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特技

 小春は午前中の講義を終えて学食でランチを摂っていた。窓の外には小雨が降り続いている。

(梅雨明け、待ち遠しいなぁ)

「何でそんなに待ち遠しいの?」

(だって、梅雨が明けたら夏だろう! 夏と言えば海! 海、行きたいよなぁ)

「何だか不純なことを考えているでしょう!」

(不純なことって何だよ!)

「夏になったら研究室のみんなと海に行きたいとか思っているでしょう。目的はみどりんとハナちゃんの水着姿ってところでしょ」

(小春、お前なぁ。俺のこと、良く解っているなぁ)

「やっぱりそうなんだ。いつもの事だけど、ハルってホントにバカでスケベだよね」


「早川さん、相変わらず独り言を言っているんだね。ここ、座らせてもらっても良いかな?」

 突然高梨洋一に声を掛けられた。

「あっ、高梨先輩! どうぞ、どうぞ。急に声を掛けるからビックリしちゃいましたよ。先輩はいつも気配を消して近付いてきますよね」

「ああ、驚かせてゴメン。気配を消しているつもりは無いんだけどなぁ。でも、早川さんも窓の外を眺めながら独り言を言っているのは、ちょっと危ない子みたいだよ」

 高梨は優しげな笑顔で小春を見ていた。

(高梨先輩って優しそうな笑顔をするんだね。みどりんはそんな所に惹かれているのかな?)

(そうかぁ?そんなに良い笑顔かなぁ?)

 小春はハルの見解を無視して、高梨との会話に戻った。

「えー、危ない子じゃあ無いですよぉ」

「ハハハ。この前の警察からの依頼、吉岡から聞いたけど、早川さんの大活躍で解決したらしいじゃない。凄いね!」

「たまたまですよ」

「河村教授も言っていたよ。この前の件もだけど、諏訪湖の時も、着眼点がすごく良いって」

「そうなんですか? 何だか嬉しくなっちゃいます」

 その時、小春は背後に華やかなオーラを感じて振り返った。

「あっ、みどりんだ!」

「驚かそうと思ったのに~。気付かれちゃったよ!」

「みどりんには無理ですよ。すごいオーラを出しているから、すぐに気付きますよ」

(ホント、高梨先輩とは大違いだな)

(高梨先輩はいつも気が付かないものね。この二人が付き合っているなんて、信じられないよね)

「早川さんは僕が声を掛けるといつも驚くよね。僕ってそんなにオーラ無いかなあ」

「えっ、そんなことは……」

「ナイナイ、高梨先輩はオーラなんか全く無いですよ」

 みどりがハッキリと言った。

「ひどいなぁ」

 高梨が落ち込みそうなので、小春は話題を変えた。


「高梨先輩とみどりん、待ち合わせしていたんですか? 私、もしかしておじゃまですかね?」

「何を言っているのよ。こんなに可愛い小春が邪魔なわけがないでしょう」

 みどりはそう言いながら小春に抱き付いてきた。

「ハナちゃんでしょう? 私と高梨先輩が付き合っているのをバラしたのは」

「付き合っているって聞いたとき、ビックリしちゃいましたよ」

「そうだよなぁ、誰だって僕とみどりが付き合っているなんて信じられないよね……」

 高梨がまた落ち込みかけた。

「あっ、今さりげなく『みどり』って呼んでいましたよ。普段は『みどり』って呼んでいるんですね。みどりんは先輩のこと、何て呼んでいるんですか?」

「えー、そんなことはどうでも良いよ!」

 みどりが照れている。小春は目をキラキラ輝かせて追い討ちをかけた。

「やっぱり『洋一さん』とか呼んでいるんでしょう」

「そんな呼び方していないよ!」

「えー、じゃあ何て呼んでいるんですか? 教えて下さいよぉ」

 小春は甘える様にみどりの腕に抱き付いた。

「どうでもいいじゃない……『ようちゃん』って……あーん、恥ずかしいなぁ」

「『みどり』『なあに、ようちゃん』って感じですか? 何だか良いなぁ」

 高梨とみどりは顔を見合わせ照れていた。

「どうやって知り合ったんですか? 大学で知り合ったんですか?」

「小春、しつこいぞ!」

 みどりが頬を赤らめながら言ったが、今日の小春はそれぐらいではひるまない。

「えー、だって聞きたいじゃないですかぁ! 教えて下さいよぉ」

 小春はしつこく甘えた。みどりも小春の甘えには弱いようだ。

「しょうがないなあ。ようちゃんは私が高校生の時の家庭教師だったのよ。私は女子校だったから、まだ男の人に免疫が無かったのよね。だから家庭教師のようちゃんがカッコ良く見えちゃったのね」

