ルール
‥‥次に呼び出された時は夜中だった
突然、映らなかったテレビ画面に浮き上がる文字
《25時 体育館へ》
簡潔な一行分
皆、騒然となったが、応じたのは洋一郎と拓也、そして天宮だけだ
「時計が無かったら夜なんだか朝なんだか分かんないね」
「体内時計も狂うからな。でも不思議と腹は減らない」
体育館へ続く廊下で三人の声だけが響く
「無理して来なくても良かったんだぜ?ホントは怖いくせに」
「!」
おもむろに言われ、驚いて顔を上げる天宮
拓也と目が合った
洋一郎は黙って、後ろの会話を聞きながら歩き続ける
「なんで?」
「分からないでか♪何年付き合ってると思ってんの?島中に会う事も、今の状況も、怖くて仕方ないくせに」
図星を言い当てられ、気まずそうにして拓也の裾を取り、口を開く
「竜義は変わっちゃったの?」
「ソレを確かめたくて付いてきたの?」
すかさず、聞き返されて僅かにたじろぐ
「‥‥‥」
答えられなかった
そうこうしている内に目的地に来て、重い扉を洋一郎が引く
絶句した
拓也でさえも目を見張ってしまう
「な…ンじゃ、こりゃ……」
館内は見る影もなく、ドーム状のコロシアムが設けられていた
周囲は観覧席が設置され何処からでも、中央の舞台上が見渡せるようだ
東京ドーム位の面積がすっぽり体育館内に収まっている謎に思考が着いていけない
「せっ、先生。ココ、体育館……だよね?」
唖然として洋一郎の手を握る天宮に、自分も混乱して応えられない
拓也だけは、いち早く我を取り戻し周囲を観察する
ギャラリーには[裁く者]が、座ってこちらを見下ろしている
「天宮」
不意に拓也が天宮に耳打ちして、ある一定の場所を視線で指し示した
釣られるように視線を向け、緊張する
(竜義!!)
丁度入り口から真っ正面のギャラリーが、ガラス張りの個室になっており、さしずめVIP席という所か
目的の人物が其処にいた……
「竜義……真代…」
脚を組み、一人掛けの白いソファーに腰掛けて、見下す様な冷たい視線を向けている竜義と、傍らに立つ真代
「これは×2、凄いセットにビックリだ♪」
平然と言い放つ拓也に周囲からバッシングが飛ぶ
竜義に対しての無礼な態度を説いたものが主な内容だった
(お厚い信仰心だこと♪)
拓也は、動じた様子も無く肩を竦めたのみで天宮に手招きする
天宮もブーイングの中、ソロソロと拓也の側に行く
「島中、招待した割には随分な歓迎じゃないか」
すると真代がマイクを取る
「静まりなさい、貴方達」
一喝され、一気にギャラリーは静まり返り再び沈黙へ包まれた。細く通る声の威圧に、誰も逆らわない
(さーすが♪良く手懐けてあるな)
感嘆を漏らしながらも、呆れた風にも見えた
「他の奴らはどうした?」
今度は竜義が口を開くと、天宮の表情が心なし歪んだ
拓也はあっけらかんと
「来ないよ」と言い放つ
「来るワケ無いっショ?現実離れし過ぎた空想に付き合っちゃくれないよ!招待には『全員』とは書いてなかったし?♪」
挙げ足を取るような態度に真代が紅潮する
「なっ、口を慎みなさい!!片野拓也!」
「構わない。黙っていてくれ、真代」
それを逆に竜義が制し、真代も渋々引き下がる
「片野、君で充分だ。これからゲームのルールを説明する」
「!」
「あぃよ」
拓也だけが平静な態度を変えぬまま、話が進んでいく
「ゲーム内容はバトル形式で行なってもらう」
「対戦相手は?」
「こちらから、追って連絡するよ」
淡々と交わされていく会話
「時間は無制限。相手を気絶、もしくは……殺せば試合は終了となる」
「ちょっと待ってっ!!」
聞き捨てならない単語を耳にして、慌てる天宮は会話に割って入ると、竜義の視線がこちらを見た
「殺すって……どういう事?!殺し合いじゃない!」
「そうだよ、殺し合いだ」
アッサリ肯定する竜義の冷静さに、絶望する
「……に、ソレ‥‥」
「死ねば闇が食らって死体は片付けてくれる。気絶した場合も、生きる見込みが無い者に対しては闇の餌になってもらう」
「つまり……気絶、仮死状態の場合は闇には飲まれない?って事?」
拓也も相変わらずの態度で会話を進めていく
「ああ」
それを見ていて、天宮から一筋の涙が伝う
「な、にソレ…‥‥何それッ!!全然解んない!
