第4話「帰り道」
始業式の日から1週間が過ぎた。
2年にもなれば、すでに出来上がっているコミュニティからさらに広げたり、また新たにグループを作ったりと様々であったが、少なくとも1年の頃に比べると割と早い段階で、クラス内のグループ分けが完成したと思う。
同じ部活グループ、陽キャグループ、ちょっとヤンキーグループ、オタクグループ。
そして、俺たちクセだらけグループだった。
1週間経った今でもまだ、この5人が全員揃ったことがない。
誰かが必ずいないのだ。
そのほとんどが仁で、その次くらいに灯夜だ。
女子勢は毎日学校には来るものの、友達を作る気はサラサラなさそうで、休み時間になれば、秀一が声をかけるよりも先に全員がバラバラになる。
スニークスキルでもあるのかと思ってしまうくらいだ。
残ったメンバーに声をかけても
灯夜は「忙しい」
遥は「話しかけるな」
香澄は相変わらず無言。
真菜に至っては何を聞いても「面倒くさい」
と言う始末。
この状況からどうやっても仲良くする未来が見えない秀一だった。
唯一、灯夜とダインを交換してはいるものの、基本的には無視。
ダインとは、今やスマホに必須となっているメッセージアプリだ。
とりあえず友達の第一歩はダインの交換と言われるほど、現在の友達作りに必要不可欠なものだ。
それの交換に見事成功したのだが、結果は芳しくなかった。
秀一は毎日頭を抱えていた。
なんで俺がこんなことをしなくちゃいけないんだ?
別に他のやつでも良かったんじゃないのか?
もっと他にも適任がいただろう。
考えれば考えるほど、何故、何故といつ考えしか浮かばない。
これ以上は厳しいかもしれない。
別にこれをしたからといって、成績が上がるわけでもないし、ただただ面倒な役割を押しつけられてるだけだ。
そうだ、辞めちまおう。
こんな訳のわからん役割さっぱり辞めて、俺は俺の青春を謳歌する。
そう決めた秀一は、昼休みに、鹿島にその旨を伝えることに決めた。
☆☆☆☆☆
「ダメだ」
昼休み、秀一は職員室に行き鹿島に対して自分の思いを伝える。
長々と自分の思いを伝えた秀一であったが、その思いは鹿島の一言で一蹴された。
「僕にはわかりません、何故僕なんですか?
他にも適任がいるでしょう」
「お前が一番適任なんだよ」
何度気持ちを伝えても、帰ってくる返事はこれだった。
「これは、俺の偏見というか経験談というか、まぁそう言う感じなんだがな。
確かに友達を作るのが上手いやつは他にもいる。
お前よりも、沢山の友達を作る奴はいる、それは間違いない。
けどな、その中で今後卒業して、5年10年先まだ関わりがあるって言う話は殆ど聞かない。
たくさんの友達を作るが、そのグループの中でこの先の人生でいまだに繋がってるって聞くのは精々2、3だけだ。
それはどの年代でもそうだった。」
鹿島が自分の経験則を語り始める。
「結局そんなもんだよ。
その場だけ楽しいただの大多数の1人なんだよ。
そんな頭数合わせの友達になっちまう可能性が高い。
グループに属してるだけで実はそんなに仲良くもなかったって言うことだってザラにある。
ダメなんだよ、あぁ言うクセだらけの奴らがそう言うとこに属するのは、結局卒業した後苦労する。
何故かって言やぁ、その中での絆が希薄だからだよ。
教師として、友達のあり方にあぁだこうだ言いたくはないが、奴らに限ってはそれはダメだ」
鹿島の思惑は何となく理解できた。
要するに、ノリと勢いで行くようなグループじゃ、あのクセ集団は意味がない。
お互いのことをよく知って、それなりの絆を深めて、今後の人生においてもその関係を継続できるものを作れと。
そのためには、大多数を率いるリーダーよりも、少人数を確実に固く結ぶリーダーの方が奴らのためだと。
鹿島が言いたいことはそう言うことだった。
そのためには、クラスの所謂陽キャのような奴ではなく、確実に少数との絆を深められる普通の学生である秀一が選ばれた訳だ。
「それにしたって、僕より適任がいると思いますが」
「去年一年間見てきて、お前が一番いいと思ったんだ。
根拠は俺たち教師の目だ、すぐに納得はいかんだろうが、そこは頼む。
あの日にも言ったが、サポートはもちろんする、とにかく一学期は見てやってくれ。
