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闇の目醒め

9月30日


いつものようないつもの日常…放課後


この日、明穂小学校には、まだ時間潰しをしたり、倶楽部・スポーツ少年団などで、生徒や教師そして、近日行われる学祭の企画の話し合いの為に6学年の生徒全員が残っていた


「ではクラス会は以上の事を孝慮して行ないます。

くれぐれも協調性を乱す行動は控えて下さい。

……以上で終わります」


児童会長であり6年4組学級委員長を務める

『島中 竜義』


彼は小学生とは思えぬ雰囲気を持っていて、教師でさえやり込めてしまうところがあった


整った容姿と優秀な頭脳、運動神経が良くて金持ちと理想的な環境の彼には同じクラスに血の繋がらない同い年の姉がいる



黒板に書いたものを写す彼女、副委員長を務める

『島中 真代』


長い髪をポニーテールにした美少女で、彼女もまた小学生にしては異質で沈着冷静を絵に描いた様な優等生だった



そして、この二人の幼馴染み


彼らも別の意味で目立つ人物達で



『高林 天宮』


『片野 拓也』



天宮は前向きで明るく表情豊かな少女。

目を引く容姿ではないが愛らしくて腰まで垂らした長い髪をツインテールにして青いリボンで結んでいる


クラスの中心になってしまうくらい存在感が強く、時には彼女の意見は竜義を凌ぐ事さえあった


そして拓也もまた然り


一見軽そうにしているが、スポーツは万能で実は頭も良い。積極的に活動する事は滅多に無く、大体は突っ走り気味の天宮のストッパー役だが、その意見はいつも正しい道に導く為、一目置かれていた(面倒くさがりが玉の傷)


悪童顔は真面目にしてればさぞ整っている



3年前まではいつも4人一緒に行動し笑っていた


……しかしある事件以降、4人は4人ではなくなっていった


先に離れたのは竜義。

そして真代が付いていく


それを繋ぎ止めようとする天宮を制したのは拓也だった







(楽しみだなぁ♪学祭……れ?なんか外暗くなってき…えッ?)


帰り支度を始める中、ふと外の異変に気が付いて声を上げる天宮


「外、ヘンっ!!」


皆がおかしなコメントに注目した


「何言ってるんだ?」と呟きつつ、つられる様にして窓の外に目を向けて絶句する


学校の敷地を囲うようにして広がっている漆黒色の霧


運動場までは何もないのに校門を隔てた外側が何も見えないくらいの『黒』一色なのだ


運動場にいた生徒達も動揺を隠せない様で、校舎に行く者。混乱して残っている者。それぞれだ


しかし異常には気が付いているのか誰も校門の外、つまり霧には近づかなかった


勿論、教室にいた者達は窓にへばり付いたまま動けない



しかし動揺する生徒達の中動じない者がいた


「‥‥‥」


竜義と真代は無表情のまま並ぶ


「見事に真っ黒だなあ♪」


そして能天気に呟く拓也の横で、天宮は不安な面持ちだった


胸騒ぎがする



焦っているのは生徒以上に職員達だった。臨時放送が入り、残っている生徒は各教室に待機、職員は緊急会議が開かれた




「闇、どんどん濃くなってない?」


「毎日通ってる通学路だぜ?前が見えなくたって家に帰れるさ」


「だ、だよな!ただの霧だろ?!」


それを切っ掛けにクラスが騒然となり始める


「でも白くないよ?」


霧本来の彩を天宮が静かに指摘する


拓也と真代、そして竜義が視線のみを向けた


……が、気が大きくなった生徒達は次々に勝手な行動に移りだす


「大丈夫だって!帰ろうぜ!!」


煽る者


「先公なんて待ってられっかよ!」


反発する者


「ねぇ、校門までは霧無いじゃん!行ってみない?」


好奇心。むしろそれが不思議な事に気が付いていない


「ちょっ、待って!待機って言われてたじゃん!怒られるよっ」


焦って制止する天宮の声を聞く者はない


拓也が

「放っておけ」と投げ掛けたが天宮の性格上、見過ごせなかった


この謂われもない不安は何なのか、自覚は無い


(無意識に警戒してるんだな、さすが天宮♪)


天宮はそれでも何とかしようと確実に皆を制止できるであろう人物を目で捜す


「りゅっ、ぎ?……はぇ?(いない……)」


先程まで居たはずの姿が今は無い


「‥‥‥」


拓也から表情が消える。何か感じているのか?


