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有澤浩二の心霊事情  作者: 豚骨ラーメン
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夢か現か幻か

「やっぱり塩だよ。有澤くん」

「このまえファブリーズが効くってネットで見ましたよ。」

「よく聞け、『びっくりするほどユートピア』と叫びながら全裸で…」


 アルバイト先で昨晩に遭遇した幽霊の件を話すと、その場にいた面子が口々に有効な除霊方法について教えてくれた。真偽はともかくとして、この手の話はみんな大好きだった。正直自分でも悪い夢だっんじゃないかと疑っているのだが、コンビニのスタッフルームでの話のネタとしては悪くなかった。


「そう、あれは20年前ぐらいだった…」

 とうとう店長が中年男性特有の自分語りをはじめてしまった。

「妻を残して長期の出張の帰りだったんだがね、外から家を見るとカーテンに2人分の人影が見えるじゃないか。慌てて家に駆けこんだが妻しかいない。こりゃ見えないはずの何かを見てしまったのかと慌てて塩を撒いてね。そしたら外から走り去っていく足音が聞こえるんだよ。いやー不気味だったね」

「へぇー不気味ですね」

 人間知らない方が幸せな時もある。心の底からツッコミたいがここはぐっとこらえる。これ以上の悲しい一人語りを阻止するため後輩に話をふる。

「ファブリーズって初耳なんだけど、そんな消臭感覚で除霊できるの?」

「ファブリーズだけじゃなくてバルサンとかでも効果あるらしいですけど…でも自分で言っておいてなんですけどネットの噂っすよ?信頼できます?」

「だよな」

 会話の合間を狙ってフリーター仲間の山内が強引に喋りかけてきた。

「いいか、これはネットの某掲示板のスレで偶然発見された除霊法でな、両手で自分の尻をしばきながら…」

「じゃ、俺時間なんで」

「おいっスルーかよ!」

「お疲れ様」

「お疲れ様っした」

「お先に失礼します」

 有澤浩二と書かれた名札を制服から外しながらスタッフルームから逃げ出した。


 そんな話をバイト先でしていたせいで、帰りによったスーパーで殺虫剤コーナーのバルサンがおいてある棚の前でつい立ち止まってしまった。

 効果なんてあるわけない…いや、でもひょっとしたら…

 煙にまかれて涙目になりながらせき込む幽霊を想像してにやけてしまう。バルサンに手を伸ばそうとした時、後ろから声をかけられた。


「ちょっと、うちのアパートはバルサン禁止だよ、火災報知器が反応しちまうからね」

 大家さんだった。さっぱりとした性格の短髪の似合う女性だ。

「あ、すいません」

「どうした?Gでも湧いたかい?」

「いや、えっと…はい、何匹か」


 夢か現実かあいまいだった事もあり、部屋に幽霊がでました!と素直に言うのはさすがに躊躇した。さらに除霊のためにバルサンを購入するという行為がもう理解してもらえる気がせず、昨晩みた光景を大家に伝える気にはならなかった。


「あいつらどこにでも湧いてくるからねぇ」

「いやホント困ったもんですよ」


 しかし好奇心がふつふつと湧き上がってきた。自分が退治しようとしている幽霊の正体は何者なのだろうか、何となく想像はできるが。


「そういえば大家さん、俺の部屋って訳ありって言ってたじゃないですか」

 大家さんの動きがピタリと止まった。真剣な表情になり、声のトーンも低くなった。

「そうだね、ちょっと事件があったね。」

「いえ、何となくですけど気になって」

「前は知りたくないって言ってなかったっけ?」

 確かに言っていた。霊的な何かを全く信じていなかった訳ではないが、当時は知らない方があれやこれや思い悩まずに済むと考えて、自分から聞きたくないと話を遮ったのだ。


「そうなんですけど、やっぱり実際に住んでると気になってしまって」

「知りたいというならこちらは教える義務があるけどさ、私個人としては何となくぐらいだったら知らない方が良いと思うんだけど」

「あ、だったらいいです」

 真剣な表情に気おされてしまい、つい言ってしまった。

「そう、じゃ、害虫駆除ぐらいならいつでも相談にのるよ」

 大家はそう言うとお酒売り場の方へと消えていった。


 結局正体は不明のままだが、十中八九前の住民が首を吊ったとかそこらへんだろうとおぼろげに予測はしていた。ただそれでは最初に感じた違和感の説明がつかなかった。

 そもそも現実かどうかも怪しいのだ、悩むだけ損だろうと考えながらバルサン売り場から離れ、ファブリーズを買い物カゴに放り込んだ。


 

 


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