平行世界の死神と私
「はぁ。今夜は菓子パンかぁ」
今日は一緒に住んでいる萩さんが、いつもの時間に帰ってこなかった。
深夜一時なのに帰って来ないのは珍しい。食べる物がなくいつになっても帰ってこないから、夜ご飯をコンビニに、買いに行ったのだ。
「お腹すいたし早く帰ろっと」
最近はやけに痩せてきているから、よく食べないとね。
そう思って、コンビニ袋を持った私が家に向かって走り出そうとした時、
『君はなんでこんな所にいるの?』
唐突、背後から太く低い声がして振り向く。
「えっ」
ーーそこにいたのは死神だった。
私はあまりの恐怖で、抜けそうな腰をなんとか右足で踏ん張る。ここで腰が抜けたら死ぬ。私の本能がそうたたみかけた。
そして右足に力を入れて、地面を強く蹴る。そして一歩、二歩、と震える足を無理矢理動かして猛ダッシュ。その場から離れた。
気がつくと、もう萩さんのマンション近くまで来ていた。後ろを振り返るが、もう死神はいなかった。
「た……助かった」
なんとか逃げ切った。
実を言うと、死神を見るのは今日で2回目だ。
そう、この世界には死神がいる。
私は死神のいる、この平行世界になぜか来てしまったのだ。
さかのぼること三ヶ月前。
私はいつも通りベッドで寝ていた。
「おい! 明日香! おきろ!」
深夜、なぜか急に父親に叩き起こされた。私は何が何だか分からないまま、父親はただ怒鳴り散らしていた。
私は頭がクラクラしていたせいで、下を向いてただ呆然としていた。
すると父親に頰を殴られた。見上げるとそこにいたのは父親ではなく、父親に似たなにかだった。
背丈や体格は父親そっくりだった。しかし、顔は骨格が浮かび上がり、ドクロの仮面でも被っているようで、手には鎌を持っていた。
まるで漫画に出てくる死神のような男だった。
そして私は恐ろしくなって家を飛び出した。
最後に振り返ると、その死神は、険しく悲しい目をしていて口元が震えていた。
深夜、道路を走っていると猫を見つけた。
「にゃ〜〜」
と、私が言うと……そう、私が言った。だって可愛いんだもん。猫可愛いもん。赤ちゃんに対して語尾に「でちゅ」付けるのと同じにゃんだもん。
猫はこちらを向いた。
「えっ」
語尾に「にゃん」を付ける余裕がなくなるくらい、いや、そんなレベルじゃない、全身が震えるくらいに驚いた。脳も震えた。(脳が……震える)
そして鳥肌立ちすぎて鳥になるかとも思った。
そこにいた猫の顔が歪んでいたのだ。口角が目尻まで上がって、奇妙な笑みを浮かべている。猫の鳴き声も不協和音に聞こえる。そんなはずがないのに。一匹の声で和音なんてならないのに。
私は怖くなってその場を離れた。
いや普通逆だろ。普通逃げるの野良猫側だろ。っていうツッコミができない程に、その時の私は慌てていた。
この時間でもコンビニなら人がいるはず。
とりあえず人に会いたくて、コンビニに入った。
「#$*^£ahærøëį▽±◇」
入ると、店員が何か言ってきた。それが何を言っているか分からなかった。そして、店員の顔も歪んでいた。
またさらに恐ろしくなってその場を走り去った。
十五歳不登校で友達のいない私は、行くあてが萩さんの家しかなかった。
「もし、萩さんが家にいなかったらどうしよう……」
期待と不安が入り混じった感情が。
いや、恋とかじゃなくね。『期待と不安が入り混じった甘酸っぱい気持ち』とかじゃなく、リアルで萩さんに会えなかったら頼れる人いなくてオワタの状況。
「なんなら萩さんに対して恋とか通り越して愛だわ」って思う自分がいる。
萩さんは、私が両親と喧嘩して家を飛び出した日に、深夜に公園でうずくまっている私に声をかけてくれて、家に泊めてくれた親切な男性。