(やーっぱ、やるんだな……仕方ない事だとは思うケド天宮を納得はさせられないぞ?)


「拓也、竜義がいない」


天宮が拓也の裾を取り、注意を引く


「ンー?島中姉もいないぜ?とっくに」


答えた時にはいつもの愛想の良い穏やかな表情に戻っていて何食わぬ顔


「えッ」


天宮は目を剥いて拓也の言葉を確かめる様に教室を見回した


二人の存在は無い


(いつの間に……)


でも心配はしていない。あの二人に限って無謀な行動は起こさないと知っているから



しかし、闇の鼓動が脈打ち始めた事、そして竜義に起きている異変に天宮はまだ気が付いていない

「どうしたと言うんだ?」


緊迫感に包まれている職員室


1人の職員が蒼白な表情で受話器を持ったまま立たずんでいた


「電話だけじゃなく携帯やインターネット、とにかく外部の通信機器の全てが効かなくなるなんて……」


「コンピュータは正常に活動してます。電気も正常なのにテレビは映らない」


「こんな事、在り得ないだろう?」




その頃、学外では?


「見てください!明穂小学校を突如襲った謎の黒い霧!!一体この現象は何なのでしょうか?!」


テレビリポーターが興奮して話している周りで、野次馬が群がっていた


「その中には未だ100名近くの生徒が閉じ込められているとの情報です。私達以外の報道関係者、そして学校に閉じ込められた親族の方々が続々集まっているようです」


「専門家によると、この霧は自然現象では在り得ず、このような集まりを見せるモノは異常とのこと。しかし性質も不明で、まだ誰も中には突入していません」



おかしな事に内側と外側では霧の状況に矛盾が生じていた


内側から見た霧は校門の外に渦巻いているのに、外側からだと校門の内側に霧が溜まって敷地を包んだ状態になっているのだ


勿論互いに状況を知らないので、その矛盾に気が付いている者はない


一部を除いて


「外はどうなっているのかな?」


「ねえっ 先生が外に出てるよ!門の外行っちゃった!!」


その声に、再び窓にへばり付いた生徒達の視線の先、3・4人の職員が霧の中に消えて行く


見守る全員



………―――

ザワッ


数分経っても、行った者が帰ってくる様子がない


「ねぇ遅くない?」


痺れを切らしたのは外の者達も同様だったらしい


一緒に来て残っていた職員が、彼らの命綱を引き始めた……が、その先は千切れていた


「‥‥‥」


その時の職員達の動揺は見て取れた



「何あれ?いないじゃん。どうなったわけ??」


「先生どうしちゃったの?!」


「そ、外に出られたんだろ?」


「やだっ!いなくなってないよね?!」


最初のうちは、子供独特の習性から好奇心が先立っていたものの、流石に不安と恐怖に駆られ始めてきた様だ


既にパニック状態の生徒達を制止するには限界だった


「だからダメだってば!」


入り口を立ち塞いで皆を諫める天宮を、生徒達は口々に反論した


「だっておかしいだろ?!」


「行った人が帰らないなんて変よ!」


「邪魔すんなって!高林だって黙って待ってて無事でいられる保証はないだろっ?なら無責任に止めるなよ!」


天宮も困ってしまう


「う……で、でもっ…だからこそ危険かもしれないのに?!」


(あれまぁ困り果てちゃって……こういう時の雑用係(委員長)様はドーコ行ってンのかね)


