第51話 足掻く一人
黒魔導士は呆れと感心の混ざった声を洩らした。
「ほうほう、この惨状でも死にませんか。ちなみに誰なんです?」
「勇者だ」
「リーダーの意地っすかね。無駄な努力な気がしますが」
黒魔導士の言う通りだ。
ここで粘る意味がなかった。
蘇生薬はもう存在せず、仲間を復活させられる賢者は隕石に潰されて死んだ。
正直、詰みの状況だった。
さっさと死んで教会からやり直す方が効率的である。
この世界は勇者単独で生き抜けるほど優しくないし、その前に俺達が待っている。
(しかし、それは絶対にないだろう)
勇者が諦めの悪い性格なのは知っている。
奴はきっとここまでやって来るはずだ。
仲間の報復を企んでいる頃だろう。
その場で待つこと十分と少し。
崩壊した街の方角に人影が見えた。
土煙の舞い上がる中、聖剣を杖にして現れたのは勇者だ。
血と泥に汚れた姿でゆっくりと歩いてくる。
黒魔導士が嬉しそうに拍手をした。
「来ましたね。あっちは戦う気満々みたいっすよ」
「そのようだな」
俺は頷きながら勇者を観察する。
何やら雰囲気が変わっていた。
研ぎ澄まされた殺意は、俺と黒魔導士に集中する。
射殺すような鋭さがあった。
俺の首を落とし続けていた時もそうだったが、凄まじい執念が込められている。
それが一段と増した感じだ。
追放時のような微妙な甘さが鳴りを潜めている。
まあ、それはこっちも同じことだ。
前は見事に負けてしまったので、ちゃんと意趣返しをするつもりで来た。
今回は邪魔する者もいない。
しっかりと勝負を付けて嘲笑ってやるつもりである。
「手伝いましょうか?」
「いや、俺がやる。二人がかりは卑怯だからな」
「ムカイさんの辞書に卑怯という言葉が載っていたことが驚きっす」
「……まあでも、いざとなったら魔術をぶちかましてくれ。俺ごと勇者を殺すんだ」
「爆速の前言撤回っすね。いや、もう驚きませんが。いっそ清々しいっすよ」
黒魔導士が苦笑する。
俺の主張と指示に呆れているらしいが、もう今更だろう。
別に勝つことさえできればそれでいいのだ。
細かいことなんてどうでもいい。
黒魔導士の援護攻撃が決め手となったのなら、それはもう友情と努力と勝利みたいなものだろう。
「それじゃ、あたしは観戦してますね」
「あとで感想を聞かせてくれ」
「了解っす」
敬礼をする黒魔導士に見送られて、俺は一人で進んでいく。
勇者との距離はおよそ五十メートル。
その間合いが、徐々に縮まっていく。




