第9話 驚愕の真実値
第9話 驚愕の真実値
くちびるの端を曲げて、狂犬が近づいてくる。
「追いかけてきちゃったよ……あれ、相沢泣いてる? もしかして俺のせい?」
「いいえ。なにかご用ですか?」
相沢がかたい表情で答える。
蜂矢、おまえなんかに泣かされるほど彼女は弱くないよ。
そういってやりたい。腹の立つほど自意識過剰なやつだ。
彼女の背負っている哀しみは、俺らの想像を超えるほど重いのだ。
「ご用ってほどじゃないんだけどさ。なんか気になってな」
『相沢、相手にするなよ。なにかあったら、すぐに逃げろ』
いくら蜂矢でも真っ昼間になにかしてくるとは思わないが、念のために警告しておく。
ちいさくうなずく相沢の前で、蜂矢が仁王立ちになる。
「地味女だったくせに意外に大胆だな。堂々と学校サボってさ。先生に目をつけられるぜ」
「それはあなたも同じでしょう。放っておいてください」
相沢が顔をそらす。
「ふうん、気が強いんだな」
「わたし帰ります」
「待てよ」
蜂矢が乱暴に彼女の腕をつかんだ。
「痛っ」
「男子のあいだで噂になってるぜ。告白してきたやつに点数つけているんだって? 同じ質問しているんだろ。俺にも訊いてみろよ」
そんな噂が……。あまりに告白してくる人数が多いとは思っていた。
女友達との雑談中のこと。
交際を断った理由を問われた相沢が、あの人は真実値が何点だったからと、正直に話したことがある。もちろん、計測器を使ったことは伏せて。
それを面白がったのだろう。ゲーム感覚で告白してきていたやつも多かったということか。妙に真実値が低かったのも合点がいった。おそらくはこいつもそうだろう。
「誤解です。別に点数をつけているわけではありません」
腕を振りほどこうとする相沢。だが蜂矢がしっかりつかんで離さない。
「いいから試せよ!」
こんな野蛮なやつの真実値が、足切りラインをクリアできるわけがない。
相沢も心得ているのだろう。ふっと息を吐いた。
「ではひとつ質問をさせてください」
気乗りしなさそうに眼鏡を取りだす。
そして、面倒臭そうな調子で手順どおりの質問をした。
「あなたは命を懸けて、わたしを愛せますか?」
ヘラヘラと笑う蜂矢は、慇懃無礼な態度でお辞儀した。
「もちろん。いざとなったら代わりに死んでやるぜ」
いかにも嘘くさい答えだ。
どう回答するかで、点数が決まると誤解しているのだろう。でもそうじゃない。計測器は、回答者の心をのぞくのだ。
その人間がどれくらい真実を述べているか。それを彼女は計る。
でもそれは、二度と後悔したくないから。
ゲーム感覚で点数をつけているわけではない。
(けっ、嘘つきめ。さっさとフラれてしまえ)
ピッ、と判決の下る音。
真実値の最低記録を更新するんじゃないか、なんてことを思っていたのだけれど。
「えっ!」
ぎょっとしたように、相沢の目が見開かれた。信じられないという表情だ。
「しっ、真実値……九七っ?」
『な、なんだって! そんなっ』
蜂矢がペロリとくちびるをなめた。
「なに、もしかして最高得点? 俺すごくね?」
雨足が強くなった。信じられない。相沢のパートナーが蜂矢に?
それこそ嘘としか思えなかった。