傍観を決め込んでいた拓也の視線の先、天宮の塞いでいた教室のドアが外側から開かれた


皆が一瞬沈黙し、視線が集中する


天宮もゆっくり振り返った


「竜…」


「何、騒いでるの?放送を聞いていなかったのか?教室に待機していろと言われただろう?煩わせないでくれないか?」


天宮の背後には竜義が静かな表情で立っていた


この何とも言えぬ威圧感に、騒いでいた連中は緊張で固まる


そんな中、拓也が飄々と前に出た


「お前ねぇ、この忙しい時にドコ行ってン?むしろお前の行動が今のセリフに矛盾してるだろ?」


天宮を手伝いもしなかった拓也が文句を言うのもなんだが、思っても竜義相手に暴言を吐けるとしたら天宮と、この拓也くらいである


「職員室に現状の報告を伝えてきたのよ。各クラスに誰が残っているのか把握しておく為に」


竜義の後ろから答えた真代に、拓也は

「なーるほど」と納得した


「それと全員体育館に集合だそうだ」


竜義の言葉に皆が一瞬目を見張る


あまりに唐突な事に皆が困惑した


「は?」


拓也など呆れた様に呟く


「お前ぇー、煩わせるなって脅しておいてさ……先言えよ。皆、戸惑っちゃうだろ?」


「とにかく体育館に移動してくれ」


竜義はあくまで淡々とした態度を変えないままだった


(わっがままぁ)


これは天宮と拓也の意見改ページ


校舎に残っている生徒・教師、全て体育館に集められた


「落ち着いて聞いてください。現在、霧については何も分からない状態です。だから不容易に霧の中は突破できません。外からの救助を待ちます。決して校舎から出ないように」


校長が持つマイクの手は震え、表情も強張っていた。他の職員も緊張し、顔をしかめて蒼くなっている


(やっぱり霧に入った先生達は居ない。帰ってきてないんだよね……)


ブルッ…


天宮は回りを見ながら自分が見たあの光景を思い出して震えた


千切れた縄。戻らなかった教師達。変わらぬ闇……


校長の話には居なくなった教師達の話は一切出てこない


(なんで隠すの?)


益々不安は煽られた


「やっぱ帰れないンじゃん!」


「救助ってそんなにヤバイの?!」


「夕飯は!?」


「オレ塾あるのにっ」


「ンな事、言ってる場合か?!」


次々に不満の声が上がって騒然となる中、教師達はそれを制す者、宥める者、泣き出す者と様々だ


(結局、生徒と変わらないって事だよな。しょせん同じ人間♪不安は誤魔化せない)


そう言って口元を緩ませたのは?


そんな中、静かに壇上に上がって来る1人の生徒


誰もがその姿を目で追う


ザワめきは別のモノへと変わった


(竜義?)


戸惑っている校長を尻目に島中竜義はニコリと笑って、持っているマイクを丁寧に奪い、生徒達に向き直る


校長も唖然として、成されるままにマイクを渡してしまい竜義の横顔をマジマジ見つめた


素直に従ってしまったのは恐らく竜義から醸し出される有無言わせぬ雰囲気に圧倒された為


皆が注目する中、動じた様子もなく竜義は口を開いた


その堂々たる姿はまさに上に立つ者の貫禄を身に纏っている


……否、威圧感か?


「お静かに。これからゲームが始まります」


「ゲーム?」


「こんな時に?」


(竜義?……何言ってんの?)


天宮を含め彼の言動に当惑する


「島中、何を言ってるんだ?」


教師達も動揺している


だが止めるに至らなかったのは、相手が竜義であったからだろう


「簡単な事ですよ。

裁きを与える(裁く者)と裁きを受ける(裁かれる者)2つの種に分かれ退屈を凌ぐんですよ」


言われている事が理解できなかった


(退屈凌ぎ??)


天宮も訳が分からないと混乱する


「何バカな事を!」


「こんな時にふざけるのも大概にしなさい!」


流石に怒りが飛ぶが、竜義は態度を変える様子もない


むしろ無視して話を進めていく


「これからのゲームについて強制参加してもらう」


一瞬、壇上の竜義と目が合った気がしたのは気のせいか?


