2話 お互いの距離
喫茶店でお互いにコーヒーを注文する。やっぱりモデルだけあって、店員さんにも話しかけられていた。笑顔で対応していたが、店員が消えると不愛想な顔になり、無言の状態で5分ぐらいたつ。
「優花さんはなんで絡まれていたの?」
問いかけると、俺を睨みながら口を開く。
「何でもいいでしょ」
「まあそうなんだけどさ。一応は家族になったわけだから聞いちゃダメかな?」
「家族面しないで。あなたは他人なの。家族でも何でもないわ」
「...」
そう言われてしまうと何とも言えない。他の話をしようにも突っ込んでいいラインが分からないため無言になる。そんな状態が10分ほど続いたところで優花さんが話し始める。
「あんたさ、親の結婚をどう思ってるの?」
「俺は何とも思ってないよ。父さんは父さんの人生だし、俺が縛っちゃいけないと思うからさ」
「ふーん。きれいごとね。親は子供作ることができるけど、子供はそう言うわけじゃない。だから子供を最優先するのが親っていうものじゃない?」
優花さんに言われて、それも一理あるなと思う。でもそれは優花さんの考え。俺の考えとは違う。
「まあそう言われればそう思うよ。でも俺も優花さんも高校生だし、自立できる歳だと思う。この歳まで親を縛るって言うのは俺的には気が引けただけだよ。別に優花さんの考えを否定しているわけじゃなくてさ、俺的にはそう思っただけだよ」
「じゃあ話を変えるけどママや私のことはどう思ってるの?」
「美穂さんは良い人だと思うよ。俺の事を考えてくれているしさ。優花さんのことはよくわからないかな」
「私はあなたも明彦さんのことも嫌いよ。なんで一緒に暮らさなくちゃいけないのって思う」
「逆に俺がどんな対応をしたら優花さんは嫌いにならない?」
「話しかけないで。お互い無干渉でいてくれたらいいと思ってる」
お互い無干渉ね。最初の方はできるかもしれないけど、一緒に暮らす以上無干渉で行くことはできないと思う。今日だってそうだ。誰が絡まれていたって助けようと思うし、それが家族ならなおさら。
「無干渉って言うのは無理だからさ、必要最低限の会話って言うのはどう?」
「まあ及第点ってところね。いいわよ」
「じゃあそれでよろしく。学校はどうするの?」
「あなたと同じ学校に行く予定。学校では話しかけないで」
「わかった。じゃあ連絡先だけ交換しておかない? 今後緊急で連絡することもあると思うしさ」
「わかったわ。じゃあここからは別行動ってことで」
お互い喫茶店をでて別行動をとる。俺は帰宅。優花さんは違う所に行ってしまった。
今後の生活が不安だな。優花さんの態度で分かってはいたけど、ぶっちゃけここまで嫌われているとは。でも俺は...。
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翌日になり、学校に行く。優花さんとは時間をずらして学校に向かう。同じクラスにだけはならないことを願おう。
学校につき、自分の席に着く。話す奴もいないため、ホームルームが始まるまで突っ伏して寝たふりをしていたらそのまま寝てしまった。数分たったところで先生が教室に入ってきて
「転校生がこのクラスにやってきたぞ!」
クラスメイト全員が騒ぎ出して起きる。男子は可愛い女の子がいいなと言い、女子はイケメンがいいって言っている。なんの話だろうと思い周りを見渡すとクラスに優花さんが入ってくる。まじか...。最悪なパターンだと思いながら話を聞く。
「宜しくお願いします。モデルをやっている龍宮寺優花です」
するとクラスメイト全員が叫びだす。モデルのゆうじゃん! 実際見てもかわいい! 彼氏いるのかな? などいろいろと質問をしていた。
「お前ら、そう言うのはホームルームが終わってからやれ。席は窓側の一番端が龍宮寺だからその後ろに座ってもらおうかな。いいか?」
「はい」
先生が俺の後ろに机を用意して、優花さんが座る。すると優花さんが話しかけてくる。
「私たちは家族じゃないから他人って設定。後この前約束したように、話しかけてこないでね」
「うん」
ホームルームが終わるとみんなが優花さんの方に行く。
「龍宮寺さんって龍宮寺と同じ名字だけどなにか関係あるの?」
