瞬き
雪が溶けて山が緑に染まる頃。
優しいこの手があと少しで終わる。
地元から車で2時間半かかる所にある病院で、最後のその時を待っている。
酸素ボンベは定期的なリズムを繰り返していて、
脈も弱くなる。
私の人生の歩み方は正しかったのか、
それとも間違ってたのか。
医者や看護師が何か話してるが何を言っているのか何も分からない。
声が聞こえない。
気分は宙に浮かんでるようだった。
私はこの道が正しかったのか、
ダメだったのか、
何も分からない。
私が妊娠した時は、怖かった。
腹の底に命が宿っていて、自分が下手をしたらこの命は何処かに行ってしまう。
悪い空気を吸っただけで毒になってしまうと思ってた。
この腹の子をいつまでも護りぬくと思っていた。
それも、数ヶ月の事。
急に腹に痛みを感じた、奥の命は無事なのか。
自分の命などどうでも良い、どうかこの子を。
助けて。
意識が朦朧としてくる間もこの子が助かれば、
この子が助かれば何もかもが許される。
私の命など惜しくもない、
例え少し気に入らない貴方が育てても
この命が繋がることが出来るならば、
何もいらない。
この子がこの世界に生まれることこそ意味がある。
毎日の様に腹を撫で、
毎日のように声を掛けて、
毎日の様にそんな感じの本を読み漁る。
大切に大切に大切に。
この子の名前を漢字で画数とか占ってみたり、
子供服を選んでみたり。
あの人に似て可愛い顔の男の子になってくのかな。
あの人に似て、正義感の強いヒーローの様な男の子になるのかな?
想像は無限大。
背はどれくらいなのかな?
良く寝る子ならば、180は超えるかな。
よく寝ないなら...私に似て小さいかもね。
大きくなったら、
ハンバーグが好きになるのかな??
それともカレーライス??
今から料理も頑張らなきゃね。
大きくなったらきっとクソババァとか言われちゃうんだろうな、
ママと結婚するとか可愛い事言っておいて
絶対に反抗期あるんだろうな。
そしていつか、ママ呼びからお袋呼びとか母さん呼びとかに変わって呼ばれるのかな。
恋に悩んだりするのかな?
紹介してくれるのかな?
たぶん、しないよね。
私もそうだったもの。
そして貴方を身篭った、
誰にも相談なんて出来なかった、
泣きたかったなぁ。
それでも背丈が少しずつ追い越して行く度に
愛おしさも増してくる。
ご飯が出来ても、美味しいのか不味いのかも言わない。
帰ってくる返事は んー。 だけ。
困った子。
私のこんな姿見てどう思うのかなぁ。
悲しんでくれてる?
泣いてくれてる?
昔は泣き虫だったのに。
今は泣いてる所を見た事が無い。
一つだけ心残りは
あの子にちゃんと人としての優しさが携わっているのか、
私がこんなのだから、我慢させすぎてしまったのか。
一粒の涙だけ流す涙が見たい。
大丈夫って伝えてあげたいけど、
もう無理そう。
眠くなってきちゃった。
意識が遠くに遠くに
身が落ちていき、足掻けない状態。
ゆっくりゆっくり、
落ちて行く。
眠るその寸前で聞こえたのは、
「ようやく死んだ?」
愛するむす..こ....のぉ....こ......。