急にこんな事になっちゃうなんておかしいよ!殺すとかシャレになんない事、簡単に言わないでよッッ!!」
興奮して、怒りと涙で紅潮していく顔を今は構ってられなかった
止められない感情
「‥‥‥尚、相手を庇い、わざと敗北を望む様な事があれば、こちら側が判断したと同時に、庇われた者を闇に喰わせる。
これについては否応無しに受理する」
天宮を無視して平静な態度を崩さぬまま、竜義の説明は続いた
息を乱すほどの訴えすら相手にされなかった天宮は、愕然と目を見張る
傍らに洋一郎が肩を抱いてくれたがショックは拭えない
(どうして……?)
「片野、期待しているよ。……それと…‥‥」
竜義の視線が、拓也から天宮に移動し、その姿を捉えると……
「えっ」
おもむろに天宮の身体が宙に浮く
「ええぇっっ?!」
狼狽える天宮に、表情を強張らせる洋一郎と、流石に顔色を変えた拓也
何かを察したのだろう。
咄嗟に天宮に腕を伸ばしたが…――
一瞬の差で、竜義が口を開く方が早かった
「目障りだよ……」
次の瞬間
「?! キャ…っ」
バンッっ!!
「ツッ …フぐッ…!! ぅ…あ……はァ… ぁ、うぅ…」
天宮の身体は、勢いよく壁に飛ばされ叩きつけられた
叫ぶ余裕も無く、小さく呻いてズルズルと壁から床に落ち蹲る天宮に、二人は驚愕し慌てて駆け寄った
「天宮!」
「高林ッ!!」
竜義は無関心に立ち去ろうと背を向けた時、天宮を伺っていた拓也がゆっくり立ち上がり、静かにその背を呼び止めた
「なぁ?コレはお前のシナリオ通り?」
竜義はチラッと振り返り、ニヤリと整った表情を綻ばせる
「……でなければ今、君達は此処にいないだろう?」
「お休み」と告げて、今度こそ竜義は立ち去って行き、真代も黙って後に続いた
同時に、体育館内のギャラリー共々闇に包まれ、気が付くと三人を残していつもの光景に戻っていた
「ま、幻?」
動揺しながら辺りを見回す洋一郎に、拓也は肩を竦めて見せただけ
「天宮、無事か?……ケガは?」
洋一郎が介抱している天宮を、覗きながら尋ねてみたが本人はグッタリとしたまま気を失っている
「骨に、は……異常無さそうだ。それに私の能力もある」
洋一郎は腕の中の天宮を見下ろしながら、自分の右手首の黒いブレスレットを見つめた
「能力?」
拓也は訝しげに首を傾げて洋一郎の右手を取り、
「何ができんの?」と聞いた
ニコリと笑った洋一郎はその手を、天宮の腹の上辺りにかざす
「なになに♪ヒーリング?!俺、初めて見た」
大抵の人間が初めて経験、目にすることだろう
興味津々な拓也に洋一郎は呆れる
「よく言う。これは裁く者には特殊能力として備わってるモノだ。知っているくせに……」
拓也は肩を竦めただけ
「センセは、裁かれる者のはずだけど?」
理解していてわざとらしい質問に、非難めいた視線を送る
「このブレスレットから発される治癒は相当なものだが、私に与えられた理由を考えると複雑だな」
「あ、何だ♪知ってたんじゃーん」
拓也は意外そうに洋一郎を見返した
洋一郎も拓也を見てから、ムスッと顔をしかめて言う
「お前……色々質問しておきながら全部把握しているじゃないか。もしかしたら高林が傷付く前に対応できたんじゃ……」
洋一郎の疑惑の眼差しは怒りを含み、拓也を睨み据えた
拓也は慌てた様子も無く首を左右に振って
「とーんでもない♪」と否定する
「ンな怖い顔しないでぇん♪いくらオレでも天宮の攻撃は不意討ちだったし」
ふざけるのを半分に抑え、
「為す術なし!」と苦笑いして言い訳する
洋一郎は責めるだけ無駄と諦めて、話題を戻した
「闇の力を作り出せる王か……とんでもないな」
うんざり肩を落とす洋一郎に拓也は、その肩に腕を回し
「まあまぁ」と慰める(?)