「何も関係ないわよ」
「彼氏はいるの?」
「いないよ」
「モデルって大変?」
などいろいろと質問攻めをされていた。迷惑っぽい顔をしていたけど、俺が助けに入れるわけでもない。そう思いながら1限が始まった。
1限は数学。優花さんは教科書を持っていなかったため
「教科書が来るまで俺の教科書使っていいよ」
「あぁ。ありがとう」
「いいえ」
俺は教科書を貸して突っ伏す。すると先生が俺に向かって
「龍宮寺! なんで寝るんだ」
いつもなら謝るが、ここで教科書がないですと答えるわけにもいかない。
「少し体調が悪いので、突っ伏しているだけです。保健室に行くほどではないので聞くだけにしようと思うのですがダメですか?」
こんな非常識のことをいって申し訳ないと思うが、しょうがない。すると
「まあお前は頭がいいから今回だけだぞ」
「ありがとうございます」
この授業はこれで逃げ切った。次の授業からは前もって先生に理由を説明して4限まで逃げ切る。
昼休みになると、優花さんの周りにいろいろな人が来たため、俺は退散する。すると唯一の友達---榎本隆一が話しかけてくる。
「飯食いに行くんだろ。一緒に行こうぜ」
「お前は良いのか? 優花さんに話しかけなくて」
「いいんだよ。別に今じゃなくても今後話せるしな」
その時、優花さんが弁当を持ってきていないことに気付く。美穂さんとの会話でいつも優花さんはカード払いしかしないと言っていたので、俺はみんなにばれないように1000円を優花さんに渡して教室を後にする。
隆一は1年ながらバスケ部レギュラーでイケメン。俺とは正反対の人間だ。なぜ仲がいいかと言うと、幼稚園から一緒にミニバスで一緒だったため今でも仲がいい。
「仁も今からでもいいからバスケ部に入れよ。お前ならすぐにレギュラーになれるって」
「俺はいいって。もうバスケはやめたからさ」
いつもバスケ部に勧誘される。別にバスケが嫌いなわけじゃないけどあの事件以来、人を信用することができない。
二人で他愛の無い会話をしていると優花さんからメッセージが来る。
[教科書とお金ありがとう。家に帰ったら返す]
[はい]
こんな感じで少しづつ距離を近づけていけたらいいな。
昼休みが終わり5,6限の体育が始まる。今日は体育館でバスケ。隆一とは別のチームのため、戦うことになる。外野の女子は隆一くんかっこいいなどいろいろと言われていた。
試合が始まり、俺がポイントガードとしてドリブルを始める。最初の人をクロスオーバーで抜いてパスを出す。その後味方にパスを出してもらい隆一との1on1になる。3Pラインでジャブステップをして、フェイクを入れつつドリブルを初めて、レッグスルーを行い、バランスを整えつつ、隆一が俺に目を向けているところをノーマークの味方にビハインドパスを行い、シュートをきめてもらった。
すると女子たちは唖然して、チームメイトは歓声をあげた。
「龍宮寺ってこんなにうまかったんだな! この試合勝とうぜ!」
「おう」
その後も試合が続くが、やはりバスケ部レギュラーなだけあって、味方にしっかり指示を出していて、パスルートがなく、この試合が終わる。
「やっぱり強いな」
「いやいや。仁こそ衰えてなかったな! バスケ部やっぱり入れよ」
「嫌です」
俺たちが笑いながら話して体育が終わった。
家に帰ったら、優花さんが話しかけてくる。
「はい1000円。後教科書もありがとう」
「いえいえ」
「後体育の時間すごかった」
「ありがとう」
「それで少しお願いがあるんだけど」
「なに」
「私に体力をつけてほしい」
「...」
一瞬何を言っているのかわからなかった。なんせ昨日まで必要最低限の会話しかしないでと言ってきたのに、今日突然体力をつけて欲しいって言うなんて。沈黙していたら
「馬鹿にしたでしょ。やっぱりいい」
「違う違う。教えるよ」
「そう。じゃあ毎週月曜、木曜で教えて」
「わかった」
そう言って優花さんは部屋に戻った。なんやかんや早く仲良くなれるかな? 今日でグッと距離が近づいた気がする。俺からは何もしてないけど...。俺は少し浮かれつつ部屋に戻り就寝した。
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