何を気取ってやがんでぇコンコンチキ!
落語の小噺だったかな?
江戸ッ子の掛け蕎麦の食べ方の噺がある。
掛け蕎麦は、麺の先だけをツユに浸して食べるのが、正しい通の食べ方だそうだ。
麺の材料である蕎麦の実の味が、しっかりと味わえるからだそうだ。
ケッ!
小噺のオチは、そーやって掛け蕎麦を食べてきた粋な江戸ッ子の、死ぬ前の最期の言葉が
「ああ……
1度でいいから、たっぷりとツユに蕎麦を浸して食べてみたかった……」
(笑)
これである。
この話、ボクにとっては、かなり深い。
なぜなら、ボクは粋ではないし、通でもグルメでもない。
バカ舌の味オンチで、ただの食いしん坊なのだ。
掛け蕎麦のツユの薬味のワサビも、正しい食べ方があるらしい。
ほんのちょっぴり箸でとって、蕎麦の麺の上に乗せ、そこをすくって、麺の先っちょだけをツユに浸すんだってさー!
その方が、ワサビの辛みや風味が活きるんだってよー!
ケッ!
ボクは始めからワサビをツユに入れてしまう。
辛みや風味が活きない?
チューブのワサビをたっぷりと追加投入だ。
蕎麦の麺はドップンとツユに浸す。
江戸時代の罪人の水責めの拷問みたいに、ドップンドップンと2往復3往復としっかりと沈めてやる。
さすがに、麺をすするとツユが飛び散るので、大口を開けて塊として口の中に押し込む。
あー美味しいッ。
わかったかコンチクショー!
はぁ、はぁ、……。
だいたい、ボクの食べ方は、こうだ。
にぎり寿司も、そう。
お店の回転寿司も、具の上にワサビの小袋2袋ぐらいたっぷりと乗せ、甘だれをしっかりと掛ける。
お持ち帰りとかで甘だれが無い時は、たっぷりとワサビを入れたワサビ醤油をたっぷりと作る。
そこににぎり寿司を浸すように浸ける。
具にだけ、なんて粋なことはしない。
酢飯の部分も浸す。
どちらかと言うと、こっちの方が目的だ。
ボクは、ワサビ醤油の染み込んだ酢飯の味が大好きなのだ。
それを、酢飯がバラけないように口に運ぶ。
当然、バラけない為に大口を開けて、1貫をまるごと口に放り込む。
あー美味しいッ。
じつは、刺し身もそんな食べ方。
たっぷりのワサビ醤油を作って、したたり落ちるぐらいたっぷりと身を浸して食べる。
ああ美味い!
いいのだ。
いいのだよ。
ボクは粋でも通でもグルメでもないんだから。
ただ、ボクは、ボクは、死ぬ前に掛け蕎麦とにぎり寿司と刺し身に関しては、きっと後悔しない。
後悔しないから、これでいいのだ。