それからもよく、近所の喫茶店で悩みを聞いてくれて一緒に悩んでくれた。
萩さんは私が困ったら助けてくれるし、家にも泊めてくれる。どうしようもなく泣きじゃくった日には、抱きしめて一緒に寝てくれる。
「そんな萩さんが家にいなかったら、本当のホントにオワコンじゃん……ってか、こういう状況、何か本で読んだことある気がする。平行世界って言ってたっけな。言葉が全く通じない、ここと反対側にあるもう一つの世界」
そうこう考えているうちに、家から凄く遠い萩さんのマンションに着いていた。ドアの前まで行き、インターホンを鳴らそうとする。しかし何故か手が震える。
「どうして……」
外は静かで心臓の鳴る音だけが聞こえる。
「(大丈夫、きっと萩さんはいつもの笑顔で出てくれる)」
手汗でびっしょりの指がインターホンに触れる。そのまま押そうと思った時、
「どうしたの?」
萩さんがドアを開けて出てきた。
思わず私は驚いて、そして嬉しくて、萩さんの胸元に飛び込んだ。
「萩さん……実は今大変なことになっていて」
そして震える声で、私はさっき起きた出来事を萩さんに説明した。おそらくこの世界は平行世界だということも。
萩さんは驚きはしたものの、信じてくれて抱きしめてくれた。それだけで本当に心強かった。
こんな状況でも仕事はしないと食べていけない為、萩さんは今もこの平行世界でなんとか仕事をしている。そして私を養ってくれている。
だから私は、萩さんが仕事に行っている間は、萩さんと元の世界に戻るために、この世界の謎を探している。
初めは、周りの顔が皆んな歪んで見えていたことに、吐き気を感じるほど気持ち悪かったこともあった。
しかし、次第に慣れていき、今では私たち以外に元の世界の人間はいないのか、ここが何なのかを、一人で探し続けられるようになった。
「いくら三ヶ月たって慣れたとはいえ深夜に外出るのは流石に危なかったかぁ」
私は安堵して萩さんの家に帰ってきた。
久しぶりに見た死神。本当に恐ろしかった。まだ死神の正体もなぜこの世界にいるのかも不明だ。
ただ、萩さんは死神を見たことがないと言っていた。
私だけ会うのかと思ったら、さらに怖くなってくる。
「怖いよ。早く萩さん帰ってこないかな」
いつもはもうとっくに帰っている時間なのにまだ帰ってこない。私はコンビニで買ったパンを食べながら、萩さんの帰りを待った。
「ただいま。遅れてごめん。残業がなかなか終わらなかったんだ」
玄関のドアが開き、その声が聞こえた瞬間、跳ね上がるように椅子から立ち上がり、萩さんに駆け寄った。
萩さんに駆ける。夜に駆ける。萩さんの萩さんが私の顔にぶっかける。
なんちってテヘコツ(๑•<๑)⌒☆
「心配したんだから! バカ!」
萩さんの腕の中にジャンピングダイブをかましてそう言うと、強く抱きしめてくれた。萩さんの胸はあったかかった。かたかった。何パックに割れてんだろ。
「ごめん」
「今度からは残業で時間かかりそうなら、ちゃんと家出る前に言ってね。バカ……」
「本当に悪かったよ。もう心配させないから」
「だったら……今日一緒に寝て。目が覚めるまで手を握ってて。不安だった私へのお詫びちょうだい」
そう言って、今夜は萩さんと一緒に夜を明かす。
それにしてもなかなか寝付けない……。
久しぶりに死神を見たのが怖いのと、萩さんの寝顔が可愛いのとで、なかなか寝られない……どうしたものか。
しょうがない。私は今寝られない赤ちゃんのようだ。私は赤ちゃんのようだ。おしゃぶりが欲しい。でもない。しょうがない。しょうがない。
萩様の指を口にくわえて、萩様と夜を明かすのだった。うれぴ。
「はぁ〜もう昼かぁ」
私は目が覚めて口元を確認する。
あ……あれ? 萩さんの太くて硬くて立派なゆびゆびはどこ?