一学期が終わる頃に、それでもお前から見て無理だと思うなら、その時はお前の言葉を聞き入れる、あいつらはもう救えねえって解釈する」
秀一の想像以上に、重い話になっている。
彼らの今後の人生を、秀一の手腕で左右すると言っても過言ではなかった。
ただの一学祭がそんな重たい使命を勝手に背負わされて、正直荷が重く感じるだろう。
しかし、秀一はあまり反抗的なタイプでもなかったため、鹿島の言葉に流されて、とりあえず一学期中という1つのリミットをつけた上で了承した。
「もちろん、タダじゃねぇ。
お前の内申は高めにつけてやるからよ、一つ頑張ってくれや」
秀一は、最後のその一言で納得をせざるを得なくなってしまった。
これまでそんなことを言われなかったから、あまりやる気が起きなかったが、そういう措置をしてくれるのならば、話が変わってくる。
秀一はお辞儀をしてそのまま職員室を去った。
とにかく、まずは一学期中。
少しでも進展はさせなくてはならない。
結局鹿島の本心はまだよくわからなかったが、ひとまずのモチベーションとしては十分だった。
☆☆☆☆☆
放課後。
いつものように、終業と同時に全員が散り散りになる。
焦らなくていい、少しずつ、少しずつ進めればいい。
しかし、現状取り付く島もないこの状況をどうにかして打破しなくてはならない。
秀一は帰路につきながらそう考えていた。
ふと、校門をくぐり前を見ると、見知った後ろ姿があった。
古川仁だ。
教室内で一切姿を見なかったが、どこかでサボっていたのだろうか。
正直こいつの評判は良くないので声をかけるのは、中々に勇気が必要だったが。
意を決して、秀一は声をかけることにした。
「ねぇ!」
まずは一言声をかける。
その言葉に気づき振り向く仁。
「なんだよ」
「帰り道こっちなの?」
「関係ないだろ」
威圧的に返す仁。
しかし、そこに臆するわけにはいかない秀一。
「また鹿島になんか言われたのか?
やる気出したところで意味ねぇよ。
誰も俺らみたいな腫物に触りながらねぇよ」
相変わらず突っぱねるような言い方をする仁。
今までにもこういうことがあったかのような口ぶりだった。
しかし、秀一は一つの間違いに気づく。
「ごめん、俺まだお前のことなんも知らないし、鹿島先生に何か言われたかって言われたらその通りだ。
けど、だからって初めから諦めるのはおかしいんじゃないか?」
「分かりきってるんだよ、いつもそうだった。
同じようなこと言って、無理に仲良くする奴はいた。
その度に俺の私生活を勝手に覗いて、勝手についていけねぇってなって、勝手に離れていった。
どいつもこいつも自己満野郎ばっかだ」
仁が語る、過去の出来事。
どうやら同じようなことが以前にもあったらしい。
しかし、秀一は。
「信用してもらうのは難しいかもしれないけど、俺はそうならないようにするって約束する。
俺達が鹿島先生から言われたことは、お前ら友達になれだから」
「はぁ?」
「要はみんなと仲良くする必要はないんだよ。
あの集められた人間の中だけでいい、なんなら俺とだけでもいいんだよ。
先生が言ったことは、この先の人生でも頼れる人間を作れっていう意図があるんだ、だからこんな少人数なんだ。
今はまだ、今までと一緒だと思うかもしれない、今すぐにとは言わない、とりあえず俺はお前についていくから」
仁の威圧に気圧されながらも、自分の思いを伝える秀一。
正直、ここまで高尚な考えを当初は持ってなかったし、仁の言うこれまでと同じ人間になる可能性だって勿論ある。
だが、秀一は深くは考えない。
友達を作ることにそんなにゴチャゴチャとした、考えは必要ない。
だからとにかく今は、自分の気持ちを真っ直ぐに伝える。
同じ男だから、何かしらは伝わるはずだと、秀一はそう信じた。
「だからさ、今からカフェに行こう!」
だからなのか、秀一はこんな突飛な事を言い出してしまった。
流石の仁も突然の誘いに、無言になる。
「…勝手にしろよ」
秀一の勢いに押されたのか、仁は渋々と言った様子で提案を了承した。
「よし!じゃあ駅前のところに新しくできたところがあるからそこに行こう!」
この流れで、まだ友達と呼ぶには早すぎるが、きっかけとしては十分だった。
秀一は努めて色々話しかけて、仁のことを知ろうとした。
少しずつでいい。
少しずつ、一歩ずつ確実に前に進もうと。
今日の結果を踏まえてそう感じた秀一であった。