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魔王ちゃん!  作者: ルト
2/5

魔王ちゃんと勇者くん

 広間を見下ろすバルコニーに登ってすぐ、大きな扉がガチャリと開く。

 ギリギリセーフだ。

 扉を開いて現れた勇者は、鉢金を目深に締めて青いマントに身を隠していた。んん、マント仲間。趣味が合うね。

 あたしは自慢のマントを腕でバッと翻し、とっておきのキメ台詞を放つ。


「ふははははっ! よく来たにゃひぃいいいいいいいっ!?」


 ばぎぃいいいいいいんッ! とバルコニーの結界に勇者が剣を突き立てた!


「魔王様!」


 メイドがあたしの前に立って結界を張り直す。弾かれた勇者はくるくる回って着地した。


「ひぃ、ひぐっ、ひぐっ」


 喉が勝手にしゃくり上げる。だって、急に剣を向けられるなんて……びっくりして!


「勇者、貴様ァァ……魔王様を泣かせたなァァァ……」


 ずごごご、とメイドは赤いオーラをまとって宙に浮き始めた。

 その裾をつかむ。


「魔王様?」

「泣いてない。あだじ、泣いてない!」


 魔王だもん。

 魔王はつよいんだもん!

 すすっと着地したメイドは一礼してあたしの後ろに控える。あたしに任せる、という意思表示だ。

 部下に任された以上、立派にやらなきゃいけない。

 ちょっとちびっちゃったけど大丈夫。さきにトイレいっておいてよかった。

 改めてバルコニーに立って、勇者を見下ろす。

 ぎんッ! と目が合った。


「怖いぃいいいいいい!」

「ちょっと勇者テメェ、睨んでんじゃねェぞ魔王様が怖がるだろォが!!」


 思わずメイドに泣きついてしまった。


「……生まれつきだ」


 勇者のちょっと不服そうな声が聞こえる。

 生まれつきだったんだ。好きで怖い目をしてるわけじゃないんだ。悪いことしちゃった。怖いけど頑張って立とう。怖いけど。


「オホン。よく来たな勇者よ」

「……」


 やっぱり怖い。

 でも頑張る。


「よく来たな勇者よ」

「早く要件を言え」

「ひぃいいいい!」

「勇者ァァァ!」

「何回やるんだこのくだり!」


 勇者が怒った。でも勇者の言う通りだ。

 メイドから離れて胸を張る。


「よく来たな勇者よ」


 勇者がぐっとなにかをこらえてる。


「ここまでたどり着きたくば、我が用意した難問を突破して部屋を抜け待って? せめて話してる間だけ解くのやめて?」


 扉を開けた勇者は「ツッ」とマジの舌打ちをした。


「やっぱりこの勇者怖い」

「私が消して差し上げましょう」

「だめだめ、勇者と運命の決戦をするのは魔王の役割なんだから」


 気を取り直そうと思ったけど、勇者もう扉開けちゃったね。


「んもう。じゃあ次の部屋いこっか」


 あたしはすたすたとバルコニーを歩く。

 そして隣の部屋に入って勇者を待った。

 扉の隙間からあたしを見上げた勇者は、

 すっっっっごい嫌そうな顔をした。


「なにその顔!」

「……いやお前、部屋を進むたびに出てくるつもりか?」

「もちろん。ちょー頑張って作ったんだから。問題解いたらすごいんだよ」

「今解けたぞ」

「勇者すごいね!」

「………………」


 勇者はげんなりと肩を落として扉を開ける。一歩踏み出そうとして足を止めた。

 じろり、とあたしを見上げた後、鞘に収まったままの剣でどすんと床を突く。

 床が崩れて、発泡スチロールの山に降り注いだ。

 むふん。さすが勇者だ。落とし穴トラップをひと目で見破るなんて。あたしは問題作ってるときに三回も落ちちゃったのに。

 あれ? なんか勇者が落とし穴の底を覗いて顔をしかめてる。


「なんだこの白いのは」

「発泡スチロールだよ。知らないの? 軽くて頑丈で、こすり合わせるとすごい音するの。石油から作るんだよ。知ってた?」

「そこじゃねぇ。なんで発泡スチロールが敷き詰められてるんだってことだよ」

「え? だって、間違えて落っこちたら危ないじゃん」

「………………」

「勇者だけを見分けて落とせるならいらないけど、部下でもあたしでも、乗ったら落ちちゃうから仕方なく」

「……いちおう、俺を落とす気ではいるんだな」

「ここ、魔王城だよ? 建物ぜんぶが勇者の敵だよ、分かってる?」

「壮絶な勢いで実感が薄れてる」


 落とし穴をまたいだ勇者はすたすたと扉に向かっていった。

 おっと、いけない。言わなきゃいけないセリフがあった。


「よくぞ第一の扉を開いたな、見事な智慧だ勇者よ。だが第二の部屋はそうはいかんぞ。貴様の目に映るものだけが全てではない。努々、容易く通れるなどと思わぬことだ。ふぁーっはっはっは!」カチャン。


 勇者は扉を開けた。


「……しゃべり終わるまで待ってくれて、ありがと」

「どういたしまして」


 勇者はさっさと扉をくぐった。

 置いていかれたけど大丈夫、三つ目の部屋はすごいから。

 悠々と隣の部屋に歩いていくと、案の定、勇者は扉の前で悪戦苦闘してる。


「ふはははは! さすがだな勇者よ、運命に選ばれただけのことはある。だが智慧と運だけで通れるほど、魔王城は甘くはないぞ! この最後の部屋で絶望に打ちひしがれるがいい!」

「ん、ここが最後なのか?」


 パズルを解く手を止めて勇者があたしを見上げた。


「うん。ここまで解いてこれるなんて思わなかったから、二つでいいかなって」

「二つ? じゃあ三つ目のこれはなんだ」

「すっごく難しいものを作ろうと思ったんだけど、途中でごちゃごちゃになっちゃって。答えがあるかもよくわかんない」


 勇者は鞘の先を扉にガン! ガン!


「わーちょっと! ちょっと! 力技禁止!」

「答えのない問題が解けるか!」

「分かんないじゃん! 答えがあるかもしれないじゃん!」

「出題者も分かってねぇ答えをいちいち探してやれるか!」


 バキィ! 扉を砕いてしまった。


「あーあ。壊しちゃった」


 ふん、と鼻を鳴らして勇者は扉を越えていく。


 目つき悪い男の子ってイイよね……

 明日も更新します

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