第5話 華麗なる変身
第5話 華麗なる変身
ざわざわっ……。
相沢が教室のドアをくぐったとたん、場の空気が一変するのを感じた。
クラスメイトの好奇心に満ちた視線が一カ所に集まる。
「え……誰? あのかわいい子」
「転校生かな。でも先生、そんな話してなかったよね」
そんな会話が洩れ聞こえる。
俺は内心ほくそ笑む。まさに狙いどおりの反応。
外来種――今までのクラスには存在しなかったもの。誰もが彼女に注視している。
だけど誰もその正体に気づけない。
無理もない。変身していく過程をみていた俺だって信じられないほどなのだから。
先週まで岩に張りついた海藻のようだった髪は、ツヤツヤのストレートに。分厚い眼鏡はコンタクトに変えさせた。
たったそれだけで驚くほど化けた。
もう奇抜な女子ではない。前を横切るだけで良い香りまで漂ってくるような清潔感。マンガのヒロインになってもおかしくない。
相沢は少し緊張したように、指先をぴんと伸ばして歩いている。
そのとき誰かが気づいたようだ。
「もしかしてあの子って、相ざ……」
「えっ、まさか? 嘘でしょ」
そのまさかである。
相沢が着席した瞬間、教室に激震が走った。
「えええええ――――っ?」
その日一日、相沢にはスポットライトが当たり続けた。
休み時間になるたび、机の周囲に人だかりができる。矢継ぎ早に投げられる質問に戸惑いつつも、相沢は楽しそうにみえた。
異質なものは集団から弾かれる。やはり孤立している生徒には声をかけづらい。
身をもって体験している俺にはわかる。
男子はまだ積極的にしゃべりかけてこない。
だが慌てることはない。まだ獲物を捕らえる網を張ったところだ。
『いいか、助言を忘れるなよ』
「笑顔ですね。合点承知っ」
臨機応変に、男子とも気楽に話せるようになるのがベストである。でも相沢は知識に偏りがあるし、変な対応をしてしまえば逆効果。
だから視線の合った相手に微笑むことだけを徹底させた。
名付けて『えっ、ひょっとして俺に気があるの?』戦法である。
そしてはやくも数日後。
俺の方針が正しいこと、それが証明される瞬間がやってきた。
――挿絵:ビフォア&アフター
イラスト:けすこ




