第二十七話 行商行方不明事件
前回のあらすじ:城下町を散策した。
「え? 行商が帰ってこない?」
「はい。この店にある商品の大半は『杜の都』から仕入れているのですが、今回は予定より遅いので」
月夜と城下へ遊びに行くようになってから、結構一人で街を練り歩くようになり数か月が経過した。
魔王軍と戦闘中であろう最前線の状況は俺の元には入ってこない。
仕方ないので日課の訓練をしつつ、こうして街へ足を運んでいるのだ。※主に遊びに。
あの時知り合った金物屋の店主『弥助』とは印籠の件で知り合う事となったが、あの印籠が少しずつ兵士の間で出回るようになって売れ行きが伸びているとの事で妙に仲良くなり、良く足を運んでいた。
その弥助が言うには、自分の遣いに出した行商が数日戻ってこないのだと言う。
「今日で何日目だ」
「かれこれ2週間くらいでしょうか」
街で見かける行商は基本的に普段二輪の荷車を3人で押して移動している。
隣町に行って取引先に寄って商品を持って帰るにしても距離によりけりだが10日前後くらいで1往復は行けるのか?
「普段は何日くらいで帰って来るんだ?」
「大体1週間もあれば戻ってこられるかと。まぁ積み荷にもよりますが」
「うーん。魔物に襲われた……とか?」
「比較的巡行路が整備されているので無いとは思いますが……」
まぁ、このご時世盗賊業なんて無いだろうしな……。魔物に襲われた説が有能かもしれない。
「わかった。一度俺が確かめに行ってくる」
「えええ。殿自ら行かれるのですか!? それはお止めになった方が……」
弥助の童謡して先ほどの話は無かったことにしてくれと言わんばかりの態度を見せた。
「まぁ、城に戻って準備してくるから」
俺はそのまま城へと帰った。
「―――と言う訳で杜の都に行ってくる。数日戻らないからよろしく」
クルメが頭を抱えている。そりゃそうだ。城の城主の息子が城下に勝手に行き来して、戻った途端に別の街へ行ってくると言い出したんだ。無理もない。
「いえ、神威様の強さであれば心配はしないのですが、問題は別にありまして」
「何か心配事でも?」
「神威様が行こうとすると月夜様も必ず―――」
「童も行く」
俺達の話を聞いていたのか、すでに準備の終えた月夜がそこに居た。はえーよ。
「こういうことになりまして……」
「……あぁ。理解した」
「世間体的に子供二人で行かせるのは見栄えが悪いので武久を連れてゆきましょう」
「すまないな」
「いえ、私も別件を抱えておりますので」
クルメは礼を執り武久を呼びに向かう。俺は杜の都についての情報が無いからとりあえず月夜に聞いてみるか。
「杜の都なんだけど、行ったことはあるか?」
「あるよ。だけど童が行った時は被害が大きすぎてかなり荒れ果てたところだったけど」
「なら迷子にはならなさそうだ」
そういや、王都まで侵攻してきたんだったな。魔王軍の侵略に対して対応が遅れたって言っても侵攻が凄まじいな。電撃戦かよ。
「おや、初めまして」
かなり年老いた老人が声をかけてきた。素襖を着こんでここに居ると言うことは瞭然……。親父に謁見に来たのだろう。数か月城に居るがこの人は見たことが無い。
「申し訳ありません。翁殿、我は神威。羅道北玄大公王の嫡男であります」
「童は月夜。羅道北玄公王の嫡女である」
例として一礼を執る。
「ふぉっふぉ。元気の良い子等じゃ。儂は瑞雲。ただの爺さんじゃよ」
いや、ただの爺さんは城に素襖で来ないから……。
「して、瑞雲殿は以下がなされたか」
「これから龍王様の元にな」
「では、侍女を呼びます故お待ちを」
俺は侍女を呼び瑞雲を案内させた。後で聞いた話だが、あのお爺さんは侯爵だとの事でこの国の内政担当大臣だそうだ。今後関わるかどうかは判らないが名前だけは覚えておくことにした。
俺達は杜の都に向かい街道を歩いている。杜の都は瞭然から南東の方角にある人口で5千人くらいの都市だそうだ。武久の話では紅葉が綺麗な街であるとの事。やたら詳しいので聞いてみたら武久の出身地らしい。これは宿代が浮きそうだ。
「―――この辺りは比較的魔物が居ないと思いますが、油断はなりませぬぞ」
「神威は玄武殿から出たことないのよね?」
「あぁ、そうだな」
「王都からはまだ復興していない街や村が多いらしいから、想像より綺麗な場所は少ないかもしれない」
そうなんだよな。俺がこの世界に一方的な期待を抱いていても、今は戦時中でのんびり観光なんて出来ない。街道を歩いていても所々に朽ちた木々や戦場痕が残っている。
今回の一件は何か嫌な予感がする。
「ただの魔物騒動で終わってくれたら良いんだけどな」




