5話 お誘い
魔術大会、それは夏休み前の最大のイベントだ。学生の魔法の練度を確かめる機会として行われている。
学生からも全力で魔法を行使できる機会として人気だった。
そんな魔術大会には二つの部門が存在する。一つ目は魔法の技量を確かめる技術部門。これは発動や制御が難しい魔法を、どれだけ正確に扱えるかを審査するものだ。
また魔法の精度を確かめる的当てなども行われる。
そしてもう一つの部門は、この大会で最も盛り上がるメインイベントの、クラス対抗戦だ。対抗戦では実戦的な魔法の技量を測るという目的がある。
毎年、全力で魔法をぶつけ合う姿が生徒の興奮を呼んでおり、激しく盛り上がるイベントとなっている。
ヒバリはこの対抗戦に出場するよう頼まれていたのだ。なぜならヒバリは上級生を決闘で圧倒できるほど、魔法の練度が高いためだ。
そしてクラスの中でヒバリが最も実戦的な魔法で強いのも理由の一つだ。
しかし対抗戦に出場する上で一つの問題があった。それは対抗戦はペアでの出場なのだ。そのためヒバリはペアの相手を探していたのだ。
「ど、どうして僕なんですか?」
カイはヒバリから誘われた理由がわからず困惑していた。
「やっぱり突然で驚くよね。順番に説明するね」
ヒバリはカイを選んだ理由を話し始めた。
「まず私の友達は戦うのが苦手で出たがらなかったんだよね」
ヒバリは最初女子の友達を誘って対抗戦に出ようとした。しかし女子の友達はヒバリほど魔法の練度が高くないため、出たくないと断ったのだ。
「それで男友達で一番仲の良い若夏くんに決めたの」
カイは一番仲の良い男子という言葉に胸が躍った。
「それに実習で若夏くんが魔法を使うところを見て、ペアになりたいと思ったの!」
ヒバリは魔法の実習でカイのことを見ていた。そしてカイの技量なら一緒に対抗戦に出ても大丈夫だと思ったのだ。
以上の理由からカイに白羽の矢が立ったのだ。
カイは嬉しさと困惑から、中々返答出来ないでいた。するとヒバリは上目遣いでカイを見つめてきた。
「私と出るの、嫌?」
自分の可愛さを自覚している者にしか出来ない上目遣いだった。それをされたカイはすぐに了承の返事をした。
「い、嫌じゃないです! こちらこそよろしくお願いします!」
カイが対抗戦のペアになることを承諾したのを、ヒバリはとても喜んだ。
「それじゃあ、これからよろしくね!」
そう言うとヒバリはカイの手を握ってきた。カイはヒバリと直接触れ合ったことで、恥ずかしさと嬉しさが溢れて、キャパオーバーになった。
そしてカイはそのあとの記憶が曖昧になった。
※
カイが教室に戻るとハクロが待っていた。
「遅かったな、カイ。それで魔法薬学でのペアはどうだった?」
ハクロは先ほどの魔法薬学でのことをカイに聞こうとした。しかしカイは呆然としていて、聞こえていない様子だった。
「カイ、どうかしたのか?」
「ひ、ヒバリちゃんに……」
カイは虚ろな表情でヒバリの名を呟いていた。それを聞いてハクロは、カイがヒバリと何かあったと理解した。
ハクロはカイが落ち着くまで待つことにした。そしてそれからカイが正気を取り戻したのは、授業が終わって放課後になってからだった。
ハクロは再びカイに声を掛けた。今度は表情もはっきりしており、普通に話せるようになっていた。
「ヒバリちゃんと何があったんだ?」
「ヒバリちゃんに手を握られたんだ……」
「あー、それは良かったな」
ハクロはカイがヒバリに手を握られたと聞いて、その心情を慮った。好きな子に、それもとびきり美人に手を握られたのだ。
見た目が変わったとは言え、中身はまだまだ陰気なカイには刺激が強すぎた。
「ちなみに何で手を握られたんだ?」
「その、魔術大会の対抗戦に一緒に出ようって誘われて、それにオーケーを出したら、ヒバリちゃんが手を握ってきて」
カイは要点だけをハクロに話した。それを聞いたハクロは不思議そうな顔をした。
「何でカイを誘ったんだ?」
「男子の友達で一番仲が良いからって。それから魔法の実習を見ててくれたんだって!」
説明を聞いたハクロはまだ納得出来ないという表情だった。
「もしかしてヒバリちゃんもカイのことが好きなんじゃないか?」
「それはないと思うよ、ヒバリちゃんも友達って言ってたし」
「そうなんかなー」
カイは笑って否定した。カイはヒバリに友達と思われているので今は十分だった。
そしてその後、カイとハクロは魔法薬学でのことを話しながら一緒に下校した。
読んでいただきありがとうございます。
次回更新は1月24日の0時です。