初遭遇
突然だが、首を吊っている女性を発見した。
場所は自宅、時刻は丑三つ時、7月の蒸し暑い夜だった。ふと目を覚まし天井に目をやるとそれが視界に飛び込んできた。
首をがっくりと落とし、体はわずかに揺れている。首からは縄が伸び天井に繋がっている。黒髪ロングのストレートにワンピース姿。こちらに背を向けていて顔は確認出来ない。誰?何故?斬新な空き巣?詐欺?一瞬で脳裏に様々な単語や考えが浮かんでは消える。
女性に縁のない人生に加えボロアパートに一人暮らし、どう考えても女性に部屋で自殺される覚えはない。混乱する頭がこれはアグレッシブな保険金詐欺のような何かであると結論付けようとした瞬間、女性のからだが透けているのに気が付いた。喉に息が詰まり、声も出なくなる。全身に緊張が走り背筋が凍える。
幽霊だ、正真正銘本物だ。
心当たりはあった。というか訳あり物件であるという事は契約の際に大家から説明は受けている。毛布に潜り込みたいが今夜は熱帯夜であり無用な熱源などすでに遥か彼方に蹴り飛ばしている。なす術なくベッドの上で震えていると、宙づりの体がゆっくり回転し顔を向けてきた。
目と目が合う。幽霊らしい生気のない冷たい表情でこちら見下ろしてくる。どうしようもない恐怖と同時に違和感のような感覚を覚え,気が付けば強引に寝返りをうち顔をそむけていた。
幽霊に背を向けて目を閉じる。そして今どうするべきか必死に考える。どうにか現状を打開しなければ、とても寝る事など出来ない。そうなれば明日のバイトに寝坊して遅刻する可能性さえある。どうしたものか…そういえば…キッチンに塩があるが…くっ意識が…
目覚まし時計で目が覚めた。余裕で眠れた。驚くほど快眠だった。