第零話 神話の神々と俺
『俺は、俺の望んだ展開が、今、まさに実現しようとしている』
夢にまで見た異世界転生だ。
これで俺も異世界でマンチキンプレイをして英雄になれる人生が約束されたも同然だな。
俺は広い大間で三神を前に正座している。
今いる場所は多分『高天原』なんだろう。だって三神が居るし天照の領域でもあるからだ、しらんけど。
目の前に居る神話の三神『天照大神』『月読尊』『素戔嗚尊』を前にしてそんな風に考えていた。
俺から見て右側に居るのがきっと素戔嗚尊だろう。全体的に武神臭が半端ない。見た目は変態だが。
上半身はムキムキだが肥大過ぎず柔軟そうな体付きでかっこいい。腕には腕輪などの装飾品の他右手にはクレイモア並みの長さの直剣。下半身は袴に垂が前後ろ左右に付いてる。あと特徴的なのが腰まで伸びるボッサボサの髪だな。まるで伝説化する前のSS人ブ〇リーを黒髪、黒目にしたみたいな感じだ。
素戔嗚尊の左側にいるのは月読尊だろう。
俺がわかる限り平安の正装着だろうか。神社の神主が着るようなアレ。全身は白と紫でコーディネートされている。白い部分は絹で紫は多分あの時代以前で最高に価値のある貝紫なんだろう。
背中には弓筒、黒く美しい弓を持ち、腰には直剣を指している。
全身を綺麗にまとめた服装に負けず劣らすの超美形の男性だ。文武両道タイプなんだろう。
最後に天照大神。
服装は想像通りの朱と白をベースにした巫女装束。だが、流石神様。やっぱり巫女装束とは違う。
ベースの巫女装束に単衣を数枚羽織り、邪魔にならない程度の装飾で身を包んでいる。
右手には神楽鈴を持っているんだが、鈴の数は多い……。100個以上付いているんじゃないか?
顔は美人ではあるけど超絶美人!って訳でもないところが日本っぽい。
全体的に見て神って割には地味で素朴と言うか、親しみやすい身なり服装をしていた。
まぁ、良くも悪くも日本の神様だった。
そんな俺の状況を知ってか知らずか天照は口を開いた。
「朕滋ニ忠良ナル爾眷属ニ告ク。朕異神ノ朋有リテ、異神界ハ邪人ニ破却セシメ―――。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
天照は突然の俺の表情を疑問に思ったのか口を噤む。
いや、おかしいだろ!言語翻訳とか無しでも文章ならギリわかるかもしれん。日本人だからな!
言葉にして聞いて即時理解は現代人には無理すぎる!
とりあえず現代語がどこまで通じるかわからないがジェスチャーを交えながら神々にその旨を伝えた。
その後、なにやら神々達が互いに相談したかと思うと天照は神楽鈴俺の方へ向けシャリンと3度ほど振った。
直後俺の体からなにやら白い魂のようなものがふわふわと出たかと思うとそれらは3つ別れ神々の中へと流れていった。
「これで其方にも余の言葉がわかりますか?」
お、おぉ。これは凄い。何がどうなったかは分からないけどさっきの魂のようなものを吸収したとたん俺にもわかる話し方になった。そしてなぜ朕から余に言い換えたんだろう。
「えぇ、理解できます」
その後、天照は先ほど俺が理解できなかったことを改めて教えてくれた。
聞いた話だと、この三神達には異世界の神に友人が居るのだが、その友人の世界が邪悪なる者に破壊されかかっているとの事。そこで自身の眷属である日本人の誰かを使ってその世界を救ってほしい、と。
まー。ありきたりだな。
すみません。日々そういう状況になったら良いなぁ的なのを想像してました。
異世界転生できるなら今の人生捨てても良いとか思ってました。
「あの、それで俺みたいな平民の能力なしにどうやって救えば良いんでしょうか」
俺の質問に月読が答える。
「それは問題ない、我々三神の加護を主に付与してやろう。」
「……!」
まじか……!俺にもチートな能力を付与してくれるわけか!しかも3つも!?
「この俺様が直々に力を授けるなんざ滅多にないことだから感謝しとけよ?」
なんで言葉遣いが悪いんだよ。現代語にしても敬語で会話しないのか。
「これ、素戔嗚、仮にも眷属ゆえ我等の血が混じっておるゆえ家族じゃ、ならば父と子の様に親しみを込め扱いなさい」
その言葉に素戔嗚はやれやれといった表情で口を噤む。
そんな素戔嗚を後目に天照は話を続ける。
「して、これから行く世界の事ですが――-。」
天照の話を聞き、わかったことは、どうやら俺の転生先は人間ではなく龍人となる予定だそうだ。
身なりは人間と大差ないそうだが角があり龍へと変身が可能な特異種だそうだ。
聞くところによるとその世界では多種多様な種族が居るらしいが総合能力もさることながらステータスが高く、寿命や病気で死ぬことが無い種だから採用したそうだ。ただし殺されれば死ぬらしいが。
それと、もし世界を救った後は再び俺の前に姿を現し、救った世界で龍神になるも良し、こっちの世界に戻っても良しと色々条件を提示してくれた。もちろん即座に行くって答えていたのは内緒だ。
『好条件』『最強ステータス』『チート能力』これで転生したらすぐに世界を救ってエンディングだろうな。
なんてことを考えつつ、俺からも1つ質問があったので聞いてみた。
「えっと、天照、様? 天照様はなんで俺を選んだんでしょうか」
「それはですね―――。」
えっ、ちょ……。俺はその理由を聞いて自らに絶望した。
最近の眷属の中には俺の様な怠惰であり、自堕落の境地に達しているのにも関わらず己の現状を変えようともしない若者が何百万人以上も居るんだと。
その中からまず、自己意欲が偏った者、意志の弱すぎる者を除外し、選ぶ時にたまたま神社を訪れていた者を適当に指を差して決まったのが俺だったらしい。
俺はここへ来る前、田舎へ帰省して居り、たまに行く但馬妙見へ行った際不思議な光が俺から発して気が付いたらここに居た。
まさかただ指差しで決められて連れてこられるとは思ってもみなかったな。
「―――それではこの時より異世界へと転移させます。これから貴方は多くの体験をして世界の脅威と戦わねばなりません。我々の眷属たる貴方に武運長久と無事帰還できることを祈り、加護を授けます」
天照がそう言うと同時に月読と素戔嗚が高く跳躍し、俺を三角に囲むようにして何やらぶつぶつと唱え始めた。
「余が与えしは太陽の加護『希望』汝の道を明るく照らし出すであろう」
「我が与えしは月の加護『可能性』お主が岐路に立つ時、その道を明るく照らすであろう」
「俺が与えしは星の加護『勇気』お前が壁に局面した時、その道を明るく照らしだすであろう」
その後、三神の体から光があふれだし、淡い色のついた魂の様なものが飛んできて俺の前で止まる
天照からは黄金に輝く魂『希望』
月読からは銀色の輝く魂『可能性』
素戔嗚からは朱色に輝く魂『勇気』
それらが互いにゆっくりと俺の前で右回転してゆき、段々と距離を縮めながら溶け合ってゆく。
混ざりあった魂のようなものは俺の胸の中心辺りに流れるように吸収され、俺の体が光り輝いていった。
それと同時に俺の視界も眩さで真っ白になってゆく。
なにやら三神達が応援のエールの様な言葉を呟いている。
―――最後に聞いた言葉は
「成し遂げなさい。―――我が子よ」
こうして俺の伝説が今始まろうとしていた……!