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嘘つきヒーローと恋の値  作者: 守賀透
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第1話 ぼっちの俺、巨人女と出会う

表紙:『嘘つきヒーローと恋の値』

イラスト:けすこ

挿絵(By みてみん)


第1話 ぼっちの俺、巨人女と出会う


(ここはどこだ?)


 ぼんやりとした意識で、俺はまずそれを思った。


 身体がビリビリしびれて、腕一本動かせやしない。

 どうやら長い時間気絶していたみたいだ。


 すぐ近くからモーターの低くうなるような音がかすかに聞こえる。

 高校から帰宅し、コンビニで晩飯を買うために外出。友達ゼロのボッチにふさわしく、河川敷のちいさな石橋の下でマンガ雑誌をめくっていた……はずなのに。

 今、天井から降り注ぐ淡いオレンジの光は、街灯のそれと明らかに違う。


 どこだよここ、状況をはやく確認しないと。


 そう頭の隅で思うが、視界も思考もぼんやり。

 全身の力を抜いて、プールにたゆたうように知覚がフワフワする。


 身代金を狙った誘拐か?

 でも犯罪者のお眼鏡にかなうほど裕福な家庭ではないし。


 妄想ストーリーを創作しているうちに、だんだんと記憶がよみがえる。


(そうだ、思いだしてきた。橋の下でマンガを読んでいたら……音がしたんだっけ)


 とても奇妙な音だった。



 カサカサカサ。



 枯れ葉をこすり合わせるような異音。


 だからマンガを読むのを止めて……。


 ケータイの明かりを、おそるおそる頭上に向けたのだった。


 そこで――アレを目撃した。

 いや、目撃してしまった……というべきだろう。


 石造りの橋の裏側。その一部が、血痕のように黒く変色していた。

 奇っ怪なことに、その巨大なシミの輪郭がぷるぷる震えている。


(あっ!)


 その正体に気づいた俺は総毛立った。


 それは無数の虫の集まり。


 まるでホラー映画の一幕だった。

 節のある八本の足をキチキチとたくみに使い、やつらが蠢いていた。

 悪夢のような光景にぷつぷつと肌が粟立つ。

 百匹、千匹? 数え切れない。


 俺は絶叫した。



(そうだ。あのとき逃げだそうとして……)


 つるりと足を滑らせて、地面に頭を打ちつけたのだった。

 意識がはっきりするのに応じて、視界がクリアになる。


(それで結局、ここはどこなわけ?)


 巡り巡って、出発地点に帰ってくる。

 すべての記憶を取り戻しても、現状の説明がつかない。


 俺は慎重に周囲をみまわした。


 不思議な部屋だ。目の前には透明の壁がある。

 素材はガラス……いや、アクリルか?

 その向こうには、数え切れないほどのモニター。丸みを帯びた機械からは、コードの束が、まるで絡み合うパスタのごとく伸びている。まるでSFの世界だ。


 いちばんイメージに近いのは宇宙船。でも、現実にそんなものあるわけがないし。


 これって、まだ夢?

 とても現実世界とは思えないんだけれど。


 そのとき、はるか頭上から大声が降ってきた。


「目覚めました? よかったです。記憶データの移行は無事に済んだようですね」


 急に声をかけられてびっくりした。そして声の出所をみた俺はさらにびっくりした。

 驚きのあまり声がでない。


(きょ、巨人女っ?)

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