「強制?」


「なお、裁く者のメンバーはこちらで勝手に選ばせてもらった」


(えっ、そーなの?!)


「いつの間に」と思う中、周囲の様子に違和感を持つ


みんな……?


何故か天宮と拓也を除いた6年4組の生徒達がぞろぞろと竜義のいる壇上へ上がって行くのだ


「へっ?!えっ…あ、み、みんな?!…な、何、どうしちゃったの?!!」


慌てる天宮の声に誰も答えない


天宮にだけじゃない。他の声にさえ反応しなかった


この疑問を竜義が解決してくれた


「彼らは、裁く者の契約者になった。闇によって決定された選ばれし者だ。

そして、突然ですが……先生方、アナタたちの教育方針とは何なのか?」


「何?」


突然の質問


応えるより先、竜義が続ける


「そして、それが僕達にどれほどの利益をもたらすのか?」


「‥‥‥利益?」


教員達は狼狽えるばかりだ


「ストレスだけを与えられても困るんですよ、期待は重圧しか生まない。理想は絶望を育てていく。そんな物は望んでいません。アナタたちの役目は今現在を以て剥奪します」


ゆっくりと細められていく目


「ごきげんよう、先生…‥さぁ…」


竜義から薄笑いが浮かんだ

それは天使の笑顔の……悪魔




「やべっ」


(なにが起きるの?)


状況が把握できない天宮は惚けていた


その手を、珍しく慌てた様子の拓也が握って怒鳴らんばかりに天宮の名を呼ぶ。今迄にない位に真剣な表情で


「天宮ッ 走れ!!」


「へ?」


従うより先、拓也によって体は引っ張られ出口に向かわされていた


困惑する天宮


「どっ、どして…」


なされるがまま引っ張られながら聞くと、前を走る拓也が叫んだ


「闇に喰われるからだよッ!!」



思いもよらぬ返答に天宮は目を丸くした


その時、背後で聞こえた…



「『さあ、闇のGAMEを始めようか……』」


竜義の静かな声が頭の奥まで響いた


これが合図




ドクンッ!!




「え…」


次の瞬間、振り返って視界に見たモノ


ソレハ……―――






「ぎゃあああぁぁぁっ」


「たッ、たすけ…ひいぃい!!?」




「な、に…」


体育館を飛び出しても拓也は脚を停めない


「拓也!!止まってよッ!皆が……みんなが!!」


天宮は動揺しながら叫んだが拓也は従わない


「今は忘れろ!巻き込まれるっ」


「何に?!なんでっ」


天宮は訳が分からないと叫びながら改めて振り返る


自分達の後ろからは同じように間一髪で逃れた生徒達が必死の形相で駆けて来ていた


そして逃げ遅れた者達は、行く手を阻まれ次々に体育館内で闇に飲み込まれていく


幾つもの叫びだけが、未だ響き続けていた


視界の中の闇は、体育館内を覆い尽くして


悲鳴だけがこだまする


「た、拓也!!」


恐怖で声を震わせる


「聞くなッ……今は走れ!」


先頭を走る天宮達はそのまま別棟の教室までやってきていた





壇上を除いた体育館内は闇に包まれ、何人もの人間が消えた中、平然とした竜義達


むしろ愉快そうに見えた


「竜義様、片野拓也は裁く者では?」


真代が疑問を投げ掛けると竜義は細く笑んだ


「ああ。流石、片野か……うまくいかない。

でもシナリオ通りだ、問題ないよ。彼らがあちら側でなければ面白味に欠ける。さぁ邪魔者は片付いた、そろそろ行こうか」




「ハァ…ハァ」


天宮は息を整えるので精一杯なのに一緒に走っていたはずの拓也は息の乱れすらない


「ま、ココまでくれば食事には巻き込まれる心配はなーし!」


拓也は天宮の手を解放して体育館が見える窓を覗いた


外観的には変哲ないその中で行われていた恐怖の洗礼


拓也はドコまで識っていたのか?


