第三十九話 ドメイク砦奪還作戦
黄金色で飾られた広い大間。「謁見の間」、何千年も侵略されることの無かった城にはこれまで採掘した鉱石で作ったであろう装飾品の数々が壁と言う壁にあしらわれている。
謁見の間にはドワーフの兵が前方に列を成し、その後ろに龍人兵が整列している。王への警護も兼ねての隊列なのだろうか。中央は開いておりレッドカーペットが敷かれている。俺達はそこを進む。
「ようこそ我が城へ。我が名はアストーク・ブリンダルである」
ずっしりと玉座に腰を下ろしているその男性はすっと立ち上がり俺達を歓迎してくれた。
通常のドワーフよりも大きいのだろう170cmくらいのずんぐりむっくりな体型だが、腕は太く髭が地に付きそうなほど長い。流石ドワーフの王と言うべきか、見事な着こなしで全身の装飾がしっくりとくる。
俺達は最敬礼を執り、順に挨拶していく。
「お初にお目にかかります。姓は羅道北玄大公王、名を神威と申します」
「あの万年戦闘凶にもついに息子が出来たのか。吉報が一切来なかったがこれも戦時だからか」
「玄華側にも問題が多々あり報告が出来なかったと伺っております」
「そうか」
無論そんな話なんて聞いたことは無い。俺はつい先日まで生存が不明であり公的にはまだ息子だとは知られていないのだ。城下であっても月夜の知名度の影に隠れてたおかげで知られていない……はずだ。
「それはそうとして、此度は魔王軍の先兵の侵略を阻止したとのこと。大儀であった」
「まことにありがとう御座います。一刻も早く戦争を終わらせる為尽力致します」
「うむ。今後とも頼む」
それから褒章式が礼式にのっとり執り行われ、全てが終わると王が退出。その後兵士達も徐々に退出していった。俺達も退出し、各自兵舎を案内された。
俺と襷丸は個室、その他兵達は男性4人部屋の3部屋と女性4人部屋が2部屋与えられた。俺は長旅で疲れた体を早く癒したい。今日は早く寝たいんだ。
「神威様、今後の予定ですが―――」
やめろ。俺は疲れてるんだよ。ってか襷丸もずっと馬車に揺られてたのに何で元気なんだよ。表立って言わないけどさ……。
「ああ」
「先ほど参謀本部から連絡がありまして、明日の午前参謀会議があります」
「事前に覚えておくべきことは?」
「えぇ。それは―――」
それから1時間くらい事前情報をまとめ、確認をしあった。と言っても、参謀総長並び参謀達重要人物の名前と役職に明日行われるであろう敵戦略拠点の情報などに関してだ。
襷丸が俺の部屋から退出し、静けさが広がる部屋。もう今日は寝て明日に備えよう。
翌日。朝から俺と襷丸は参謀会議へと出向く。既に数十組の隊長格や軍師が勢ぞろいしていた。
部屋は半円型のホールとなっている。イメージはドイツの連邦議会会議場の様なものだ。
参謀本部側は中央にある檀上の奥に座り、龍人およびドワーフ軍部各関係者は手前の席へと座る。机の上には膨大な紙の資料が積まれている。
延べ500名以上座れるであろう席数には座席指定があるようで、襷丸が関係者と対応し一緒に席へと向かう事となった。
開始時刻が迫るとほぼすべての席が埋め尽くされていた。全部隊出席らしい。ざわついていた室内も徐々に静まり司会を務める参謀司令部の男性が壇上へと上がる。
「お待たせいたしました。これより定例議会を行いたいと思います」
男性は声を上げ発現する。マイクみたいな拡声器がない様で広い部屋では発現者以外は基本私語厳禁だ。俺はこういった大会議での出席経験は正直無い。政治家でもなかったしな。ここは黙って状況を知ることに徹することにする。わからないことは襷丸に聞いて補完しよう。
「前回のドメイク砦陥落以後敵勢力が活発化しており早急に対処する事が本件であります。つきましては詳細が各席に御座いますので目を通して頂きます」
目の前にある30センチくらいありそうな分厚い髪束全てが資料か……地球の紙とは違い分厚いがこれでも50枚以上ある。
「ドメイク砦奪還作戦における説明は作戦参謀長、婀娜様が致します」
男性は壇上から降り、婀娜に一礼を執ると婀娜は壇上へと上がる。
「諸君。前回の敗戦により敵の死霊術への怖さは痛いほど実感しただろう。だがドメイク砦内部、および周辺の地形知識はこちらが有利である。故に早期奪還を強行する。して作戦概要をこれより発表する―――」
作戦概要はこうだ。おおよそドメイク砦内に収容できる敵兵数2万その他野外にゾンビ系の死霊の類が約3万の5万兵力が居ると予想される。自軍兵力はドワーフ軍からの2万兵と龍人からの2万兵合わせて4万兵力での戦となる。数においては死霊術でどんどん増えると言う事なので総数に関しては当てにならないらしい。
ドメイク砦は北落師門同様に山をくり抜いて出来た要塞である。
まず先遣隊である龍人軍が5000名龍化し、敵の野営拠点および砦の外周を駆逐する。その後山から砦内部へと侵入するドワーフ軍と各所決められた地点に龍で兵を輸送して砦内部を攻略してゆく。
最後は敵将捕縛、又は敵将の首を取ること。が本作戦概要である。
ここで障害となるのが敵主力には竜人が居るらしく、敵の竜との戦闘により制空権を奪取出来なければ今作戦は失敗に終わるだろうと言う事。机の前に置かれた資料には全体の流れ、各班の突撃指示や共通の暗号補給路の場所等々が記載されている。だが、この資料で書ききれない不測の事態なんてざらにあると思われるので一通り頭にぶつ込める様に何度も読み直す。
軍議は終了し、部屋へと戻る。作戦結構は3日後、俺は襷丸と他の兵達を呼び作戦会議をする。
「―――以上が議会で得た情報でだ。何か質問は?」
「では、我々は歩兵として砦攻略部隊になる訳ですね」
「そうだ」
「正面門からの突撃となると敵主戦力との衝突になりますね」
「味方の矢も飛んでくる激戦区になるだろうからな、自分達も仲間を斬り付けない様にだけは心しておけ」
「「「「「ハッ」」」」」
その後、俺の持ってる部隊に世話をする支援要員15名が配属された。大体1人に付き1名割り当てられるらしいが人数が居ないのだと言う。
人員不足に重要拠点を敵に抑えられている劣勢状態。
考えてみると一人でどうしようもないレベルの不安があった。
『俺なんかの力で本当に世界を救えるんだろうか』
心の底で疑念を抱きつつも2日が過ぎ、出撃の日となった。




