうそう、田中佐藤君」
名前まで支離滅裂になってしまった。
事務所に戻ると、構文マンは満足そうに椅子に座った。
「今日の『力をパワーに変えて』は我ながら名言だったね」
「先生...それ、同じ意味ですよね?」
「何を言っているんだい、佐藤田中君。力とパワーは全然違うじゃないか」
「どう違うんですか?」
「力は日本語、パワーは英語だよ。全く別の概念だ」
秘書は天を仰いだ。この調子で、構文マンは毎日意味不明な発言を繰り返していた。
「そういえば先生、明日は予算委員会で質疑がありますね」
「そうだった。準備しなければ。佐藤田中君、原稿は?」
「こちらです」
秘書が渡した原稿は、非常にまともな内容だった。しかし、構文マンが読むと必ず意味不明になってしまう。
「『経済政策について』...ああ、これは『経済をエコノミーに変えて』にしよう」
「先生、それも同じ意味です」
「違うよ。経済は日本の経済、エコノミーは世界の経済だ」
もはや秘書には反論する気力もなかった。
その夜、構文マンは自宅で明日の質疑の練習をしていた。
「国民の皆様、私は希望をホープに変えて、未来をフューチャーに変えて、皆様の生活をライフに変えていきます!」
全部同じ意味である。しかし、本人は得意満面だった。
「うん、完璧だ。これで明日は大丈夫」
翌朝、新聞を読んでいた構文マンは、自分の記事を見つけた。
「『構文議員、またも意味不明発言』...何だこれは。記者は私の発言を理解していないようだね」
「先生、記者の理解力の問題じゃないと思いますが...」
「いや、きっと私の発言が高度すぎるんだよ。知識をナレッジに変えて説明しなければ」
また始まった。秘書の佐藤理解不能氏は、今日も長い一日になりそうだと覚悟を決めた。
「先生、とりあえず国会に向かいましょう」
「そうだね、田中佐藤君。今日も力をパワーに変えて頑張ろう!」
かくして、今日も構文マンの意味不明な発言が国会に響くことになる。言語明瞭、意味不明。それが構文マンの真骨頂だった。




