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あなたの人生に幸あれ  作者: 緋色ざき
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エピローグ

「万、起きろー」 

 月夜さんの声で僕の意識は覚醒する。

「ほれ、朝ごはん食べるぞ」

 僕はそれに頷いて、起き上がった。何か、とても切ない夢を見ていた気がしたが、思い出せない。

 顔を洗おうとして、水に触れると両手に痛みが走る。そうだ、僕の身体は傷だらけだったんだ。

台風の接近していたあの日。月夜さんが言うには、僕はなぜか自転車にまたがって神社に行ったそうだ。あまりこの辺のことをよく覚えていない。気づいたら傷だらけで、お宮の前に倒れていた。

 空は台風が来ていたなんて思えないほど、嘘みたいに晴れていて、鳥や蝉がけたたましく鳴いていた。不思議なことに僕はその神社にいままで一度も行ったことがなく、自分がどこにいるのかも分からないはずなのに、自然と帰り道は分かった。身体を引きずりながらなんとか帰路につくことができたけど、月夜さんにものすごい怒られて、心配されて、抱きしめられた。

 自転車は途中の道でひしゃげていて、月夜さんが回収してくれた。僕の愛車に一体何があったのかは、誰にも分からない。それから僕は、学校を三日間ほど欠席した。別に行けなくもなかったけど、月夜さん曰く、傷の療養をした方がいいし、その傷は目立つとのことで、それに従った。

「月夜さん、今日の新聞って出した?」

 洗面所から出て、尋ねる。

「いや、まだ出してない。任せた、万」

「オッケー」

 僕は扉を開けて、外に出る。日差しが眩しくて、思わず手を額に当てる。それから、ポストを覗いて、おや、と思う。新聞と、それから見慣れないものが入っていた。

「ハガキ?新品のかな……」

 裏を返すと、ありがとうと書いてあった。しかも、「あ」の字が掠れている。入れ間違いだろうか。でも、住所も何も書いていない。取りあえず、僕はその二つを家に持ち込んだ。

 

 リビングに戻ると、月夜さんがパンを頬張りながらテレビを見ていた。

「今日は土曜日かあ。万はなんか予定はある?」

「うーん、ちょっと、この間の神社にもう一回行ってみようかなと思う。もしかしたら何か思い出すかもしれないし」

「そっか、気をつけるんだぞ」

 うん、と笑顔で頷いて、朝ごはんを食べた。

 それから、着替えて家を飛び出す。そういえば、自転車は壊れているんだった。しょうがないから、歩いて行くか。僕は苦笑いをこぼして、それから歩き出した。

 空は、雲一つない晴天で、僕の体力をジワジワと奪っていく。途中見つけた自販機でアクエリを買って、それで喉を潤して緩やかな坂を登っていく。

 この先には、とても急な坂があり、そこから神社に繋がっていたはずだ。なぜか身体が道を覚えている。

 しかし、僕はなぜその神社に行ったのだろう。合格祈願でもしようと思ったのか。台風の日に。いままで一度も行ったことがない神社に。それはなんだか、ひどく不思議な話だ。

 坂を上り終え、神社の入り口に到着する。入り口にそびえ立つ鳥居の左側に石碑がある。

「銭洗……、なんだろう?」

 でも、財という文字が使われているし、勉学とは関係なさそうだ。金運アップとか、そういう類いのことを願いに参拝する神社なんじゃないだろうか。

 トンネルを抜けて、鳥居をくぐり中に入る。

 僕以外、誰もいない。廃れた神社だ。

 水くじと書かれた紙が置いてあった。一体、こんなものを誰がやるのだろうと思ったが、辺りを見渡してみると、ベンチの横にある木にくじが一つだけ結ばれていた。

「物好きもいるもんだな」

 僕は額の汗を拭ってそのベンチに腰掛ける。ここは、木々に囲まれていて、とても涼しい。それに、落ち葉などはほとんどなく、割とこぎれいな場所だ。

「意外と、いいところなのかもな」

 そう呟いて、ゆっくりと立ち上がり、もと来た道を引き返そうとする。が、ふと立ち止まる。

「折角来たんだし、お賽銭でもしとくか」

 お宮の前に立ち、お賽銭をして手を合わせる。どうか、受験に無事合格しますように。あまり意味はないかもしれないけれど、やって損することはないだろう。

 さあ、帰るかと振り返ると、不意に、桃色の羽織を身に纏った少女が前方から走ってきた。そしてそのまま、僕の横を駆け抜けていく。

 僕以外にも人がいたんだなと、少しびっくりして振り返るが、誰もいない。お宮と、小さな水のたまり場があって行き止まりのはずなのに。不思議だ。それになんだかさっきの子は見覚えがあるような気がした。まるで、どこかで会ったかのような……。

いや、そんなはずはないか。僕は首を横に振る。

 ただ、なんだかその少女に会えたことが少し嬉しくて、僕は思わず笑みを浮かべて歩き出した。

空は青く、透き通っていた。


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