「た、たく…や?」


拓也はおもむろに振り返って天宮より先を見る


「アイツが来る」


「?」


天宮はつられて体を起こしながら振り向くが、いるのは一緒に逃げてきた生徒達だ


(いない、よ?)


同じ様に息を乱して膝を着いている者、震える者、泣く者


拓也は生き残った(?)者達の確認をする


(裁く者はオレと天宮以外の4組連中。

そして生き残りは、幸い体育館の入り口付近にいた6学年だけか。運が無かったな……

ンで教師で残れたのは湯川か。あの島中がよく大人を見逃したもんだ)


唯一の職員

『湯川 洋一郎』(24)


養護教諭、中肉中背のハンサムで女子に人気があり穏やかな性格でかなり生徒の信頼もあった人物だ

拓也は洋一郎に近づき、暫く会話をする


会話するにつれ、拓也は少し驚いた風に目を見張った


その様子を見ながら天宮は別の事を考えていた


(霧が学校を包んでからおかしくなった。真代も拓也だって……そして)


「ひゃっっ?!」


突如、背後から伸びてきた腕に羽交い締めにされ、天宮から間抜けな悲鳴が上がる


「高林っ?!」


声に驚いたのは洋一郎だけで、拓也は天宮の方を見直して平然とした様子で腕を組む


「掃除、終わった?早い到着だな」


視線は、天宮と羽交い締めする人物も越えた所へ、向けられている


「…――島中」



びくんっ


拓也から告げられた名前に反応したのは天宮


近づいてくる足音。そして三人の前で立ち止まる


「竜義!」


思わず、姿を認めるなり怒りが込み上げ、その名を叫んでいた。

本当なら飛び掛かりたい衝動もあったが、しっかり捕まえられていて適わない


ジッと見つめてくる視線は拓也を無視した


「逃げられるとでも思うの?……天宮」


冷ややかな視線を向けた竜義に、すかさず反論する


「竜義からは逃げた覚え無いもんッ! 竜義おかしいっ!真代も皆も!!」


こんな状況でソレだけ憎まれ口を叩ける度胸は大したものだが、本人には全くダメージが当てられている様子は無い


(考え無しなトコは、いっそ清々しいなぁ♪天宮は)


そんな事を思いながら、二人の間に割り込む拓也


「てっきりピカピカに一掃しちまう気なのかと思ったンだけどー?

