不幸な花火
「いま、二人は逢瀬を楽しんでいるころでしょうかねえ」
屋台が並ぶ通りを歩きながら、ふと弁天がそんなことを言う。
「まあ、そうだろうなあ。もしかしたら、二人が付き合って僕が朝一人で登校する未来も近いかもな」
夜空を鮮やかに照らす花火を見ながらそう答える。そうなったら、僕はまた月夜さんに心配されるのだろうか。それとも、幸恵さんから二人についてあれこれ根掘り葉掘り聞かれたりするのだろうか。
しばらく歩いていると、道は途切れ、目の前に神社が現れる。
「私を祀る寺ではないですが、まっ、お参りくらいしてあげますかね」
偉そうな口調でそういうと、ずんずんと歩いて行き、賽銭を待つ列に並んだ。こんな態度の参拝者なんて、むこうからお断りなんじゃないかなんて思いながら、僕もその後ろを着いていく。
僕らの前に立つ人々は上空で弾け、仄かな色彩を空に描く花火に瞳を奪われていた。僕もそれに習って空を見上げる。
「上空に溜まった負因子もあんな感じで弾けるのかな」
「ええ、そうですね。まさに、あんな感じですよ」
つい漏れてしまった言葉に弁天が答えてくれる。そうか、あんな感じで弾けるのか。そして、僕らはそれを止めなくちゃいけない。
ふと、そこであることが頭に浮かんだ。
「なあ、弁天。負因子を花火みたいに飛ばしたら面白そうだな」
「うん?どういう意味ですか」
「ほら、負因子を上空まで飛ばして、それが弾けてあたりに広まると上手い感じに分散できるんじゃないって思ってさ。ちょうどいまは人が集まってるんだし」
弁天はその言葉に顎に手を当ててしばらく沈黙していたが、ついと顔を上げて口を開いた。
「たしかに、それはできないことはないと思います。やってみましょう」
「あっ、僕もどんな感じになるか見たいからいつもみたいに頼む」
弁天は頷いて、僕に能力を授けてくれると、それから上空に手をかざした。その姿は端から見ればとても痛い人で僕は一歩、距離を取るように右にそれた。
「さあ、いきますよ」
そのかけ声とともに、空には青い球が打たれる。花火と空に漂う負因子と弁天が打ち上げた負因子。その三つ巴によって、空が綺麗に彩られるなんてことはなく、むしろ不気味さを醸し出していた。
弁天はある程度まで負因子が上がると、ぐっと手を握りしめた。すると球体はばっと勢いよく弾け、無数の小さな青い塊が地上へと降り注ぐ。
「大成功ですね」
それを確認して、弁天が僕の方を向くと、朗らかな笑みで親指を立てた。
「そうだな、大成功だ」
僕はそれに合わせて指を立てて笑顔を返す。
それから弾けた負因子の行方を追う。僕の方にも、いくつかの負因子が降りてくる。当然だ。打ち上げたものは落ちてくる。
いや、ちょっと待ってくれ。青い塊が僕に降りかかるとどうなるのだろう。負因子なんだから、当然……。
「えっ、やばいぞ。これは、やばい」
上から振ってくるものを防ぐ何かを探すが手ぶらな上に、辺りは開けた場所だ。負因子はもう間近。
「そっ、そうだ。壁だ」
僕は急いで弁天の腕を引っ張るとその場にしゃがみ込み、僕と負因子の間の壁になるように弁天を配置する。驚きの声を上げた弁天はバランスを取ろうと、僕の背中に手をつく。おそらく、端から見たらただただ不審な二人だが背に腹は変えられない。僕はしばらくその姿勢を保っていた。
少しして、弁天の僕を押さえつける感触が消える。それを確認して、顔を上げる。どうやら、僕の作戦は上手く機能したみたいだ。周りからの白い目は、まあ、致し方ないか。
さて、どう謝ろうかと、弁天の方を向くと、僕の予想とは裏腹に、怒りではなくうっすらと困惑と哀憐のような気持ちを顔に浮かべていた。
「あのですね、万さん」
弁天は戸惑いがちな声で話始める。
「じつは、私は、その、負因子が身体を突き抜けるんですよ。神さまはみんなそうなんですけど……」
理解が追いつかない。弁天は何を言っているんだろう。
「あー、つまりですね、負因子、万さんに当たっちゃいました」
それを聞いて、僕は膝から崩れ落ちた。




