第36話 失敗
「――我を、舐めるなァッ!」
賢者がいきなり叫び、即死魔術を連発した。
濁流のような勢いで漆黒の粘液。
それらは俺を包み込んで次々と破裂する。
すべてが見事にクリティカルヒットした。
脳髄を抉り抜くような苦痛に、俺は震えながら嘔吐する。
丸五日間の斬首でも根を上げなかったが、即死魔術は比較にならない苦しみだった。
先ほどの一発でもなかなか驚いたのに、賢者は潤沢な魔力に任せて連発してくる。
だから俺は身動きが取れずに悶絶することになった。
あまりの苦痛に気絶することもできず、ただその威力を味わうことしかできなかった。
(これがカンストダメージの痛みか)
願わくばあまり受けたくないと思ってしまうほどだ。
何千回と首を斬られても平気だった俺だが、今回ばかりはさすがに厳しかった。
そうしてどれだけの時間が経ったのかも分からなくなった頃、ようやく即死魔術が止まった。
暗い森の中で、俺は大の字になって倒れている。
全身汗だらけで呼吸が乱れていた。
地面がぬかるんでいるのは、俺の血を吸ったからだろう。
即死魔術で肉体が激しく損壊している。
そのたびに再生したため、半永久的に出血していたのだ。
ひとまず再生して綺麗になった俺は立ち上がる。
「あれ、いない」
その場には勇者も錬金術師も賢者も不在だった。
俺だけがぽつんと取り残されている。
あまりの苦痛で気付かなかったが、いつの間にか逃げられたらしい。
賢者は即死魔術をストックして、遠隔でも放てるようにしたのだろう。
「意外とやるじゃないか」
さすがは隠しキャラ。
カンストダメージを連発して俺を苦戦させた挙句、あの状況から三人で離脱するとは。
さすがとしか言いようがない。
(これで勇者パーティーは五人になったわけか)
賢者は蘇生魔術を使える。
今頃は死んだ女戦士と魔術師を復活させているだろう。
消費させるはずだった残機も踏み倒された形だった。
(チートに慢心していると、普通に負けそうだな)
俺は自嘲気味に笑う。
ゲームシステムに関する能力を得たが、ここは異世界である。
予想だにしないことが発生する。
こうなったらゴリ押しだけではやっていけない。
俺の持つ利点を活かした立ち回りを意識すべきだろう。
勝負はまだ始まったばかりだ。
どんどん楽しんでいこうと思う。




