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あなたの人生に幸あれ  作者: 緋色ざき
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会いたい心

「次のニュースです」

 弁天と別れてから二日後のこと。僕が単語帳と睨めっこしていると万さんがテレビをつけた。集中しているときに、とも思ったが、別に咎めるほどのものでもないし、社会の時事問題の勉強になるかもしれないと思い、顔を上げてニュースを見ることにする。

「台風五号が日本の南の海上で発生しました――」

 天気の話だった。タイムリーな話題だ。きっと、負因子の影響だろう。

「あー、また台風かよ。四号が沖縄の方に接近してるってときに。それもこの進路、うちの近くを通りそうだし……。非常食と水でも買っておくかなあ」

 月夜さんがそうぼやく。たしかに、このままいくと台風はこの辺りを通過しそうである。台風がこの近辺を直撃することなんて滅多になくて珍しいなと思う。一応、備えはしておいた方がいいだろう。

「月夜さん、その辺は僕の方で買っておくよ」

「まじか、万。愛してるぞー」

 そう言ってくっついてくる月夜さん。かなりうっとうしい。

 僕はそれを振りほどいて、窓の方へ行く。月と家の明かりでよく見える空はまだ平穏である。きっと、弁天の尽力で異常な勢力の超巨大台風が上陸するなんて事はないだろうけど、例年並みかそれ以上の影響はあるはずだ。それに、何も台風だけが災害ではない。他の災害だって十分起こりうる。しばらくは余談の許さない状況になるはずだ。台風だけじゃなくて、そういったことも考えて対策を取る必要がある。僕はそう結論づけて、自分の住んでいる地域のハザードマップを確認した。


「なあ万、聞いてくれよ」

 弁天と別れてから四日後のこと。

 霧雨が降り、暑さと相まってジメジメとした陽気で項垂れている僕に、幸が笑顔でそう話しかけてきた。湿気も気温も天気もまるでものともしないその様子に僕は唖然とする。こいつさては、感覚が麻痺しているのではないだろうか。

「昨日のことなんだけどさ――」

 そして、僕がうんともすんとも言う前から話し始める。もう聞かなくたってなんの話か分かる。須佐さんの話だ。僕はだから、適当に流す。正直どうでもいいので、聞き流す。傘のおかげである程度僕らの距離は取れているのに、まるで隣にくっついているようなうっとうしさだ。月夜さんに通じるやつだ。さては、二人は血が繋がっていたりするとか。そうすると、月夜さんと幸恵さんも血が繋がっていて……。いや、それはないか。

 それにしても、幸恵さんから幸が生まれたというのはかなりの謎である。幸恵さんが若いころは幸みたいだったとは考えにくい。幸のお父さんの方も、あまり会ったことはないけれど落ち着いたタイプだった気がする。不思議だ。鳥居家の七不思議の一つかもしれない。

「なあ、それでさ、万」

 どうでもいいことを考えていて、話を聞いていなかったので、何がそれでなのか分からないが、取りあえず頷いておく。

「今度、あの子も混ぜて四人で遊びに行かない?」

 あの子。あの子とは誰だろう。僕が頭にはてなマークを浮かべていると、幸が補足してくれる。

「一緒に夏祭りに行った子だよ」

「ああ、弁天か」

 そういえば、そうだった。つい先日の夏祭りがまるで遠い昔みたいに感じられる。それくらい、最近忙しないことが続いていた。

「そうそう、その子。須佐さんも会いたがっててさ」

 僕はここで答えに窮した。弁天はいまいない。会うことはできない。それは神さまだからだ。でも、まさか本当のことを言うわけにはいかないし、上手い理由もパッとは思いつかない。

「あー、もしかして無理そう?」

 無言の僕に何かを察して、幸はそう尋ねた。

「うん、そうなんだ」

「えっと、受験勉強が忙しいとか?」

「あー、う、うん。実はそうらしくて」

 真っ赤な嘘だ。ただ、僕は幸の言葉に乗っかる。きっと幸は弁天のことを僕らと同学年の子くらいに認識しているだろう。実は三百歳だと教えても信じてはくれるわけがない。

「ところで万。前にも聞いたと思うんだけど、あの子は万にとってどういう存在なんだ?」

 幸が単刀直入に聞いてきた。以前も似たような質問をされて誤魔化した気がする。ただ今回はどうしてか答えがすぐに浮かんできて、答えようと思えた。

「大事な存在だよ」

 僕にとって、とても。幸はその答えに笑って、僕の背中をばしんと叩いた。傘が揺れ、水しぶきが舞い散る。

「うわっ、冷たっ」

「自業自得だよ」

 幸は顔を拭い笑った。僕もつられて笑い返す。それからまた、幸は須佐さんの話を始めた。僕はそれに適当な相づちを打ちながら、ふと、別のことを考える。そう、弁天のことだ。幸との会話の中で出てきたせいで、より会いたいと思ってしまう。早く落ち着いて欲しいなと、傘越しに空を見上げて願った。


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