「って……え!?」
そこに、隣に、萩さんのゆびゆびは、というか萩さんはいなかった。
「あ! もしや先に起きた萩さんが朝ごはん作ってくれてるとか!? もう一時だけど(๑><๑)٩」
と、思ってリビングに入る。
いい匂いがして、台所には萩さんが立っていて、
「おはよ」と笑顔で言ってくれて、美味しい朝ごはんができている。
そんな理想的な光景はなく、机の上に、手紙が一枚置いてあるだけだった。
「萩さんのバカバカバカ! 朝まで手を握ってくれるって約束したのに。急にいなくなって、、ほんとバカ」
涙が出そうになる目をつむって、一息、深呼吸をする。
泣いても萩さんは帰ってこない。辛いけど、この辛さはまた今夜、昨夜以上にお詫びをしてもらおう。
手紙を手に取る。
“ 目が覚めるまで手を握ってられなくて、本当にごめん。
実は昼から仕事が入っていたんだ。言い訳に聞こえるかもしれないけど、明日香が気持ちよさそうに寝ているから、起こすのはやめておこうと思って家を出た。
五時には必ず帰ってくる。少しの間待っていて欲しい。ごめんな。いつもありがとう。
しゅうより ”
「何よこれ。気持ちよさそうに寝てても起こしてよ。黙って出て行かないでよ。バカ」
悲しいけど五時には帰ってくるんだ。その間私はいつも通り、外に出て情報収集だ。私と同じ人間を探す。
外はいつも通りの風景だ。たまに散歩しているお爺さんやお婆さんはいるけど、皆んな顔が歪んでいる。口角が目尻まで上がっている。もう慣れた。
今はただ何か戻る方法を探さないといけないのだ。ただ一つ、謎がありそうな場所がある。
それは私の家だ。最初に周りの人が変わったのは私の家だったからだ。
優しかったお父さんは死神に変わって、家を出る前にみた母さんの顔は歪んでいた。
「家に行けば何か……」
ただ行きたくはない。今までずっと避けてきた。怖くて腰を抜かしそうになったし、命の危険を感じた。そんな場所にもう一度足を運ぶなんて、やはり無理だ。
そうこうしているうちに、日が暮れた。そして時計を見ると五時半を回っていた。
「えっ! もうとっくに五時過ぎてるじゃん!」
慌てて私は走り出す。萩さんのマンションへ。萩さんのいる部屋へ。萩さんと昨日一緒に寝たベッドへ。萩さんのパンツを干しているベランダへ。萩さんの腕の中へ。ドキドキ。
萩さんのマンションに着いた。瞬間、異変に気づく。
「私の部屋の電気がついてる」
萩さんと一緒に暮らし始めた時、私の部屋が与えられた。萩さんの部屋はマンション五階の端の部屋で、マンションの外から私の部屋の窓が見える。
「どうしてだろう。普段勝手に私の部屋に入ることはないのに」
何か嫌な気がした私は、静かに音を立てずに玄関のドアを開けて入ると、何かを静かにあさる物音がした。
「(誰……)」
心拍数が上がり、音が漏れそうな息を口で塞ぐ。そして忍者のように、壁に背を向け、ゆっくりと横歩きでリビングまで歩き、覗く。
「(えっ!!)」
思わず漏れそうになる声を、口元寸前で止める。
そこにいたのは死神だった。
死神は棚の中をあさっている。見る限りだと一人。
「メキっ」
私の足元で床が音を鳴らした。
さいやくだ。
『誰だ』
死神の太く低い声が部屋に響くと同時に、私と死神は目が合った。死神にも目があった。いや、そこに突っ込んでる場合じゃないだろ私!(父さん死神にも目があったし)
私の背筋がひんやりとする。もう後に引けない。
心臓が鳴らす音が大きすぎて、死神は何かを言っているようだが上手く聞き取れない。もう怖くて何も耳に入らないというのもある。
そして死神が近づいてきた。
ーー死ぬ。
命の危機を感じ、私は本能的に、護身用に持っていたナイフを取り出す。
そして考える間もなく、ナイフは私によって投げられ、死神の胸部を貫いていた。
死神が倒れた。私はそれをただ呆然と眺めることしかできなかった。
ここは萩さんの家、だがいるはずの萩さんはいない。もしかして……死神に殺された……。いや、萩さんだ。なんとかしているはず。私はそれを信じる。
死神は何かをあさっていた。もしかしたら何か大事なものを取られているかもしれない。
私は死神の懐をあさることにした。
正直怖くて手が震えるがそんなこと言ってられない。萩さんの為に、少しでもできることをしよう。
死神の懐から銃が出てきた。驚いた。鎌だけでなく銃も所持していたのか。
どうするべきか考えて、とりあえず外に出る。ここにいると仲間の死神が来るかもしれないから。萩さんの居場所がどこかもわからない。きっと死神から逃げて何処かにいるはず。しかし探すと言っても範囲は広すぎる。
そして決めた。
「私の家に向かおう」
もうそれしかなかった。ここからは大分遠いがなんとか走って辿り着く。そして必ず萩さんと元の世界にもどる。
そうと決まれば走るのみ。護身用に銃も持っている。死神の正体もこの世界の謎も、きっと家にある。大丈夫。そう願って。
ずっと走っていると、流石にそろそろ疲れてきた。それだけじゃない、何故か目眩がするし、むしゃくしゃしてくる。何故だろう。
駄菓子屋が見えた。中を見るとお爺さんがいる。いつも通り顔は歪んで……いない!