「高梨先輩は?」

「みどりはあの頃からスタイルは良いし、美人だったからね。僕なんかダサいとか言われて相手にされないと思っていたんだ。だけど、わからないものだね。みどりから告白されてね」

「みどりんから告白したんですか! それで付き合っちゃったんですか?」

「それがね、ようちゃんが『大学に合格するまでは恋愛は禁止だよ』なんて言うのよ。おかげで、この人は良い人だって思い込んじゃったよ」

「高梨先輩カッコイイ!」

 高梨は照れて下を向いたままだった。しかし、みどりは小春の秘密に触れる話しを始めた。


「そんなようちゃんがさぁ、真面目な顔で私に言うのよ。『やっぱり入試の時の子は早川さんだと思う』って」

 小春はまずい話になったと思ったが、とりあえずトボケル事にした。

「入試の時の子って?」

「入試の時に、左手で解答を記入しながら、右手で問題用紙に絵を描いていた子がいたんだって。そしてその子が小春だったと思うって言うんだよね」

(小春、前にも言われていたよな)

(うん、あの時は何とかごまかしたけど……。まだ疑っていたんだ。どうしよう?)

(正直に話せる事じゃないからな)

(何とかごまかすしか無いよね。よし!)

「前にも高梨先輩に言われました。その時は違うって言っちゃったんだけど……。実はあれ、私の特技なんです」

(えっ、認めちゃうのかよ! ヤバくないか?)

 ハルは心配したけれど、みどりの反応は心配する必要は無さそうだった。

「すごいじゃない。私もそんな特技があったらなぁ。でも、何で違うなんて言ったの?」

「ごめんなさい。私、高校生の時には『不思議ちゃん』扱いをされていたんです。だから変な特技を持っているとまた『不思議ちゃん』扱いになっちゃいそうで……。それでつい、嘘をついちゃいました」

「あら、そうだったの? 大丈夫だよ。私は小春のことをそんな風に扱わないから!」

「でも、周りの人には言わないで下さいよ。変な目で見られるのは嫌ですから……」

「うん、わかったよ。絶対に言わないから。ようちゃんも人に話したらダメだからね!」

「ああ、わかった。誰にも言わない。約束するよ」

「良かった。ありがとうございます」

(何とかごまかせたな)

(うん、良かった)

(さすが、遺伝的嘘つきだな。お見事!)

(嘘に遺伝なんか無いって言っているでしょう!)

 小春とハルはほっとしていた。



 上手く誤魔化したと思った小春とハルだったが、それだけでは済まなかった。目をキラキラと輝かせて、みどりが言う。

「小春さぁ、その特技をやって見せてよ。ね、お願い。どんな感じか見てみたいの」

「ダメですよ! こんな所でやったら、人に見られちゃいますよ」

「じゃあ、家に来ない? ね、それなら大丈夫でしょう」

「みどりんの家に?」

「ようちゃんの家でも良いよ。その方が近いね。そうしようよ」

「なんで僕の家なの?」

「良いでしょ! ようちゃんはもう見ているんだから。あと、ハナちゃんも呼ぼうよ」

 みどりは小春の答えを待たずに中津川波奈に電話をしている。

 小春が特技を高梨の部屋でみどりと波奈に見せることは、確定事項になってしまった。

(何かヤバくないか?)

(ヤバイかも! だけどハナちゃんには見せたくないとは言えないし……まあ、何とかなるんじゃない?)

(何だか無責任な言い方だな。何とかしろよ!)


