第101話 覚悟の重み
俺の呼びかけに勇者が応じた。
彼はさらに一歩進み出ると、聖剣をこちらに向けながら宣言する。
「勇者の使命を以て、あなた達をここで倒す」
「オーケー、よく分かった。お互いに正々堂々と戦おうぜ」
俺はニヤリと笑いながら手持ちの魔道具を起動した。
それによって両脇に勇者の妹と幼馴染が転移してくる。
拉致していた二人を魔道具の効果で呼び出したのだ。
虚ろな目をした彼女達は、意識が曖昧だった。
洗脳効果で操り人形になっている。
会話は聞こえるだろうが、状況の理解はできないだろう。
俺が呼び寄せた二人を見て、勇者パーティーに動揺が走る。
「あの二人は……っ」
「外道めがッ!」
錬金術師と賢者が怒りの声を上げた。
先ほどまでなるべくノーリアクションを貫いていたが、さすがに看過できなかったようだ。
俺は得意顔で勇者の妹と幼馴染を抱き寄せる。
「誰だか分かるかい。どっちもあんたのヒロインだ。二人の腹には爆弾が――」
話の途中で勇者が動いた。
大地を蹴って恐ろしい速度で突進してくる。
構えられた聖剣は、横薙ぎの軌道を描こうとしていた。
俺だけでなく、奴の妹や幼馴染まで巻き添えにする角度だ。
フェイントや脅しかと思いきや、迫る勇者の目は本気であった。
どうやら三人まとめて叩き斬るつもりらしい。
「マジかよ」
苦笑した俺は、奴隷の二人を前に突き飛ばしながら命令する。
二人は素手で勇者に掴みかかるも、聖剣の回転が彼女達を弾き飛ばした。
勇者は速度を落とさずに斬りかかってくる。
俺は引き抜いた魔剣でガードしながら後退するが、冷徹な目をした勇者は無駄のない動きで攻め立ててきた。
「僕はもう迷わない。目的のためにすべてを切り捨てると決めた」
「ストイックだな。不器用な奴は破滅するぜ?」
「もう破滅している」
勇者の突きが俺の首を抉った。
激烈な痛みに顔を顰めつつ、俺は勇者妹と幼馴染を再び襲いかからせる。
そして勇者のそばで体内の爆弾を起爆させようとする。
ところが、その前に勇者の聖剣が閃いた。
トップスピードで数度の往復を見せて、勇者妹と幼馴染の首を刎ねる。
その延長で体内の爆弾を切り裂いて無効化した。
さらに、フィニッシュの一撃が俺の頭部をかち割った。
左右に分かれた視界に立つ勇者は、理想と狂気を渦巻かせていた。
彼は枷を捨て去ったのだ。
倫理を抜け出した英雄は、人間としてのボーダーラインを踏み越えている。
それを知った瞬間だった。




