『ファウルボールにご注意を』【一画面小説】
雨の予報が外れてくれた。傘というものは、空の広い範囲を占めてしまうので困る。打球が見づらくなるのは、我々の仕事にとっては厄介であるからだ。
プロ野球の公式戦では、一試合で平均40球のニューボールが使用されている。これは、ホームランやファウルの打球が、観客席に飛び込むことにより、回収が困難であることが一つの理由とされている。ホームランボールは、様々な記念になるということもあり、ファンの気持ちを思うと回収は難しい。
近年、その硬式球の値段が上がりつつある。ボールを作るための革、その革を頂戴する牛自体の値段が上がっているのである。そういった経済的な課題の解決に向け、運営機構から民間業務委託されたのが、我々『ファウルボール回収業者』である。
我々はファンに限りなく近い格好をしているため、一目で業者と見抜かれることはまずない。各打者のファウルの傾向をデータで確認しつつ、カウント毎に飛ぶ可能性の高い席にいる回収員に連絡が入る。企業努力の賜物か、我々の業者がファウルを取り損ねることは滅多にない。ほぼすべてのファウルを、我々が確実に捕球し、回収している。
ほぼ、といったのは、今まさに飛んで来るフライを無我夢中に追う目の前の野球少年のような、子どもが捕りに来た場合は、個人的に譲ることにしているからである。