宿屋の女主人と-2-
「シルヴァって、何だか聞いたことあるね。」
宿に向かう道すがらアヴィが首をかしげる。
「あ、俺、聖セバスティアヌス修道会団にいたんだ。そこも今日除名されたけど。」
ついさっきまで所属していたパーティーの名前を告げる。
マリアがつけたパーティー名は他のみんなには長すぎて言いづらいって不評だけど、俺はマリアらしくて好きだ。
育った修道会の名前をそのままつけちゃう雑なとこかわいいと思う。
「ああ。どうりで。じゃあ新聞で見たんだ。ちょっと前のフェンリル討伐の記事とかさ。」
「うん。みんな本当に凄い人達なんだ。」
「ってことは、あんたは聖女のマリアに追い出されたの?」
「うっ、……認めたくないけど、そうだよ。」
何度思い出しても気が重くなる。
「まあまあ、過ぎたことをいつまでも気にしちゃダメさ。その女とは縁がなかったんだよ。」
「マリアのいない生き方なんて考えらんない。」
「うーん重症だねぇ……。」
呆れたようなアヴィの声を最後に会話は終わった。
それからしばらく上り坂を進んでいくと、目の前に建物が見えてきた。
大きくはないけど4階建てのカントリーハウスみたいだ。
俺でもすごく趣味がいい造りだって分かる。
「へー、ここに貴族の別荘があるんなんて知らなかった。」
俺の言葉にアヴィが吹き出す。
「貴族がこんなところに来るわけないだろ。奴らが見下してる粗野な冒険者だらけの街なんだから。あれがうちの宿屋さ。」
「えっ!」
街中によくある冒険者向けの宿を想像していた。
こんな立派な宿屋だったなんて。
「アヴィ、ごめん。俺そんなお金持ってなくて、値引きしてもらってもこんな立派なとこに泊まる余裕ない。」
慌ててアヴィに言う。
荷物を置いたら帰ろう。
「安心しな。出世払いだ。あんたなら実質タダってこと。」
「それ将来俺が出世しないって言ってる!?」
アッハッハと失礼な笑い声を上げてズンズンと進んでいくアヴィ。
荷物をこの場に置き去りにするわけにもいかず、とりあえず後をついて屋敷の中に入った。
「へー!凄いな。」
繊細な細工が施された門を過ぎて玄関をくぐると、外から見た以上に広く感じるエントランスホール。
外観と同じで内装も凝ってて綺麗だ。
置かれてる観葉植物や装飾品もとてもよく手入れされている。
でも、そこには誰もいなかった。
俺たち以外まるで人の気配がしない。
凄く綺麗なのになんかさみしい感じ。
気になるけど、客がいるのか聞いたら失礼だよな。
「庭が自慢なんだ。こっち来な。荷物はそこでいいよ。」
言われたとおり入り口付近のフロントデスクに袋を置いてホールを横切り、テラスに向かう。
庭に通じるガラス戸をアヴィが開けてくれて、テラスに出た。
まさに絶景だった。
「わぁ」
季節の花が咲きそろった庭は、奥に行くほど背の高い木が庭の境界に沿うように植わっている。
その先には煉瓦の街並みの景色が広がっていて、それも含めて一つの絵画みたいだった。
「俺、こういうのよくわかんないけど綺麗だね。」
「私もさ。全部あの人が設計したからね。庭も、建物も。」
「あの人って旦那さん?」
「まあね。」
「旦那さんはすごい建築家なんだね。今日は留守?」
「そうだね。お茶でも飲むかい?」
明らかに話をはぐらかされた。
何か事情があるんだろう。
庭に背を向けるアヴィを追って室内に入った。
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