19話 触手の正体
暑さが増す夏休みの昼頃、カイは神社の境内に続く階段を上っていた。階段は長く、暑さも相まって汗が出ていた。
何故神社に向かっているのか、それは前日にヒバリから呼び出されていたからだ。花火大会のときに発現した触手について話があるのだ。
あの触手はSNSで話題になっていた。カイとヒバリの元彼が喧嘩をし始めたタイミングで、近くにいた人が動画を撮っていたのだ。
そのためSNSにそのときの様子が出回っていた。夜で暗かったため顔ははっきりと映っていなかったのが幸いだった。
しかし動画にはカイの背中から伸びる赤黒い、禍々しい触手はしっかりと映っていた。そしてその触手が男を川に放り投げる様子もはっきりと映っていた。
投稿された動画には触手について様々な考察がなされていた。見たことのない新しい魔法だと興奮するものや、カイのことを人間に化けた怪物だと言うものもあった。
皆、あの触手について知りたがっていた。それはカイも同じだった。自分の身に何が起こっているのか知りたかった。
神社の階段を上りきると、そこにはヒバリが待っていた。
「お待たせしました」
「ううん、全然待ってないよ! 急に呼び出したりしてごめんね」
神社には他に誰もいる様子はなく、二人きりだった。
「どうしてここに集合だったんですか?」
「それはね、ここなら人気もないし、触手が出ても誰にも迷惑掛からないと思ったの」
神社は周りを木で囲まれていて、視界を遮っていた。そのため、もし触手が発現しても人の目に触れることはない。
「それで、何かわかったんですか?」
「そうなの! これ見て!」
ヒバリは一枚の紙を見せた。それは本のページの写しだった。
ヒバリはあの触手が良いものだとは思えなかった。そのためここ数日図書館に通って、あらゆる文献を調べたのだ。
しかしどの魔術書にも、触手について記載しているものはなかった。そして検索の範囲を物語にまで広げた。
すると一冊の古い本が見つかった。そこに触手のことが書かれていたのだ。それは民間の伝承をまとめた本だった。
そこには悪魔をバラバラにして、それぞれを封印したという内容が書かれていた。そのバラバラにしたものの一部が触手だったのだ。
「これぐらいしか例の触手について書かれているのはなかったの」
「十分ですよ。ヒバリさん、ありがとうございます!」
「お礼はキスでいいよ」
「え!?」
キスと言われてカイは動揺した。確かにカイからヒバリにキスをしたことはなかった。単純にカイが奥手なため、キスをするのが恥ずかしいのだ。
ヒバリはカイをからかって楽しそうだった。
「いいねぇ。青春というやつだな」
カイは突然、自分たちのものではない声が聞こえた。周りを見渡すが、他に人はいなかった。
「どうしたの?」
突然真剣な表情で周りを見渡したカイに、ヒバリは疑問を持った。声はヒバリには聞こえていないようだった。
「また声が聞こえたんです」
「誰の声?」
「わからないんです。でも前に触手が出たときにも聞こえたんです」
するとカイの背中に違和感が来た。何かが飛び出して来そうな感覚だった。カイは何とかそれを抑えようとした。
しかしそれはムリだった。カイのうめき声とともに、背中から赤黒い、禍々しい触手が発現した。
そして触手が現れると、カイの表情も変わっていた。いつもの精悍な顔ではなく、ニヤついた顔つきになっていた。
「私のことが知りたいのか?」
そう言うとカイはヒバリに手を伸ばし、肩を抱き寄せた。その行動と表情から、ヒバリはカイではないと気付き、急いで距離を取った。
そしてヒバリは杖を取り出して構えた。
「誰なの、あなたは?」
ヒバリはカイの姿をした何かに質問した。表情や立ち姿から、カイでないことは明らかだった。
「私は、ギルバートだ。よろしく頼む」
カイの体を乗っ取った何かは、ギルバートと名乗った。
読んでいただきありがとうございます。
次回更新は2月7日の0時です。




