真夏の毒霧
これは、ある程度以上の年齢の方なら覚えがあるのではないか?と思うのだが……。
何から話そう?
うろ覚えの部分も多いが、とても遠回りに……。
毒霧という技がプロレスにある。
口から液体を霧状に吹き吐き、相手の顔面にかけるのだ。
もちろん、反則技である。
昔、『太陽にほえろ』という刑事ドラマがあった。
何十年も続いた長寿番組である。
長く続いた刑事ドラマだから、殉職したり異動した刑事もいた。
その中に沖雅也さん演じる“スコッチ”というあだ名の刑事がいた。
病気退職か病死だったと思う。
その回だろうか?
ストーリーは覚えてないのに、鮮烈に覚えている場面がある。
緑の芝生。
青いスーツのイケメン、スコッチ刑事。
大きくのけ反って、吐血するのだ。
真っ赤な毒霧のように。
強烈なインパクトがあった。
この映像を思い浮かべる度に、思い出すことがある。
第1集の梅干しの話でも書いたが、ボクが子どもの頃は、いろんなモノが手作りだった。
節約のためだ。
夏は砂糖をたっぷりと入れたアイスコーヒーや麦茶の作り貯めが、冷蔵庫に入っていた。
粉状のインスタントコーヒーをお湯で溶かしてコーヒーを飲む時代である。
ジュースなんて、もったいないから、できるだけ買いたくない。
お茶なんて、自動販売機で売られる時代が来るなんて、想像もできない時代でもあった。
それらは、透明な大きな筒状のプラスチックのタッパーに入って、冷蔵庫に入れられていた。
価格的な理由だろう。
タッパーは、みんな同じタイプのものだった。
家族は、その見ためで、中身を推測して飲むのだ。
とっても暑い日だった。
幼いボクは汗だくで家に帰った。
家には、ボク1人。
冷蔵庫を開けると、アイスコーヒーらしきタッパーがあった。
触ると、氷を入れる必要がないぐらい、キンキンに冷えている。
ボクは大きめのグラスを出し、なみなみと注いで、まるで砂漠をさすらった者のように、勢いよく口に含んだ。
遠い昔の話である。
いろんなモノが、家庭で手作りだった時代。
“めんつゆ”も手作りだった。
スコッチ刑事の吐血シーンを思い出す時、必ず、この夏の日も、思い出すのだ────。