魔王ちゃん、勇者を迎える(もう迎えてるけど)
勇者が階段を上ると、もう謁見の間に続く廊下だ。
バルコニー裏もこの廊下につながっている。立ち尽くしてる勇者に並んでみると、勇者って背高いなあ。
「なんだあれは」
豪華で大きな扉の前に、テーブルと椅子が置いてある。
「サーブポイント」
「救済ポイントじゃなくて?」
「配給ポイントだよ」
メイド、と合図する。
メイドはしずしずと銀のディッシュカバーをかぶせたお盆をテーブルに置いた。
そして手のひらを机に向けて、
「どうぞ」
「いや意味が分かんねぇ」
勇者は嫌そうに言った。
なんで? 首を傾げて勇者を見上げる。
「だって、勇者は魔王の扉の前で最後の準備をするんでしょ? 腹ごしらえとか必要かなって思って」
「それをなんで魔王が提供するんだよ」
「美味しかったから。すごいんだよ城下町の料理。食べた?」
「嫌になるほど。美味いのは分かったけど、だからどうして……もういいや」
勇者は頭を押さえて、立ったままディッシュカバーを開ける。
「おい魔王」
「うん」
「これが美味しいって?」
「うーん……」
紫色の湯気が立ち上る。
タコみたいな触手がうじゅうじゅ暴れて、目玉みたいなのがごろごろ浮いて、小さなスケルトンの頭が泳いでいる。
「あんまり美味しそうじゃないね」
「これ食ったんだよな」
「うん。たぶん。……メイドに目隠しされながら食べたの」
ほう、と勇者はメイドをにらむ。メイドは天井のシミを数えていた。
勇者はためらいなくスプーンを取った。
「魔王。一口食うか?」
「うん」
「おォッと手と足と口が滑ったァわたくしの独断ですッ!!!!!」
メイドがノーモーションで跳んできて机を撥ね飛ばした。
「あぁ、もったいない! せっかくのお料理が」
覗き込んでみたら、ひっくり返ったお皿が煙を上げて絨毯を焦がし、石の床を溶かして下の階に滴っている。
「別にもったいなくないかな」
「だろうな」
すごい勢いで机にぶつかったメイドは肘を押さえて床をゴロゴロと悶絶してる。
「ぐぉぁぁファニーボーン打った……!」
ほっとこう。
勇者は鉢金を押さえて、左手を剣の柄に乗せる。
「で。決戦するんだろ。ここでやんのか」
「あ、待って待って。そこ謁見の間だから。十数えたら入ってきてね。ほらメイド、早く行かなきゃ」
「ほぁい、参ります」
まだ腕がしびれてるっぽいメイドに巨大な扉を開けてもらって、謁見の間に入る。
広くて威厳のある玉座の広間。こうしてみると殺風景で寂しいかもしれない。飾り付けしておけばよかったかな?
玉座に座って、大きな声で。
「いーち! にーい! さ」
謁見の間の扉が吹っ飛んだ。
勇者が抜剣している。扉を斬ったんだ。
「え、待ってっていったのに」
「扉に入ってから十秒待ってやったんだがな」
「おぉ、そっか。そういうお願いにも聞こえるね。ごめんね」
あたしが曖昧な言い方したことを謝った、その瞬間。
勇者の目が憤怒に染まった。
ファニーボーン!!
明日も更新します