5.最後の子
黒翼団との戦いを終えた五人は、南東の集落跡を目指して荒野を踏み越えていた。風が冷たく頬を刺し、砂が足元で舞う中、ミリアは首飾りを手に持つと、地図に目を落とした。二つ目のエーテルの欠片を手に入れた達成感と、黒翼団の目的への不安が、彼女の胸に交錯していた。
「集落跡に次の欠片があるはず。私たちの旅が、エイドスの真実を明らかにする一歩になるわ」と彼女が静かに語った。首飾りの光が強まり、彼女に冷静さを取り戻させていた。風が彼女の口ーブを揺らし、砂が髪に絡む。彼女は目を細め、地図の古びた線を指でなぞった。星詠みの民としての使命が、彼女の心に熱い鼓動を響かせていた。彼女は風の音に耳を澄ませ、遠くの気配を捉えようとした。
レオンが先頭を進んでいる。黒翼団との戦いで見えた守護者の記憶が、彼に新たな使命感を植え付けていた。「俺の剣が過去と繋がってるなら、答えを見つける」と彼が呟き、風に髪を乱された。傭兵としての直感が、彼に迫る戦いの気配を伝えていた。
小さなオアシスにたどり着いたのは、数時間後の昼下がりだった。枯れた大地に珍しく、水が湧き、僅かな草が生えている。ミリアが地図を確認し、次の目的地を定めた。「このオアシスから南東へ進めば、星詠みの民の集落跡よ。そこに次の欠片があるはず」と彼女が言った。首飾りの光が強まり、彼女に希望を与えていた。
彼女は水辺に膝をつき、地図を広げた。風が水面を揺らし、彼女の顔に涼しさを運んだ。彼女は水に手を浸し、冷たさを感じながら心を落ち着けた。
「水があるなら一休みだな。俺も馬も疲れてるぜ」とガルドが馬を水辺に近づけ、鞍から降りた。彼は水面に映る自分の姿を見つめ、軽く笑った。「こんなとこで戦うなんて、俺らしいっちゃ俺らしいよな」と彼が呟き、水を手にすくって顔を洗った。砂が落ち、彼の顔に清々しさが戻った。彼は馬の首を撫で、風に目を細めた。
「ねえ、水飲んでいい?」カイが杖を置いて水辺に近づくと、レオンが頷いた。「ああ、だが、気をつけろ。何か変な気配がする」と彼が言い、風に耳を傾けた。
その言葉通り、カイが水に手を伸ばした瞬間、水面が揺れ、青い光が溢れ出した。驚いた五人が立ち上がると、光が形を成し、透き通った人影が浮かび上がった。長い髪が風に揺れ、穏やかな笑みを浮かべる女の姿だった。「恐れなくていい。私は星詠みの民の記憶。エイドスの意志を伝える者よ」とその声が響いた。風が人影を包み、彼女に優雅な気配を与えていた。
「エイドスの意志?」ミリアが首飾りを握ると、光が人影と共鳴した。彼女の胸に、星詠みの民としての誇りが湧き上がった。「あなたなら、次の欠片の場所を知ってるのね?」と彼女が問いかけ、風に目を細めた。
「集落跡に三つ目の欠片がある。だが、そこには試練が待つ。お前たちの絆が、それを乗り越える鍵だ」と人影が言った。カイが子守唄を口ずさむと、人影の笑みが深まった。「最後の子よ。あなたの歌は、エイドスの旋律。純粋な心がそれを呼び覚ます」と彼女が語り、カイに目を向けた。
「最後の子って、僕のこと?」カイが目を丸くした。「僕、歌うだけでいいの?」と彼が笑い、杖を手に持った。
「そうだ。お前はエイドスの力を繋ぐ者。そして、お前...」人影がレオンを見ると、彼の剣が脈動し、紋様が強く光った。「それは守護者の証。お前はエイドスの血を引く者。過去の記憶が、お前を導くだろう」と彼女が言い、風に髪をなびかせた。
人影が消えかかり、最後に言った。「試練を乗り越えなさい。光が導く先に、答えがある」彼女の声が風に溶け、静寂が戻った。