 波奈と待ち合わせて、高梨の部屋に入った。きちんと整理された部屋だった。

 波奈は遠慮なくあちこちを見回して言った。

「高梨先輩、きれいにしているじゃないですか。みどりんが掃除とかしているのかな?」

「私はそういうのは苦手! ようちゃんは得意みたい」

「得意じゃないよ! みどりがやってくれないから自分でやるしか無いじゃないか」

「なにそれ! 女は家政婦じゃ無いんだからね!」

 などと言っていると、波奈は小春をベッドに押し倒して言った。

「ねぇ、二人はここでこんなことや、こんなことをしているの?」

「ハナちゃん、やめて! あっ、ダメ、ダメですよ~」

「ハナちゃんずるいよ! 私も小春とねる~」

「二人ともやめて下さいよぉ。高梨先輩、助けて下さいよぉ」


 ベッドの上でひとしきり戯れた後、みんなで小春の特技を見ることになった。

「ようちゃん、紙と鉛筆と問題集を用意して!」

 高梨は従順な下僕となって、みどりの指示に従っている。そんな高梨を見て波奈が言う。

「高梨先輩はみどりんのどこが好きなんですか? やっぱり身体ですかね?」

「そんなこと無いよ! あれで結構優しいところも有るし、可愛いんだよ」

「この前の合宿の後はどうでした。男性陣が伊香保でストリップ見に行った時の……。こんな格好で『私と美貌の舞姫のどっちが良いのよ』とか言われた?」

 波奈がセクシーポーズで聞いた。

「ハハハ……」

 高梨は笑うしか無かった。

(ハナちゃんのセクシーポーズは良いねえ。小春も見習えよ)

(……………)

 小春は自分のセクシーポーズを鏡に映してハルに見せている光景を想像していた。何故か小春の顔は真っ赤になっていた。

「なにをバカなこと言っているのよ! 用意出来たよ。小春、始めて」

 小春はみどりの声で我に帰った。


「はい、では始めます」

(ハル、始めるよ)

(オッケー)

 ハルは左手で問題の解答を紙に書き始めた。同時に小春が絵を描き始めた。

 その光景を見ている三人は瞬きを忘れる程驚いていた。まるで合成処理をした動画を見ているようだった。

 小春が萌え系の女の子を書き終えて言った。

「終了~。こんな感じですよ」

「小春、すごいじゃない!」

「絵も可愛いし……」

「解答も完璧だよ! 早川さんすごいね」

「これを動画サイトにアップしたらきっとうけるよ」

「ダメですよ! 絶対にダメ!」

(ヤバイ話しになってきたな。何とかしてくれよ!)

「そんなことしたら……私……」

 小春は目に涙を貯めている。その涙が流れ落ちた。

(涙だ! 小春は涙を自由に出せるんだ。すごいな!)

(話し掛けないでよ、集中しているんだから)

「冗談だよ。小春、泣かないで」

 みどりが小春を抱きしめた。

「そうだよ! ジョーク、ジョーク。高梨先輩も絶対に他人に言ったらダメだからね!」

「解っているよ。早川さん、絶対に秘密にするから……」

「絶対ですよ!」

(女の涙はすごいな!)

(涙は女の武器だからね。泣けない女は女じゃない!)

(もう、すごいって言うよりも怖いよ!)

「みどりん、いつまで小春を抱きしめているのよ! 今度は私の番だからね! みどりんには高梨先輩が居るでしょう。高梨先輩と抱き合っていなよ!」

 波奈はみどりから小春を引き離して抱きしめた。

「ハナちゃん……苦しいよ~」

 ピンチを乗りきった小春だったが、またしてもピンチが訪れていた。波奈の腕の中で手足をバタバタさせて苦しんでいる。

「ハナちゃん、小春が苦しんでいるよ!」

「そんなことはないよ! ほら、手足をバタバタさせて喜んでいるよ」

「ハナ……ちゃん……、死ん……じゃい……そう……」


 小春の特技披露も無事に終わり帰宅した。

(何とかごまかしたな!)

「ちょっと危なかったけどね。あれで納得してくれたかな? 高梨先輩はかなりこだわっていたから……」

(確かに高梨先輩は要注意だな。入試の時に見られていたのはまずかったよな)

「うん、最初に聞かれた時には驚いたよ。先輩も多重人格の研究をしている訳だからね。注意しないとね」

(そうだよ、注意しろよ! 後、ハナちゃんやみどりんにも気をつけないと……)

「そうだね、気をつけます」

(それと……)

「まだ何か有るの?」

(ハナちゃんやみどりんみたいなセクシーポーズの練習! やって見せてよ)

「ばーか! やるわけ無いでしょ!」

(じゃあ、俺が胸を触ったら、ハナちゃんやみどりんが触った時に言う『ダメですう』みたいな声! あれだけでもやってよ)

「やりません!」


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