手を払い除けながら、改めて拓也に疲れ切った顔を上げる
「お前、悠長に構えている場合じゃないぞ?今後犠牲者は増加する。確実に!
私の力は、怪我を負った者を回復して再び試合に参加可能にする為の根回しだ」
「うん、予想はしてた」
やけにアッサリ肯定して頷き、
「よっこらしょ」とジジ臭い掛け声で立ち上がり話を続ける
「センセはゲームに直接参加はしない。ならナンデ残されたのか?」
淡々と語る内容が容易に想像がついて、洋一郎は険しい表情を隠すように俯き、腕の中の天宮を見つめながら拓也の言葉を聞いた
居心地が悪い
「闇の裁く者が何度でも酔狂なゲームを楽しむ為のパーツ。いわばオモチャの修理屋、オレたちの医者ってワケだな。
全部死ぬわけじゃない。しかし怪我を負ったままではいつかは闇に消える。
裁かれる者がいなくなる事、=(イコール)ゲームプレイヤーがいなくなり成立しなくなる日が訪れるのは、時間の問題。それを少しでも永くさせる手立て……それが先生の存在理由。
愉しみが無くなるのは困るモンなぁ」
皮肉めいた視線は良いものではなく、むしろ気まずかった
洋一郎が渋々顔を上げる
「治療は怪我をさせる為の登竜門ってトコだね♪」
目が合った拓也は、いつもの空気に戻って相変わらずの態度でおどけていた
「治療したくなくなるよ」
…溜め息
拓也は全開で笑い飛ばす。
「無理ムリ!」と指を振ってみせた
「気の滅入る事言わないでよ♪どーせ怪我人を目の前にして放っておける性格じゃないじゃん♪」
視線の先は天宮
「現に説得力ないしぃ」
ニヤニヤして皮肉る声に、洋一郎は何も言えなくなった
図星だ
「悪い事じゃないし落ち込むトコじゃないでショ?むしろ良いセンセ!(笑)」
拓也に言われても複雑なだけ
その心境を察してか、拓也はもう一度しゃがんで天宮の頬に静かに触れる
「……誉め言葉だよ。そんなんだから島中は先生を選んだんだ。適格者であり…‥‥オレに近しい存在の持ち主だから」
天宮を見つめる瞳はひどく優しくて
「片野」
『近しい存在』
それが何なのか、当人同士は理解し合っている
洋一郎も黙って聞いているしかなくて
と……それが不意にこちらを振り向く
動揺して目を泳がす洋一郎に拓也は、気にした風もなく告げた
「仕方ないっショ?センセは保健の先生なんだから♪ケガ直すの仕事だしぃ」
至極当然の言葉に呆れ、話題を変えた
「島中はどこまで闇を把握してるんだ?」
洋一郎の質問に拓也は目を細めた
「なんでオレに聞くの?」
「お前に言わなきゃ誰に聞くんだ?
