それでも日の出を見に行くんだ
『それでも日の出を見に行くんだ』を手に取っていただき、ありがとうございます。
悲しい幕開けとなった2024年ですが、少しでも手に取った人の心が安らげば、未来へ一歩踏み出す希望になれば、そう思い、物語を紡ぎました。
ぜひ、最後まで一読ください。
「海へ初日の出を見に行こう」
それが、ヒカリとセナの最後の約束でした。
「馬鹿なの? 日本海から日は昇らないんだよ?」
約束した日、セナはとっても冷たい目でヒカリを見つめました。
「じゃあ、確かめに行こうよ」
体の芯まで凍らせてしまうようなアスファルトの上を、白い吐息交じりに駆け出したあの日。
待ち合わせ場所に、セナは来ませんでした。
「遅いなぁ」
山の上には、とっくに日が昇り、今年の初日の出は終わってしまいました。
「来年は見に行こうよ」
「ごめんね」
セナはくしゃくしゃに顔を歪ませながら答えました。
すぐ顔に出るところも、すぐ泣きだしそうになるのも、セナそっくりです。
でも、今ここにいるセナは、本物じゃありません。それは、ヒカリ自身がよくわかっていました。
「夢の中ぐらい、見るって言えばいいじゃない!」
「うん、そうだね。見る。見るよ」
「絶対?」
「たぶん」
そうやって、濁すところもそっくりです。
でも、これはヒカリが見ている夢。
「見せたいものがあるの!」
「えぇ、なになに?」
今日も、ヒカリはセナの手を握り駆け出します。
日常が壊れたあの日。ヒカリはたくさんの発見がありました。
いつも閉じられていた、お寺のお堂の中が、思ったよりも広くて、暖かかったこと。お母さんの作る豚汁が世界一美味しいと思っていたのに、和尚さんがそれ以上に上手だったこと。近所のとっても怖いおじさんが、お菓子やカイロを分けてくれたりと、本当はとても優しかったこと。近所のおばさんが、とっても編み物上手で、ちゃちゃっと手袋を編んでくれたこと。いっぱいお手伝いした後のジュースが、最高に美味しいこと。
「ねぇ、とっても大変だったけど、いっぱい発見があったんだよ! 他にはね……」
「うん! うん!」
ヒカリが楽しそうに話せば、セナはもっと嬉しそうにうなずきました。
「セナ! わたし、まだ話したいことがたくさんあるの!」
「うん! いっぱい聞くよ!」
「あ、でももうすぐ日の出だ! 一緒に見に行こう!」
「うん」
今年初めてはダメだったけど、それでも一緒に日の出が見たい。
ヒカリの願いが、海辺へと駆り立てました。
「どうして海なんだよ。日本海から日は昇らないんだよ!」
「いいの! 昇るの! だってこれは」
約束の場所で、その時を待ちます。
「どうしてあの日、来なかったの?」
「ごめんね」
「謝ってばかりでずるい」
「ごめんね」
いつもセナはずるい。
そうやって、謝ればいいと思ってる。
「あ! 見てみて! お日様が昇ってきたよ!」
「わあ……」
水平線からヒカリとセナに向けて、一筋の煌めきが伸びてきました。
水面をキラキラと乱反射して、目に沁みます。
「ヒカリはずるいなぁ」
隣に立つ親友が零した言葉もまた、胸元を優しく、そっとくすぐります。
「ねぇ、セナ。このままずっと眺めていようよ」
「それはできないよ」
「じゃあ、次の次の次の、それから、三百六十回後の日の出まで、一緒に眺めていようよ」
「無理だよ」
「じゃあ、次の日の出までは、一緒にいようよ」
「それもできないよ。本当は、こっちから日が昇らないの、知ってるでしょ?」
「……うん」
ヒカリは、セナの小さな手をギュッと握りました。遠くに行かないように。
「ずるいなぁ」
セナの震える声がします。
「せ、セナこそズルいじゃない。わたし、セナの、いない場所に行かなきゃ、いけない」
ヒカリも唇が震えて、上手に話せません。
「ごめんね」
「いつも謝ってばかり」
「うん。だけど、友達だから、言わなきゃ」
セナは大きく息を吸って吐き出します。
「頑張れ! ヒカリ! みんなが待ってる!」
負けじと、ヒカリも大きく息を吸って、叫びました。
「また、会いに来てもいい?」
「うん! 待ってる! いつでも話、聞くから!」
その言葉を背に、ヒカリは太陽へと駆け出しました。
これからが一番大変だけど、いいんだ。
また新しい発見をセナに聞いてもらうんだ。
そしてまた、一緒に日の出を見に行くんだ。
それでもまた、日の出を見に行くんだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
物語を通じて、少しでも気持ちが明るくなっていただけたら本望です。
また、新たな物語を作っていく人が増えてくれると、さらにうれしく思います。
大変なのは本当にこれからだと思いますが、共に乗り越えていきましょう。