26話 巨人の一撃
陽射しが照りつけるある晴れた日、虫の鳴き声が止まない森に人が来ていた。それは里山を管理する団体だった。
皆暑い中、作業着を着て森に足を踏み入れていた。団体は一般人四人、魔法使い一人の計五人で来ていた。
この団体は里山の管理をして、生態系の保全をするのが目的だった。そのために生えすぎた木々を伐採したり、増えすぎた動物を駆除したりしていた。
里山は資源である木材を手に入れられたり、動物の住処になったりして、人だけでなく動物にも重要な場所だった。
里山を管理することで、危険な動物や怪物が人里に来ることを防ぐことが出来る。そのため定期的にやって来ては森の様子を見ているのだ。
今日も樹の伐採や剪定などの下調べが目的だった。
「ここの樹も伐採ですね」
「そうですね、この樹も小さいし、切っちゃいましょう」
「それからこの辺りの地表を掻いておきましょう」
「わかりました」
団体が森の中を歩きながら作業の内容を決めていると、遠くから重い音が聞こえてきた。
「何だ? もしかして地滑りか!?」
最近この地域は雨が降り続いていたため、地盤が少し緩んでいたのだ。そのため団体は地滑りでも起きたのかと思った。
「でも、何か音が近づいて来てないか?」
「たしかに、何だろう?」
重い音はどんどん近づいて来た。音が近づくとともに地面が揺れ、遠くの方の樹が倒れ始めた。
そして森の木々の間から大きな影が姿を現した。それは巨人だった。
「まずい、巨人だ! 逃げろ!」
森で巨人と遭遇、それは熊と出会うより遥かに危険なことだった。熊であれば人間に怯えるが、巨人は人間に怯えることはない。
そのため巨人は人間に出会った場合、高確率で人間を襲うのだ。
「ここは巨人の縄張りからは遠い場所のはずだろ!?」
「そんなこと言ってる場合か! 早く走れ!」
里山の管理団体は一目散に逃げ出した。その殿をただ一人の魔法使いが務めた。魔法使いはこの中で、唯一巨人に対抗できる力を持っていた。
魔法使いは逃げる時間を稼ごうとした。
「頼む、こっちに来るな! 『赤矢』!」
放たれた赤い光の矢は巨人の腹部に当たった。それは巨人の皮膚に少し傷を付けた。魔法使いはこの威嚇射撃で、巨人が逃げてくれないかと祈った。
しかし巨人は魔法使いの目論見通りにはいかなかった。魔法で傷を負った巨人は、余計に腹を立てた。
そして怒りの声を上げ、魔法使いに向かって来た。巨人の大声で、魔法使いの体はビリビリと震えた。
「クソっ! 保護生物を殺すのは気が滅入るな! しかし、しょうがない!」
これ以上巨人を近づかせる訳にはいかなかった。里山まで来ているということは、いずれ人里にも姿を現す可能性がある。
そうなれば大きな被害が出る。魔法使いは覚悟を決めた。始末書で済むなら、それでいいと思ったのだ。魔法使いは人が死ぬよりマシだと思った。
魔法使いは巨人を殺すことにした。
「灼熱と沸き立つ血の結晶、我が敵を貫け! 『紅槍』!」
魔法使いが構えた杖の先から、煌々と光る紅い槍が顕現した。それは巨人に向かって飛んでいった。
上級魔法を使うのは久しぶりの魔法使いだったが、その腕は衰えていなかった。
「悪いな、死んでくれ……」
魔法使いはこれで戦闘が終わると思った。しかし魔法は巨人に当たると、何故かかき消されて消滅した。
「……は?」
魔法使いは、当たれば体に大穴が空くはずの攻撃魔法を撃った。しかしそこには無傷の巨人が立っていた。
学生の撃った上級魔法なら、顕現が不完全なため途中で消滅することは良くある。しかし魔法使いはいくら鈍っているとは言え、そんなミスをするほど若くなかった。
呆然とする魔法使いに、巨人の持つ大木が振り下ろされた。
「あ、『青盾』!」
正気に戻った魔法使いは防御魔法を張ったが、とてつもない質量を持つ攻撃に、初級の防御魔法では歯が立たなかった。
魔法使いは大木に叩き潰された。巨人はトマトのように地面に広がった魔法使いを食べ始めた。そして食べ終わると、巨人は逃げた団体を追い始めた。
その日、魔法使いを含む計三人が巨人によって殺された。逃げ切れたのは先頭を走っていた二人だけだった。
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