第8話 彼女が嘘を嫌いな理由(ワケ)
第8話 彼女が嘘を嫌いな理由
生活をともにしていたこの十数日。雑談に応じることはあっても、けっして過去は語らなかった相沢。その秘密が明かされようとしていた。
河川敷で膝を曲げた相沢が丸い石を拾う。
「わたしの故郷は、この地球と似た美しい惑星です。でも、そこでは世界じゅうを巻き込んだ大規模な戦争が起きていました」
相沢が空を仰いだ。
いつのまにか、空には灰色の雲がかかっていた。
あの雲の遥か先に、故郷の惑星があるのだろうか。
彼女の表情は、この位置からではみえない。
「戦禍の炎は留まることを知りません。そのうち、法律を破って他の惑星に脱出する人が増えてきました。故郷に愛着のあったわたしの両親も、ついに腹をくくりました。そして、地球への移住計画を進めはじめたのです」
平和な日本では、想像もつかない世界だった。
「ところが、ある日、敵側の軍隊に住んでいた街を襲撃されました」
白い手のひらの上で、石がころころと遊ぶ。
「室内にいても、銃撃の音が響きます。十歳のわたしはただ震えていました。両親はわたしを連れて、隠しておいた宇宙船にわたしを乗せました。両親は先に乗れといいました。絶対にすぐあとに乗るからと……」
ふいに相沢が小石を宙に放った。
打ち上げロケットのように飛んだ石が、パチャンと川面に波紋を作る。
「ひとり分の食糧しか準備できなかったと理解できたのは、ずいぶんあとになってからです」
十歳の女の子を乗せて、宇宙船は出発した。太陽系の青い惑星を目指して。
「前に話したことがあったでしょう。新しくできた島にバルーニングで移動したクモ。あれは、わたしと同じです。ほかの仲間も来ると信じて……」
ぽつりぽつりと空が泣きだした。
「嘘は嫌いです」
雫を弾く葉のような、凜とした表情。
でもその中身は、触れると崩れそうなほど脆かった。
『相沢……』
「わたしたち、似たもの同士ですね」
そういうと、十歳の少女のような顔で、淋しそうに笑った。
胸が締めつけられた。
俺はなんてちっぽけな悩みで苦しんでいたのだろう。彼女はそれよりつらい状況でも、歯を食いしばって戦っていたのに。
八本も足がある今も、支えてあげられない。
やせてとがった肩を抱きしめたい。それすら叶わない自分の姿を呪う。
そのとき、闇を射貫く閃光のようにはっきりと悟った。
(ああ、俺は彼女に惹かれている!)
なにか声をかけようと思ったとき、河原沿いの道路から軽い声が降ってきた。
「足が速ぇな。河川敷に来てたのかよ」
相沢がびくりとして振り返る。
そこに立っていたのは、クラスの一危険な男――蜂矢だった。
――挿絵:炎と街
イラスト:けすこ




