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狂気
○月✕日
彼のことを思い出すと決まって優しい夢をみる。
私にとって、とびきり都合良くできた夢。
久しぶりに会った彼が私に優しく笑いかけ、昔と変わらぬ会話を交わす、温かく幸せな夢。
作り出した彼の虚像を夢に見て、ふわふわと夢から醒めればそんな夢を見ていた自分に嫌気がさす。
幸せで最低な目覚めが彼を思い出すトリガーで、ふとそんな夢を見てしまえば、日常のそこかしこに彼の面影が顔を出す。
私を迎えに来てくれたあの車、いつも吸っていた煙草、よく行ったラーメン屋、好きだったお酒、目を輝かせてやっていたゲーム、カーオーディオから流れる音楽でさえ。次々に蘇るその一つひとつに触れてしまい、愛しい過去に浸る。
こんな想いは心の奥に仕舞っておくに限るのだ。
1人こっそり心の底に沈むくらいで丁度いい。
とは言え、今でも彼が似合うと言ったショートヘアにしているのは未練以外の何者でもない。自らの外見が既に未練を物語っている。
いつまで彼に縋って生きていくつもりでいるのだろうか。
これは自分で自分にかけた呪いである。
彼以外にもう1位は見つからない。
最早、愛した彼は彼ではないかもしれない。
これは、一種の狂気である。
ただ。
もうここまで来ればこの狂気が1番私らしい。
もう暫くは彼に縋って生きていくようだ。
許せ。笑いものにでもしてくれ。