ゲームするつもりあったワケ?逃げ遅れたなら容赦なく喰わせるつもりだったろ?」


「クス… どうせ君が動くことは想定範囲だ。最低人数くらい生かしてくれると信じていたよ?」


「それを一般に、他力本願っつーんダヨ」


淡々と交わされていく会話


「ケホっ …い、つ……」


そこに締め付ける力が強かったのか、痛みに顔を歪める天宮に気が付いた


「放してやったら?」


拓也は竜義に向かって提案する


主犯を熟知している証拠


「……離してやれ。

‥‥片野、あまり調子に乗るな。どうやって闇の選定から逃れたかはともかく、いつだって僕の意志で闇に下せるのだから」


途端に不機嫌になった竜義の、射貫く様な視線を向けられても、飄々とした態度は変えない


「肝に銘じておきますよー」と苦笑いするのみ


「‥‥‥」


天宮は解放されて洋一郎に庇われる様にして腕の中に滑り込む


「竜義がやってるの?」


「ああ。聞いての通り♪」


質問にオウム返しに頷く拓也


天宮は改めて竜義を睨み据える


「竜義… 」


「天宮、僕はいつも考えていたんだ。人間の傲慢と無意味な存在。見直すべきだったのさ」


「?」


一般の小学生レベルの天宮には理解できる内容ではなかった


「つまり何をする?」


洋一郎の声にも僅かな憤りが見えた


「……人間狩り」


「ッ」


「馬鹿げてる!」


そこに怒鳴ったのは、解ってないはずの天宮


「‥‥‥」


でもソレを無視し、竜義は拓也に向き直る


「片野、君が一番理解があるようだから伝えておこうか。闇から各々に武器を与える。それまで解散だ」


「武器は?」


「……すぐ届く」


そう言って竜義は、幾人かの取り巻きと共に姿を消した





竜義が消えて、茫然と立ち尽くす彼ら



「!」


不意に『ナニ』かに気付いて自分の手を覗く


「コレなに?」


闇色の球体。それは天宮の物で、見渡せばここに居る者達全員に同じ色の異なる物が握られていた


困惑してる様子から、天宮のようにいつの間にか現れた代物らしい


短剣だったり、長剣だったり、いかにも武器といった物がほとんど


「コレで何するの?」


武器と言うには頼り無さすぎる自身の球を見つめながら、拓也へ近寄った


「ゲームだろ?」


拓也は闇色の十字架のネックレスにキスをして、見上げる


拓也の物も武器と言うには程遠い代物で……


「拓也はどこまで知ってるの?」


流石に鈍い天宮でも拓也の違和感には気が付いた


竜義と対等に話をして、先を見透かしている様な余裕の態度、言動


何カヲ知ッテイル


でも拓也は微さく笑っただけで応えなかった


(はぐらかした)




教室内には自分たちに与えられたそれぞれの武器を見せ合う者

←まだ状況を深刻には考えていないのだろう


泣きじゃくっている者

←混乱して思考がついていかない


怒る者

←上に同じ


武器に恐怖

←現実逃避




まとめられない状況で、洋一郎が何人かの生徒に囲まれて宥めている


「帰れるよね?」と言う言葉に、不容易に頷く事はできなくて、困った笑顔を向けている


不安にさせたくなくても無責任な事は言えない。洋一郎の生真面目さが見えるようだった


(優しいっつーよりは、お人好しだねー♪先生ぇ)


拓也は闇に侵されていない周辺をトコトコ歩き回り、何かを確認するかの様に窓や壁を叩いたり、入れる教室に向かったりしては洋一郎へ話し掛けていた


忙しそうに考えながらも行動に制限はない


止める洋一郎や拓也を振り切って、闇に我慢できなくなった者達、数名が逃げ出した


勿論、戻って来るはずも無く、後を追うようにまた数名が廊下に飛び出したが、今度は、拓也は止めなかった


その代わり、よく通る声で告げる


「行きたいなら行け、ただし保障はしない。ここは既に学校であってそうでない別の空間に支配されている。見ろ」


落ち着き払った様子で皆を促すと、横の教室の扉を開け放つ


皆が驚愕した


中は見知った教室では無く、混沌とした歪んだ空間。闇がマーブル状に渦を巻いていた


恐怖で息を飲み込む生徒達、と天宮


「このように不容易に近づいたり侵入したりすると闇に食い殺されるぜ?それでも良いなら、どうぞお好きに♪」


「無事な空間もあるけど」と加えたがそれ以上勝手な行動を起こす者は無かった



また教室に缶詰


ただ拓也は、相変わらずジッとしていない


そこへ天宮が話し掛けてきた


「拓也、コレも竜義がやってるの?」


不安な表情で横に並ぶ天宮に苦笑いが漏れた


「ああ」と頷いて、頭を撫でてやる


「アイツは支配者だかんなぁ、思うがままだ。アイツが許可すれば校庭だって出れるよ」


「武器みたいの渡して……何がやりたいの?」


「天宮やオレのは形が異なってるよな?お世辞にも武器とは言えない」


とネックレスに触れ、天宮の球を見る


天宮はにわか、仏頂面をして球を見つめた


「私、剣や鉄砲みたいに人を傷つけそうなのはいらない」


「‥‥ソレ使い方は?」


「なんとなく分かるの、不思議だね」


本人だけは自武器の扱いが把握できるようになっている


つまり、逆を言うなら他人の武器は扱えないという事だ


(よくできてら、ついでにこの武器じゃ裁く者には無効化されちまうんだろうしなぁ)

お前等幾つの設定だよ!…と言う厳しいツッコミは痛いので許してください

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