嘘でしょ!? 私は海に飛び込むように、勢いよく店に入った。
「いらっしゃいま……って、なんじゃそれは!?」
よかった、よかった。言葉が通じる。私の目の前に人がいる。
思わず涙が溢れてきた。
「まだここに人がいたんですね」
嬉しい。本当に安心した……なのに、お爺さんは腰を抜かしている。
そうか、近づいてきた死神の返り血を、少し浴びているし、銃は持ったままだった。誤解なのに……。
「すみません誤解させてしまって。これはさっき死神を倒した時の血です。死神についてなにか知っていることはありませんか?」
お爺さんの返事はない。というより、何かを言おうとしているが口が震えていて、もごもごとした声じゃ私の耳に届かない。
このままここに滞在するのはまずい。さっき殺した死神の仲間が追ってきている可能性を考えないといけないから。
「必ずお爺さんも元の世界に返します」
私はそう言うと、血のついた上着をその場に脱ぎ捨て、銃を胸ポケットにしまう。流石にこの格好はまずかったみたいだからね。
そして店を出る。すると店の前に自転車が止まっていた。
ラッキー✌︎(´^ω^`✌︎)
正直ここから家まで凄い距離がある。徒歩だと数時間かかるくらいだ。お金を持っていないから、自転車があるのは凄く助かる。
「この自転車借ります! そのかわり必ず元の世界に返しますので!」
店の中まで聞こえるように声を張って言った。
そして私は自転車に乗り、家へと向かう。
自転車をこいで一時間程度が経過した。
そろそろ頭の疲れがピークに達してきた。昨日寝るの遅かったからなのか。頭痛が酷い。
しかし、何としてでも家に帰る。まだ死神の正体もわかっていない。わからないことが多すぎるが、もうゆっくりこの町で調べている暇がない。急がないといけない。もう後には引けないから。
突如、私の目を光が覆った。そして、前後から物凄い騒音が近づく。
一瞬視界が覆われて前が見えなくなったが、次第に視力が戻ってきた。
「なによ……これ」
道路の辺り一面が真っ赤に染まっていた。赤い何かに照らされているような、不気味な路上。
そして見上げると……そこには……“死神がいた”。
いや、周り全体を見ると、死神に囲まれている。死神からして、“私がいた” という状況なのだろうか。
『見つけたぞ』
一人の死神が言った。
『動くな』
「えッっっ!」
死神たちは鎌ではなく、拳銃を構えて私を囲う。
ヤバすぎる。そうか、こいつらはさっき私が殺した死神の仇討ちに来たのか。流石にこんな数も仲間がいるとは予想していなかった。
もう先程から心臓の音が止まらない。汗が目に入る。痛い。でも露骨に動けない。息が荒れ、手に触れなくてもわかる程、手に汗をかいている。
『行方不明だった、一条明日香だな』
え、え? 私が行方不明? もう訳がわからない。なんか死神の数が増えた気もするし。怖い。流石にもう逃げられない……萩さんは今どこに……。萩さん……。
『なんだこの袋は』
私の自転車のかごにある手荷物をあさっていた死神が言った。
「やめて! 返して! それは大切な人に作ってもらった物なの! 手紙とクッキーが入ってるの!」
涙が流れ充血した目で、鼻水の詰まった鼻声で、私は訴えた。
『ほぉ。大切な人とは誰のことかな?』
「萩さんのことよ! 萩さんに作ってもらった物なの! 返して!」
『ブハハッ! 柊萩か!』
やはり萩さんの居場所は死神が知っている。
「萩さんはどこなの!」
死神は返答をせず、私の袋の中を開けた。
「やめてって言ってるでしょ」
その瞬間、路上に響き渡る程の音が鳴った。
私は胸にしまっていた武器を取り出し、地面に向かって引き金を引いていた。
