第1話 はじまりの夜空 3
やがて、昼休みが終わって、英語の授業の時間になった。
彼方が座る窓際の席からは、校庭とその背後に広がる街並みが、よく見えた。
彼方の通う葉坂学園は、樋野川市にある。
樋野川市は人口十五万人、新興住宅街を擁する市街地とその回りを囲うように点在するのどかな田園風景とが混在する、中規模の都市である。
都心から近いこともあり、オフィス街と商業施設も、それなりに活気づいている。
葉坂学園は市街地の外れにあり、閑静な住宅街の中にある。
「この文法は重要だから、しっかりと覚えるように。テストに出すぞ」
と、教師の竹本の声とチョークの音が、教室に響いた。
遠目には、最寄りの駅前のビル郡が見えた。
灰色のビルの群れを覆うようにパノラマのように広がる、綺麗な淡い青空を眺めながら、彼方は、
(今日は、星がよく見えそうだな)
と、漠然とそんなことを考えていた。
英語の授業の説明が耳元を掠めていくが、彼方には少し退屈に感じられた。
授業の解説や内容に不満があるわけではないし、実際彼方はそのように感じたこともなかったが、時々物足りなく思ってしまうこともあるのは、事実だった。
彼方の成績は、学年で上位十番以内から外れたことはなかった。
いわゆる勉強ができる生徒というカテゴリーである。
よくありがちな、天は二物を与えたというような文武両道タイプではなく、ガリ勉で体育はからっきしタイプでもなく、体育の成績はいたって普通だ。
与えられた宿題や課題はきちんとこなすもののそれ以上は踏み込まない、そんな自発性に欠ける調子の勉強姿勢なので、模範生や優等生の性質とは少し離れていた。
そんな彼方が興味をもっているものが、小さい頃から続けている、星見だった。
星見とは、天体観測のことである。
彼方は、昼食の後のせいか、少しばかりの眠気を覚えた。
(眠い……な)
彼方は、あくびをかみころした。
ふと、街の外れのほうの小高い丘が、視界に入った。
あそこからだと、星もよく見えることだろう。
星は、昼間でも見える場合がある。
例えば、明るい時期の金星である。
昼間でも空には夜と同じく、星が存在している。
それらの星を日中に見ることができないのは、空の明るさが、星の明るさに勝るからである。
しかし、一等星のような明るい星に限ると、望遠鏡を使えば、昼間でも観察することができる。
こうした星は、空の明るさよりも勝って輝いているので、望遠鏡で星の近くを拡大して見ると、青空の中の輝く点として見えるのである。
本当に明るいときは、望遠鏡を使わなくとも、肉眼でも見えたりする。
(部活の日だったか、今日)
彼方は、そんなことをぼやけた意識の中で考えた。
彼方は、天文部の部員である。
部活動自体は、毎日あるわけではない。
基本的には、部の活動としては、週二回の集まりがある。
週二回の集まりのほかは、部員は、好きな時に気が向いたときに部活に出るという、ゆるい同好会に近い感じである。
そんな気楽さが、彼方は気に入っていた。