裁く者に武器を与え、学校を闇で孤立させた。相当な労力だろう?……私だってブレスレットの補助があっても結構疲れるのに、あいつは使い放題だ」
「だから奴は王サマなんだって」
拓也はげんなりした様子だった
「まぁ、そうなんだけど。ただ島中の力は巨大だから比較にならないだろうが。
私が言いたいのはつまり、その選定から逃れ、裁く者の権利を放棄してしまえる片野は、裁く者以上の力があるんじゃないのか?」
洋一郎の視線が探りを入れてくる
しかし、拓也は一瞬だけ目を見張っただけでクスリと嗤う
「さぁってね♪」
(はぐらかすか…)
洋一郎は拓也の反応からこれ以上の詮索を諦める
そうこうしてる内に、天宮の治療を終え、彼女の体を抱えたまま立ち上がって歩き出す
拓也が質問した
「終わったの?」
「保健室に連れて行く。道は通じてくれるだろう?」
「ふーん……オレも行こ♪」
保健室に着くと、ソコにはすでに先客がいた
「なんだ?お前」
先に入った拓也の声に、天宮を背負った洋一郎は訝しげにヒョイっと顔を覗かせ驚愕する
「?!」
目を見張った次の瞬間、悲鳴を上げた
「うわぁぁぁっっ!」
天宮を落とさなかっただけマシか。ピョンっと後に飛び退く姿はなんとも情けなく、マヌケだった
振り返って一挙一動を眺めていた拓也の、呆れたような視線など気にしてられない様子で指を差す
「ねっ、猫!!ネコがッ……で、でかいぞ!!」
そうなのだ。保健室の先客は、通常より数倍でかい白い毛並みに赤い目の猫。
お座りしてこちらを見ていた
「デカイ、ッつっても虎よりちっこいジャン」
あくまで冷静な拓也の言葉に洋一郎は声を荒げる
「ひっ、比較がおかしいだろう?!」
普段、冷静な洋一郎の珍しい一面に拓也は察する
「‥‥‥。先生さぁ、『ネコ』苦手なの?」
別に、からかうつもりは無く素直な感想を口にした
むしろ怯え方に同情すら覚える
「ッ」
一瞬、言葉を詰まらせたのが答えを示していた
図星
(やっぱり……)
拓也は、納得して深い溜め息を吐きながら改めて猫に向き直る
「真っ赤な目のネコなんていないッショ。お前何?」
動物相手に聞いたって、応えるはずは無い質問に、洋一郎も猫を恐る恐る見直してきた
「‥‥‥」
「…その上さぁ……」
「いっ」
拓也の続く言葉に習うように、猫の背後で揺れる太くてバカ長い尾
拓也は肩を竦めて洋一郎を一瞥
「胴体より長い尻尾とデカイ耳、こんな猫いる?ついでに…――」
「ワシは闇の造成物。
お前らの監視と伝言を請け負う。以後、見知っておけ」
かなり偉そうな口調で告げたのは拓也ではない
「ぎゃあああっ!猫がしゃべったぁぁぁッ!!」
洋一郎の絶叫
「――…ついでに、話もできる、ちょっぴりお利口なただのネコデスよ、セーンセ♪」
拓也はニッコリしてみせた
目の前の猫モドキの生き物から発せられた声は案外かわいらしい
……じゃなくて
「な、な、なんでそんなに冷静に構えてられるんだ?!片野っ」
せっかくのハンサムな顔を思い切り歪め、天宮を抱え直して拓也を問い詰める
「センセったら面白い顔させちゃってぇ♪
まず世界は広いんだから受け入れなきゃー」
相変わらず受け流された
「からかうな!どこがタダの猫に見える?!お前が先に言ったんだぞッ」
「えー、皆の憧れの保険医ともあろうお方が差別ぅ?かわいいネコちゃん、可哀想」
拓也はおどけてみせながら洋一郎をあしらった
「‥‥‥」
洋一郎もやっと学習したのか、諦めたように脱力
(だから猫じゃないっ…)
拓也は洋一郎で遊ぶのも飽きたのか、猫モドキ(?)に興味を戻す
「で?俺たちに用があるんショ?」
「当然だ。用があるからわざわざ来てやったのだ。有り難く思え」
「はは… 」
(なんてふてぶてしい態度なんだ)
拓也は空笑いし、洋一郎は憮然とした表情を浮かべた
「GAME開始宣告だ」
その一言に、二人の空気が緊迫する
「さすがに目付きを変えたか。明日、午前10時に最初の試合を開始する」
「本気か?!こんな事、無意味だろうっ」
洋一郎が反発したが猫モドキは赤眼を細め尚も続ける
「選手は木ノ下 美紀、そして……高林 天宮」
「!」
洋一郎の顔が引きつったが、拓也は冷静だった
「第一試合から天宮かよ。島中ってば何考えてんだ?」