萩さんのことを考えすぎた為、感情的に行動してしまった。
そして、周りの死神たちは、一斉に私に向かって迫って来た。銃を突きつけて。
殺そうと思えば殺せる。つまり彼らは私を捕まえることが優先なのか……。
でもなんで私がこんな目に合わなくちゃいけないの。私が何したって言うの。もうほんと、さいやくな終わり方だな。でも、悪い人生ではなかったはず。
『なにっ』
死神たちは目を見開いて驚く。
私はまた感情的に先走る行動をしてしまったみたいだ。
銃を持っている私の手は、私の頭に向けて構えている。
こんなところで死んじゃうのか。元の世界に戻りたかったな。
「萩さん……」
死ぬ時は萩さんと一緒がよかった。萩さんと一緒に元の世界に戻って幸せになりたかった。
「父さん……」
あの優しい父さんに、もう一度会いたかった。あの世に私が先に行くなんて、父さんにどんな顔されちゃうだろ。
震える手、震える指。私は震えながらも、銃の先を頭の真ん中に合わせる。あとはこの指を引くだけだ。撃つだけだ。この銃を。私の頭に。
「あすかぁ!」
刹那、背後から、優しくて少し甲高い聞き慣れた男性の声がする。何度も聞いた。何度も話した。
「父さん!」
私は振り返るとそこにいた男性に、父さんに駆け寄った。銃を投げ捨て、父さんの胸に抱きついた。
「なんで、どうやって? どうやって助けに来てくれたの?」
見上げると、笑っている父さんが、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっていた。
「あぁ! 助けに来た! 当たり前だ! 俺は明日香の父親で、警察官だからな!」
周りを見ると、死神の足が何故か止まっている。
助かった……のか?……。
私は一時、命の危機を免れたみたいだ。そして萩さんの居場所が気になる。
萩さんの居場所、ここはどこなのか、死神はなんなのか。聞きたいことが山積みなのに、声が出ない。
頭がクラクラして、次第に意識が遠のいていく。
最後、父さんが何かを言った気がする。
ーーー「明日香、あの日お前を殴って、ほんとに悪かった。ごめんな」
目が覚めると、知らない天井を見ていた。
そして何故か、私が拘束されている。
「目が覚めたのか」
私のベッドの隣に父さんが座っていた。
今のこの状況が全く飲み込めない。さっぱりわからない。萩さんは今どこにいるのか。この世界がどちらの世界なのか。死神はなんだったのか。なぜ私が拘束されているのか。聞きたいことだらけだ。
「父さんここはど」
「明日香! まず、まず父さんの話を聞いてくれ」
私の言葉を横切るように、父さんの声が割り込む。
「今の明日香にとって信じられないことかもしれない。だが、聞いてくれ。今の明日香は落ち着いているから。今話したい」
「うん」
と、私がうなずくと、父さんが続けた。
「俺は、俺たちは警察という仕事で明日香を探した。だか、だがな、父さんはな、父さんは……明日香の父親として、明日香を救いたかったんだ」
「ん??」
俺たち? 確かあの時あの場にいたのは、父さんだけだったはず。他は死神しかいなかったはずだけど。
あと、萩さんはどこ! 早く聞きたい! 気になる!
「まさか、、やっぱり自覚はなかったのか」
父さんは、険しく悲しい目をしていて、口元が震えている。その震えた口から、父さんは言う。
「明日香、お前は窃盗、殺人未遂、銃刀法違反など……そして、薬物乱用で、ここに捕まっている」
「は? 何を言って……」
「明日香は重度な薬物中毒者だ」
目の前にいる優しい父さんは、あの日、私を殴った死神と同じ表情をしている。




