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第三十話 武久の受難

前回のあらすじ:女王蜘蛛を倒し杜の都へとやって来た。

「おぉ、武久ではないか!」


関所番であろう兵士が声を上げた。


「権次郎か、久しいな」


「貴様とこうして出会えるとは我も嬉しく思うぞ。して後ろの子等は」


「あぁ、紹介しよう。瞭然様の息子の神威殿。瞭公様の娘の月夜姫様だ」


「神威だ。よろしく頼む」


「月夜と申します。以後お見知りおきを」


その言葉を聞きつけ関所の兵士は一斉に集まり地面に正座し、礼を執った。


「私用で来訪してる故、気を使わなくとも良い」


月夜の一声で立ち上がると多くの兵士が質問してきた。今日は何の用でここに来たのか、何泊するのか、宿はあるのか、護衛は必要か、観光案内しましょうか?、俺とはどういった関係なのか、などなど。


時刻は夕暮れ。武久に連れられ向かうは武久の実家。月夜は先ほどの質問攻めに答えたのか穂を染め動揺しているようだった。


「まさかあんなに質問攻めになるとはな」


「わ、童と神威は許嫁……」


どうやら俺との関係を迫られた際に俺が放った言葉に対して動揺していただけだったようだ。と言うか本人も慣れてるかと思っていたがいざ直接言われると気にする素振りが初々しい。


「それにしても、武久も久々の帰郷はどうなんだ?」


「やはり故郷と言うのは安心しますな」


「クルメに感謝しなさいよ?今回の話をきいて真っ先に武久を保護者に立てるって言ってたんだから」


「帰りに土産でも買って帰ると致しましょうか」


「そうね。そうしましょ」


「そだな」


武久の実家は武家屋敷だ。周壁に囲まれ庭園、弓の訓練場、馬屋、井戸がある。玄武殿もそうだったが平屋だから屋敷の敷地面積はかなり広く感じる。先に武久が家の門を超え、家の者を呼びつける。すこし経ってぞろぞろと家族がやって来た。


「姫様、ようこそ我が家へ。拙者はここの主、武永たけながと申します」


「ようこそおいで下さりました。妻のカヨと申します」


武久の両親が丁重に挨拶を交わし一礼を執る。その後8人の武久の兄弟であろう子等が順に挨拶をした。男が3人、女が5人で両親含めて10人家族か。凄まじいな。ちなみに武久は8人兄弟の長男らしく、本来であれば既に結婚していてもおかしくはない年齢なのだが、10年前の戦争があった時から王都に勤め、その後も玄武殿に居たのもあり婚期を完全に逃していた。


夕食は武久が久しく帰郷したこともあり盛大に執り行われることとなった。武久も自分の兄弟達がこの十年で2人増えていることを知りそれを大いに喜んだ。


俺は武永にこれまでの話をせがまれ、武久は兄弟・姉妹の相手をしてやって、月夜はカヨと談笑していた。


「姫様。うちの武久が姫様達に御迷惑をおかけになってはおりませんか?」


カヨは月夜に心配そうな物言いをする。


「武久にはいつも助けられておるから安心しても良いぞ。昨夜も7尺以上の化け物蜘蛛を退治した時武久が止めを刺しておらねば童は今ここにはいなかったほどじゃ」


昨日の女王蜘蛛の時の武久の有志を誇らしげに話す月夜に、笑みを浮かべながらも目を潤ませているカヨはうんうんと頷いていた。


「あの子は昔から見た目だけはいっちょ前な風を装う子でね。豪快に振舞っておりますが、肝心なところで一歩を踏み出せぬ軟弱者なんです」


「たしかに、それはあるかもしれんな」


「姫様もそう思われますか」


「童の教育係であるクルメに惚れておるのに一向に距離が縮まらん。クルメもこのままでは行き遅れてしまうので城の侍女達の話題では恰好の的となっておる」


横で話をしていた俺達にもその会話は聞こえており武永の耳にも入ってしまったようで、二人の会話に割って入った。


「姫様、武士の子ともあろう武久がとんだ軟弱者で申し訳ございません。これ武久!今からこちらに来なさい!」


武士の自尊心だからだろうか……いや、両親の心配からだろうか、武久を呼びつけ俺達の前で正座させられている。


「全く、良い伴侶になりそうな娘さんを目の前に置いて射止めれぬとは情けない」


「父上、突然何を」


「全て姫様から事情は聞いた!次回来る時はクルメ譲を連れて挨拶に来なさい」


今の今まで兄弟達に囲まれて騒がしい中、俺達の会話が聞こえなかったのだろう。突然の暴露と密かに進展していた恋心が実は周知の事実だったことに驚愕を受け動揺する。


「え、にーさま結婚するの?」


「兄者、お相手の女性はお美しいのですか?」


父、武永の爆弾発言により兄弟から猛烈な質問攻めにあう武久は色々な意味で対抗に困り果てていた。


「して、姫様。クルメ譲とはどういった方なのでしょうか」


武永が武久の恋路にグイグイと突っ込んでくる。やはり武家の家系として子孫を残す為に必死なのか、ただ恋バナが好きなだけかはわからないが、すごい迫力だ。


「クルメは軍師『光徳』の次女でな。見た目は侍女内でも話題になるほど美形で、知識、作法、武術も文武両道にこなせる。ちなみに料理の腕は絶品じゃ」


「おぉお。武久になどもったいない娘さんではないか」


「ですが貴方、相手は国家軍師の将軍様の娘様です。うちの武久など不釣り合いじゃないでしょうか」


「うむ……姫様、武久とクルメ譲のご関係を姫様はどう見ておられますか」


「うーむ。童も直接聞いた訳ではないのでな安易にクルメの気持ちを口に出すことはしたくはない。、しかし童としては両想いだと思うのじゃ。けれど、クルメもクルメで一途なところがある故、共に一歩を踏み出せぬと言ったところだろうな」


月夜は二人の愛のキューピットにでもなろうとしているのか、ペラペラと武久の両親にクルメと武久の関係を暴露しまくってゆく。自分がその立場になると恥ずかしさでドギマキする癖に他人の恋バナは大好物なようだ。


「武久!」


「は、はい!」


「クルメ譲は一途な方とお見受けしたぞ!次に会う時は自ら一歩を踏み出し射止めなさい。もし叶わぬならば主は我が子とは思わぬと知れ」


「そ、そんな」


武久の両親はすっかりクルメを気に入ってしまったようで月夜と意気投合し、武久に恋路を進展させるように説教をした。すっかり良いも冷め説教を受ける武久を横目に俺は食事前に案内された部屋へと戻り就寝した。


翌日武久はげっそりとしており、月夜は逆に元気だった。どうやら徹夜で説教していたらしい。


半ば放心状態の武久を見るに見かね、家に置いて俺と月夜は街を巡ることにした。

武久の両親がクルメと武久の恋路に進展を求めているようです。

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