第二十六話 城下町をぶらりと
前回のあらすじ:瞭然に敗北して慰めてもらった
昼下がり、活気あふれた城下町をお忍びで探検する。
街の行商が忙しなく行き交う光景を横目に、大通りに何があるのか見て回ることにした。大きい雑貨屋や薬屋、呉服屋などの商店の合間に茶屋や大衆食堂、酒場などどれも外から見て、人の往来が激しい場所は見ていて面白かった。
大通りは南側に向いた門(正門)を軸にまっすぐと伸び、天守からの景色はまさに絶景だった。
むしろわかりやすい作りのお蔭で迷子になることは無いだろうと思うほど。
長い間戦争もなかったのだろう。平城と言う時点で城は象徴的な物なんだと予想はしていた。
大通りには月夜の好きな呉服屋や雑貨屋が多くあるらしく、それらを案内してもらった。流石は女の子。どの時代どの世界でもそう言うのが好きなのは全世界共通なんだろうな。
一緒に歩いている中で金物屋があったので覗いてみた。あまりこの世界で流行っていないのか見なかったが、地球ではなじみの物を発見した。
「良い彫金が施してある印籠があるな」
「印籠?」
「まぁ、薬を入れて置くものだな」
「病気って魔法で治すんだから必要ある?」
そうだった。怪我も病気も魔法で解決すするから印籠がオシャレとして流行らないのか。江戸時代の人は持ってて当然だったからそこから流行の印籠を出来たりと派生した訳で。
「なら試しにこの印籠を腰にぶら下げる」
「あ。可愛い」
「だろ?魔力が尽きても携帯用の回復剤でも入れておけば緊急用としても使える」
「お坊ちゃん、面白い利用法を考えるね」
店の奥から中肉の男が出てきた。店の店主だろうな。俺の言葉が琴線に触れたんだろう。
だがな、そのせいで月夜が俺の後ろに隠れてしまってるんだが。
「あぁ、俺は彫金が好きだからな。これは良いものだと思う」
「いえいえ、印籠の事ですよ」
「ん、おしゃれに使えるって話か」
「そうです!これを作った彫金師は最初練習で作って居た様で出来は良いんですがどうにも他者の気を引けなくて困っていたのです」
なるほど、キャッチコピーが無くて売れ行きが芳しくなかったと。
「なら店主自ら実践するか、可愛い子にでも着けさせて街を徘徊させて様子をみたらどうだ?」
「ふむ、大衆の目にさり気なく紛れ込ませ気になった者が買い求めにやって来る。と言う事ですかな」
「そうだな。気になれば噂になるし、他人から言われて勧められるよりも自分で見つける方が人は動くのが早いしな」
「お坊ちゃん、商人に向いてるかもしれませんね。その歳でそういったことを考えているのは将来が楽しみですな。気に入りましたであればここから1つ好きな物をお譲りしましょう。ただし、先ほどの話は私に譲っていただけませんかね」
印籠1つで儲け話をくれってのも大概な話だよ全く。だけど俺には必要もないしこの世界で商人として大成するつもりもないのでその条件をのむことにしよう。
「月夜ならどんなのが好き?」
「んー。これが可愛い」
薄に月、流水に蛙ってとこか。正式名称まではわからないけれど彫金で施された蛙がなんとも可愛い。
「こちらでよろしいので?」
「あぁ、これで頼む」
「そういや、名前を聞いてなかった」
「私は弥助と申します。以後お見知りおきを」
「俺は神威」
「童は月夜」
「まさかお忍びで姫様方がこちらにお越し下さるとは思っておりませんでした。無礼な態度があったならばお許しください」
「構わんよ。手ぶらで来たので月夜に何もできなかったので助かった」
「滅相もございません」
「ここは色々なものが置いてあるからまた何かあったら立ち寄るよ」
「ありがとう御座います」
俺達は店を後にし、またぶらぶらと街を見て歩く。
「ちゃんと出る時、金を持ってきてればよかったな」
「ううん。楽しかったし、それにコレも貰えたから良い」
俺がさっき帯に結んだ印籠を大事そうにしている。今度は根付を買ってあげなきゃな……。
まだ日は落ちてはいないが、良い時間なのでそのまま城へ戻ることにして今日の街歩きは終了した。
この世界初めての城下町をぶらぶらと。




