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第0話 星空の宮殿 1

 満天の夜空が、そこにあった。


 先程まであった天を(あお)ぐアーチは、かろうじてその原型を保っていた。


 アーチの大部分は、崩れ落ちていた。


 等間隔にそびえ立つ何十本もの巨大な柱は、半分以上が崩れ落ちていた。


 その構造物は、建造物であり宮殿だった。


 特筆すべきは、アーチも柱も床も壁も、宮殿の全てが、半透明なのである。


 宮殿は、巨大なガラス細工の様相を(てい)していた。


 柱と壁は星空を写し、床も星空で満ちていた。


 宮殿は、星空の中にあった。


 宮殿は、星が瞬く夜空の中にあった。


 雲の無い一面の星空である。


 中央広場の庭園の中央の花畑に、一振りの大剣が突き立てられていた。


 紅色の宝玉が埋め込まれた瀟洒(しょうしゃ)かつ無機質な外見の大剣である。


 大剣は、(なか)ば輝きを失っていた。


 花畑の中に、一人の少女が、座って(たたず)んでいた。


 綺麗に整った顔立ちと光を織り込んだような肩までの艶やかな髪は、人形の端整さを思わせた。


 少女は、泣いていた。


 嗚咽(おえつ)ではなかった。


 止めようのない涙が、少女の頬を伝っていた。


 少女は、泣き顔のまま、ほほ笑もうした。


 星の光は、夜空の中にあって、揺れていた。


 そして今、目の前には、その星の光が確かにあった。


 抱きしめているこの感覚は、幻と勘違いしてしまうように、淡くなってしまっている。


 握っているこの温もりは、偽物と思えてしまうように、頼りなくなってしまっている。


「さようなら」


 と、笑顔で、言葉がつづられた。


 爛然(らんぜん)()ぜる黄金の色があった。


 そうして、抱きしめている感覚も、握っている温もりも、全てが光の欠片(かけら)となって飛び散った。


 綺麗な星の光だった。


 哀しくなるくらい、どうしようもなく、綺麗な光だった。

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