第74話 自己犠牲
賢者を中心に爆風が発生する。
周囲の住民や建物を吹き飛ばしながら被害を急速に拡大していく。
それは離れていた俺と黒魔導士にも及ぼうとしつつあった。
(自爆か……ッ!)
高熱の爆風と瓦礫が嵐のように殺到する。
黒魔導士の分身が即死するのを目撃すると同時に、俺の視界も暗転した。
しばらく途方もない苦痛に晒されながら意識を強く保つ。
どうせシステム的に死なないのは分かっているのだ。
精神的に耐え切ればいい話である。
やがて爆発が治まったタイミングで再生する。
俺は蔓延する黒煙にむせながら立ち上がった。
そこに広がるのは燃える瓦礫地帯だった。
存在したはずの街は影も形も残っていない。
すべて賢者の自爆攻撃で消し飛ばされたらしい。
(駄目だこりゃ。長居しても意味がなさそうだ)
そう判断した俺は、黒魔導士の待つ屋敷に帰還する。
彼女は悔しそうな顔で竜酒を飲んでいた。
「いやー、やられましたね。まさかあのオバさんがここまでやるとは」
「自爆しかないと考えたんだろう。覚悟を決めなければできないことだ」
賢者の判断は、勇者を生かすのが目的だった。
あのままではパーティーは全滅していただろう。
蘇生手段が乏しい中、果たして彼を生き残らせることに意味があるか微妙だが、きっとメンタル的な部分だと思われる。
俺と黒魔導士に一方的に負ける形は不味いと考えたのだ。
そう解釈すると、賢者は一矢報いることができたと言えよう。
精神的に未熟で甘い勇者には住民を殺せない。
賢者がいざという時に非情になれるタイプだった。
彼女の方がよほど英雄らしさがあるし、こちらとしても厄介である。
暫しやけ酒をしていた黒魔導士だが、空瓶を投げ捨てると笑顔になった。
「まあ、これで冤罪も事実になりましたね。勇者パーティーは、一つの街を魔術で消し飛ばしました。いよいよ名実ともに悪党の仲間入りっすよ」
「最高だな。狙い通りに進んでいる」
「自爆も計算の内っすか」
「いや、彼らが住民を殺すことだな。具体的な手段は分からなかったが、状況的にやむを得ず反撃するとは思った」
あの状況を脱するにはそれしかない。
精神的な面から勇者がやるとは思っていなかった。
個人的には、錬金術師か賢者だろうとは予想していた。
まさか自爆で反撃されるとは考えていなかったのも事実である。
「まんまと殺されてしまったが関係ない。これから勇者達の行動は一気に制限される。どこに行っても敵対されて支援を受けられない。俺達が何をせずとも残機を失っていくだろう」
「楽な作戦っすね。倫理もへったくれもあったもんじゃないっすが」
「勝てば正義なんだよ。大衆だって勇者の死を望んでいる」
俺が誇らしげに言うと、黒魔導士はクスクスと笑った。
新たな竜酒を手にする彼女は、頬を赤らめながら述べる。
「ムカイさんはゴミクズ精神のド畜生っすね。心から尊敬します」
「尊敬する相手に使う表現じゃないぞ」
俺は冷静にツッコミを入れるのであった。