深刻性もなく平然と呟きながら、洋一郎の背中の天宮に視線を向ける
洋一郎も心配そうに肩越しに天宮を振り返る
まるでこれからの事を予測しているかのように
「ワシからこの事を伝えても良いが、お前から伝えた方が何かと都合が良いだろう」
と視線は洋一郎へ
ソレに対して拓也も何かを察したのか、洋一郎を見て納得した様に頷いた
当の本人は自分に視線が集中している事に気が付き、目を瞬くが無視された
「あーはいはい。オレから伝えてやるよ。
ホントならお前が直に言った方が信憑性が高そうなんだけどね、事の重大さを自覚してねーようだし。
でもこれ以上の混乱は勘弁だ」
つまり、そういう事なのだ
混乱は避けたい
ネコがしゃべる‥‥充分異常だ
「この闇の中にいれば私生活に問題は無いはずだ」
おもむろに告げた猫(モドキ ←しつこい)の言葉に、拓也と洋一郎は顔を見合わせる
「私生活?」
(充分、非日常に巻き込んでおいて、私生活も合ったもんじゃない気がするが)
と言うのが一般の意見
「闇の中にいる以上、特別な事でも無い限り、喉の渇きや空腹を感じることは無く、外部摂取を不要とする」
「そういえばお腹減らないね」
「!?」
洋一郎でも拓也でもない声が応え、一瞬二人は互いを見てから、揃って天宮に視線を向けた
洋一郎の肩越しに、ぱっちりとした双眸が開いて、猫をジッと見ていた
「天宮、いつから目を覚ましてたんだ?」
「んーとね…『ネコがしゃべったー!』ってトコ」
「大半じゃねーか……」
拓也はクシャクシャと頭を掻くと、肩を竦め呟いた
天宮は
「へへへ」と笑いながら洋一郎の背中から下ろしてもらう
まだ覚束ない足取りだが、洋一郎に支えられながら足を着く
「大丈夫か?痛むところは?」
洋一郎に気遣われ、体を動かし
「大丈夫」と答え、猫を見下ろす
「私、天宮」
自己紹介のつもりなのか、しゃがんだ途端、名乗る天宮に猫の方が戸惑いを見せる
この奇妙な生物に対して臆することもない態度はある意味尊敬に値する
「知っている」
憮然としながら猫は応えた
拓也は面白い物でも見る様に見物に至る
「だから私は天宮なの」
しつこく繰り返す天宮に、猫は困惑した
「だから知っていると言っているだろう、何が言いたいんだ?」
苛立ちながら質問すると天宮も諦めたのか、台詞を替えた
「じゃあキミは?」
は?
つまり猫の名前が聞きたくて、回りくどい言い方をしたらしい
一瞬、三人(?)は目を見開いた
闇の造産物に名などあるわけがない。そんな事は洋一郎も拓也も、勿論ネコも分かり切っているだけに、天宮の質問は異様に感じた
洋一郎が何か言う前に猫が答えた
「ワシは闇に造られた物、名など無い」
「そうなの?不便でしょ?」
天宮は意外そうに目を見張る
「いや、別にそん… 」
「私がつけてあげるよ!」
猫の話などお構いなしに、天宮は宣言した
「なっ」
三人は仰天するが天宮は暴走中
ご満悦の様子だ
「闇のネコさんだからー…『ヤッコ』ちゃん!かわいいね」
「ぶっ」
「ンなッ… 」
「‥‥‥‥」
聞いていた拓也はその名を聞くや否や吹き出して笑い転げ、洋一郎は目を点にする
『ヤッコ』
一番驚いているだろう本人(猫)はすっかり固まってしまっている
「ヤッコちゃんだって!ヤッコ!!その面でヤッコちゃんっ イケるぅー!!」
腹を抱え遠慮もなく爆笑する拓也はともかく
「だっ、誰がヤッコだ!!
そこ、笑うなッ!指を差すんじゃない!!」
我を取り戻して慌てて訂正しようと抗議する猫、ヤッコだったが
「決ーまり!」
大満足で天宮は立ち上がり宣言!
聞いちゃいない……
一度決めたことは覆さない
そんな頑固な性格を最も把握している拓也は、泣き笑いながら
「無駄無駄」とヤッコに向けて手を小さく振り、
「諦めろ」と告げた
ヤッコは愕然とした様子で俄かに肩を落として去って行く
長い立派な尻尾も、心無し弱々しく地を引きずられていた
(なんか哀れだったなぁ)
そんな背を見送りながら洋一郎は同情の眼差しを送ってしまう
先ほど怯えてしまった事が申し訳ないと反省してしまうくらいに
拓也はまだ、笑っている
天宮も上機嫌だ
(高林、話を聞いていた割に明るいな……)
むしろ、違和感を持つ
聞いて無いはずは無いのだ
『第一試合』の宣告を……